第1部 第16話
 
 
 
あの日から・・・春美ちゃんの彼氏の宮崎さんと会った日から、
つまり、春美ちゃんに湊君を紹介した日から1ヶ月。

最初は私の気のせいかと思った。

でも、やっぱりおかしい。

校内で、湊君と春美ちゃんが話しているのをよく見かけるようになった。
それに反比例するかのように、春美ちゃんが、宮崎さんのところへ行く回数が減った。

湊君の私に対する態度は変わらない。
金曜の夜は、相変わらず遅くまで学食でしゃべるし、
平気で「また遊びに行きましょうねー」とか言う。

私の湊君に対する態度も、春美ちゃんに対する態度も変わらない。

ただ、あの日私の胸の中に現れたモヤモヤは、消えることなく今もくすぶっている。





「春美ちゃん」

私が部屋の扉をあけ、中にいる春美ちゃんに呼びかけると、
ベッドに寝転がって携帯をいじっていた春美ちゃんは、慌ててベッドから起き上がり携帯を閉じた。

「は、はい!何ですか?」
「あ・・・うん。春美ちゃんと私、今日、お風呂掃除の当番だよ?」
「あ!ごめんなさい!忘れてました!すぐに行きます!」
「うん」

春美ちゃんは、携帯を枕の横に・・・私からは見えない方に置くと、
急いで私へ向かって歩いてきた。

「行きましょう、亜希子さん」
「うん」

私と春美ちゃんは並んで廊下を歩いた。

お風呂掃除の当番は部屋ごとの担当で、2ヶ月に1度ほどやってくる。
2ヶ月前も、私と春美ちゃんはお風呂掃除をしに行くために、
こうやって並んで廊下を歩いた。
ううん、お風呂掃除以外の時も、よく一緒に歩いていた。

そういう時、どんな会話をしてたっけ?

そんなことを考えることができるくらい、私と春美ちゃんは沈黙していた。

私は、「さっき、湊君にメールしてたの?」と、聞きたい。
でも春美ちゃんは、そのことを聞いて欲しくない。

お互い、相手の考えていることがわかっているので、
逆に、それ以外の会話ができない。


どうしてこんなに春美ちゃんと気まずくなっているんだろう。
いいじゃない、湊君と春美ちゃんが仲良くしたって。
春美ちゃんも、何もコソコソすることないのに。

そりゃ、春美ちゃんには宮崎さんという彼氏がいるから、
宮崎さんに対しては申し訳ない、という気持ちが生まれるのは仕方ないにしても、
別に私に対してコソコソする必要はないんじゃない?

私も気軽に「最近、湊君と仲いいね」とか「湊君のこと、好きになったの?」とか言えばいいじゃない。
どうしてそう言えないんだろう。


私と春美ちゃんは、お互い黙ったままお風呂掃除をし、
それから別々に部屋に戻った。
あまりに沈黙が痛かったので、私が「用事あるから」と言って、
わざと遅く帰ったのだ。


そして、その翌日。
ついに決定的な出来事が起きた。

「あの・・・亜希子さん」

夜、私が部屋で勉強していると、バイトから帰ってきた春美ちゃんが私に声をかけた。
春美ちゃんから私に話しかけてくるなんて、最近じゃ珍しい。

私はできるだけ明るく返事をした。

「おかえりなさい。どうしたの?」
「あ、ただいま」

なんだかひどく動揺している。
何かあったんだろうか。

春美ちゃんはそれからしばらく悩んでいたけど、
ようやく心を決めたのか、口を開いた。

「さっき、湊君と、」

湊君、という言葉に胸が一瞬、ドキリと音を立てる。

「・・・うん」
「湊君と・・・偶然会って、」
「うん」

また春美ちゃんが口を噤み、視線を落とす。
でも今度は私が待ちきれず、春美ちゃんを促した。

「湊君が、どうかしたの?」
「・・・湊君に・・・告白されました。ずっと憧れてた、って」
「そう」

私は机に視線を戻した。

「・・・どうしよう」

春美ちゃんが呟く。

「どうしよう、っていつものことじゃない。
春美ちゃんが告白されるなんてしょっちゅうでしょ?」
「・・・」
「今まで通り、彼氏がいるからって断ったら?
それとも、宮崎さんより湊君がいいなら、宮崎さんと別れて湊君と付き合えばいいじゃない」
「・・・」

春美ちゃんは、静かにベッドに腰を下ろした。

「亜希子さんは・・・いいんですか?」
「何が?」
「私と湊君が付き合っても」
「ええ?」

私は苦笑いして振り返った。

「いいも悪いもないわよ。関係ないもの」
「・・・そうなんですか?」
「うん」
「亜希子さん、湊君のこと好きなんじゃないんですか?」
「好きよ。私から見れば、湊君は春美ちゃんみたいな感じだし。弟、みたいな?」
「・・・本当に?」
「本当、本当」

私は椅子から立ち上がり、春美ちゃんの横に座った。

「でも、湊君と付き合うなら、宮崎さんのことちゃんとしないとね」
「・・・はい」

春美ちゃんが、涙声で頷く。


人の心って不思議だ。
春美ちゃんと宮崎さんは本当に相思相愛で、あんなに幸せそうだったのに、
2人が重ねてきた1年という時間は、春美ちゃんと湊君の出会いで一瞬にして崩れ去った。
そしてその出会いは、私が作ったようなものだ。

・・・いや、もしかしたら湊君は最初からそれが目当てで、私に近づいたのかもしれない。
湊君は春美ちゃんのことを、海光一の美少女で知らない人はいないって言ってた。
バレーの試合の時、私に「友達とか誘ってもいいですよ」と言ったのは、
春美ちゃんを連れてきて欲しいという意味だったんだろう。
それなのに私、春美ちゃんを誘うのを忘れて・・・湊君、がっかりしただろうな。


人の心って無情だ。


人の心って・・・


信用できない。
 
 
 
  
 
 
 
 
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