第2部 第11話
 
 
 
名古屋駅で赤福を発見し「ここのでいいじゃん。でもやっぱり本場のやつとは違うのかな」
なんて律儀なことを考えながら、
電車とバスを乗り継ぐこと約1時間半。

軽く名古屋市内を脱出し、俺は海の見える実家に帰ってきた。

小さな海岸だし、近くに観光地があるわけでもないから、
泳いでいるのは地元の人ばかりだ。
だけどそれがかえって落ち着く。

俺も後で泳ぎに行こう。

・・・そうだ、来年、先輩は大学生だ。
俺も高2でまだ受験生じゃない。

来年の夏は、先輩と一緒にここに来よう。





「ただいまー」
「あら、早かったのね、おかえり」

まるで、ちょっと遊びに行っていた子供が帰ってきただけ、というように俺を出迎える母さん。
そのお陰で俺も一瞬で、「東京の海光学園の生徒」から、ただの子供に戻る。

「腹減ったー」
「今日は沙織のトコと一緒に夕ご飯だからね。ちょっと我慢してて」
「うん」

沙織というのは母さんの妹、つまり俺の叔母さんだ。
家が斜め向かいなので、俺が東京から帰って来た日はいつも一緒に夕飯を食べて俺を迎えてくれる。

「もう少ししたらスーパー行ってくるから。
あ、そうだ。あんたが帰ってきたら教えてって言われてたんだわ」

誰に?
と、聞かなくてもわかる。

俺は敢えて聞こえない振りをして、「いってらっしゃい」と言い、2階の自分の部屋へ入った。


3年前から何も変わらない俺の部屋。
窓を開けると潮の匂いが入ってくる。

俺はベッドにひっくり返った。

とたんに、東京の雑踏も海光の授業も、そして先輩ですら、遠い世界の存在になる。

あー。
帰ってきたんだ。
別に何年も離れていたってわけじゃないのに、懐かしい。
それに、やっぱ、落ち着く・・・


俺はいつの間にか眠りに落ちていった。



どれくらいたった頃か。
ガチャっと玄関の扉が開く音がし、パタパタと母さんのサンダルの音が遠ざかる。
鍵をかける音はしない。
それからまた俺はウトウトしてたけど、
すぐにまたガチャっという同じ音で少し目が覚めた。

扉が閉まる音、
廊下が軋む音、
そして、階段を上がる音がして・・・


コンコン


控えめなノックを聞いて、俺は完全に覚醒した。
「何?」と返事しながら、身体を起こす。

「お兄ちゃん」

扉の向こうから、見知った顔が現れた。

「おかえりなさい。伯母さんが、お兄ちゃんが帰ってきたって教えてくれたの」
「ああ。ただいま」

セーラー服のスカートの裾を揺らしながら、部屋に入り、扉を閉める。

「元気そうだね」
「詩織も元気そうだな。背、また伸びたか?」
「うん。・・・詩織、お兄ちゃんが帰ってくるの待ってたよ」
「・・・」

詩織はごく自然に俺の横に腰を下ろした。
膝から下は綺麗な小麦色だけど、
座った拍子に少し上がったスカートから見える、ベッドの上の太ももは真っ白だ。

でも、腹はもっと白いんだよな、

そんなことが一瞬頭をよぎる。


詩織は沙織叔母さんの娘で、俺の1つ年下の従兄妹だ。
でも、俺も詩織も一人っ子だし、家も近所。
兄妹同然に育てられた。
だから詩織は俺のことを「お兄ちゃん」と呼ぶ。

昔、俺はよく同級生に、
「あんなかわいい子といつも一緒にいれるなんて、いいよなー」と羨ましがられたけど、
俺にしてみれば詩織は本当に妹だ。
かわいいも何もない。

だけど、確かに客観的に見れば詩織はかわいい。
春美さんとはまた違ったタイプのかわいさだ。

敢えて言うなら・・・
春美さんはポリプロ系、
詩織は国民的美少女系、だろうか。
わかりにくいか?

とにかく、正統派美少女、って感じだ。


詩織が、少し身体をひねって俺の方を向いた。
その瞳は俺の顔をジッと見つめている。

「ピアスは?」
「・・・取った」
「そう・・・ねぇ、今年も夏休みの間はずっといるんだよね?」
「・・・うん」
「・・・お兄ちゃん、あの、」
「詩織!」

俺は少し腰を浮かし、詩織と距離を取った。

「俺、彼女できたんだ」

とたんに詩織の表情が曇る。

「え・・・それって、お兄ちゃんが片思いしてた人?」
「違う。その人じゃない」
「そう・・・」

詩織の瞳が揺らぐ。

「・・・お兄ちゃん。詩織が冬休み『我慢』できたのは、お兄ちゃんに彼女がいなかったからだよ?」
「・・・」
「お兄ちゃんに彼女がいるなんて・・・そんなの、ヤダ」

詩織がベッドから立ち上がった。
いっそそのまま部屋を飛び出していって欲しかったけど、
詩織はそうしなかった。

代わりに、俺の前に立つ。

でもそれはほんのわずかな間のことで、
詩織はすぐに俺の首に抱きつき、俺をベッドに押し倒した。

「詩織」
「・・・」

詩織は何も言わずに、身体を下へとずらした。
そして俺のズボンのベルトを外すと・・・
そこへ顔を埋めた。


俺は少しだけ上半身を持ち上げ、その光景を見る。

同じだ。
去年と・・・あの時と同じだ。


俺は再びベッドに身を沈め、
目を閉じた。
  
 
 
 
 
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