第2部 第14話
 
 
 
「っん、お兄ちゃん・・・ああん!」
「あ、・・・イクッ」

俺は詩織の腰を持ち上げた。
同時に腹の上に生温い感触が広がる。

・・・ヘソに入った・・・
気持ちわるー・・・

詩織は、ハアハアと喘ぎながらも、セーラー服のスカートをきちんとたくし上げ、
汚れるのを防いでる。

「・・・はあ。気持ち良かった・・・お兄ちゃん。詩織、もう部活行かなきゃ」
「うん」

詩織はパンツをはくと「行ってきます!」と元気に俺の部屋を飛び出した。

全く、どういう体力してんだ。
つーか、どういう性欲してるんだ。


詩織は、部活のために学校へ行く前に必ず俺の家に来て、
寝起き同然の俺の上にまたがっていく。
1階にはもちろん母さんが居るけど、
「おはようございます!お兄ちゃんに勉強、教えてもらいに来ました!」と堂々と言っているようだ。
どーゆー「勉強」だよ。

でも母さんも、まさか「おはようございます!」から「お邪魔しました!」のわずか10分の間に、
俺たちがこんなことをしてるとは夢にも思わないだろう。

10分・・・いや、
詩織が俺の部屋まで上がってきたり、
終わった後ちょっと身体を拭いてから部屋を出て1階に下りたり、
といった時間を除くと、実質7分くらいか。

これってどうなんだ。
俺が猿すぎるのか。
若い男はこんなもんなのか。

もちろんこんなのばかりじゃない。
暇な時は親の目を盗んで、時間か体力の限り抱き合った。
詩織は好奇心旺盛で、イロイロ試したがったし、やる度に上達していった。
お陰で俺も随分といい思いをさせてもらった。

でも、それはやっぱり身体だけの話。
何度抱き合っても、普通の恋人同士みたいにデートしても、
俺は詩織を女として好きにはなれなかった。

最初の頃の罪悪感はすっかり薄れ、
今では「詩織とは身体の関係」と割り切れるようになった。

だけど、そんな夏休みも明日で最後。
詩織にとっては短く、
俺にとっては長い夏休みだった。





詩織が、最後は思いっきり抱き合いたいと言うので、
俺は親に嘘をついて、東京に戻る予定の1日前に家を出た。
詩織も、友達の家に泊まりに行く、ということにして、
俺たちは家からだいぶ離れた駅のラブホテルで落ち合った。

もちろんこんなところは、俺も詩織も初めてだ。
詩織は興味津々といった感じだけど、
俺は後ろめたさがないでもない。

だけどそれも、ベッドに入るまでのことだった。


とにかく抱き合って、休んで、また抱き合って。
ひたすらそれの繰り返し。
お互いよく体力がもつもんだ、と感心した。


ようやく眠りについたのは、もう明け方近くだった。
眠りに落ちる前、俺の隣で詩織が呟いた。

「・・・キス、してくれなかったね」
「キス?」
「うん。この1ヶ月、一度も」
「そうだっけ?」

意識してなかったけど、そう言えばしなかったかもしれない。
したいとも思わなかったし。

「して欲しいなら、するけど」

詩織は首を振った。

「お兄ちゃんからして欲しかったの」
「・・・」

詩織は寝言のようにそう言うと、寝息を立て始めた。
俺もため息をつき、でも寝ている詩織にキスしようかな、とは思わず、目を閉じた。




何時間眠っただろうか。
俺は右耳に強い衝撃を感じて飛び起きた。


な、なんだ?
なんか今、耳元でバチッて音がしたけど・・・


俺は恐る恐る右耳に手を伸ばしてみた。
熱を持った耳たぶの中央に、何かシリコン状の固い物がある。


なんだ、これは?


俺がポカンとして隣を見ると、
白くて四角い小さな箱のような物を手に持った詩織が、
じっとりとした目で俺を見ていた。

「詩織?今、なんかしたか?」
「・・・お兄ちゃん、今から東京に行っちゃうんだよね・・・?」
「うん」
「詩織とは、もうお終いなんだよね?」
「・・・最初からそういう約束だろ」
「わかってる。わかってるけど・・・」

詩織は自分の手の中に目を落とした。

「それ、なんだ?」
「・・・」

俺は、返事をしない詩織を見て嫌な予感がした。
急いで詩織の手から、その四角い物を奪う。

「これって・・・」

ピアッサー?

俺は、一気に血の気が引いて、バスルームにすっ飛んで行った。
鏡の中の俺の耳には、見事にファーストピアスがついている。

「・・・詩織・・・お前、なんてことを・・・」

俺はフラフラしながらベッドに戻った。

「海光って校則ないんでしょ?ピアスしても平気だよね?」
「・・・」

ドデカイ1つを除いては、な。
海光でピアス付けてる奴なんて、中等部はもちろん高等部にもいない。

「これ」

詩織は鞄の中から、茶色い小さな紙袋を取り出した。

「あげる」
「え?」

受け取って開けてみると、中には青い石のついたピアスが片方入っていた。

「・・・詩織、あのな。いくら校則がないって言っても、」
「お兄ちゃんは、詩織と別れて東京に行くんでしょ?
詩織はもうお兄ちゃんとはできないんでしょ?」
「・・・」
「だったら、それ、代わりにずっとつけてて。
お兄ちゃんが詩織のあげたピアスをつけててくれたら、
詩織、1人でも大丈夫だから」
「・・・」

俺は、青いピアスをじっと見つめた。

ずっしりと重量感のある、大きなピアス。
石の周りにはシルバーの飾りが施してあって、かなり派手だ。
こんなものつけてたら、一日にして海光で有名人になれる。
坂上先輩の目にもとまるだろうけど、こんなことで俺を知ってもらっても嬉しくない。

身体的にも心情的にも、なんて重い束縛だろう。

でも・・・

「わかったよ」
「本当!?」
「うん」

この1ヶ月、詩織に押される形ではあったけど、
俺は好きなように詩織を抱き続けた。
それなのに、結局詩織を好きにはなれなかった。

詩織がキスして欲しいと思ってることにも気付いてやれなかった。

これくらいの頼みは聞いてやらないと、詩織がかわいそうだ。

それに・・・
これはいましめだ。

また自分を見失いそうになったら、
この耳の痛みと、このピアスの重さを思い出そう。


俺はピアスを強く握り締めた。








「詩織。やめろ」
「・・・え?」

俺が目を開いて上半身を起こすと、詩織が驚いたように顔を上げた。

「どうして・・・」
「去年の夏だけの約束だろ」
「・・・詩織じゃダメなの?」

詩織の瞳が揺れる。

「詩織がダメなんじゃない。彼女じゃなきゃダメなんだ」
「・・・」
「詩織も早く、本当に自分を大切にしてくれる奴、見つけろよ」

俺は服を整え、立ち上がった。

「詩織!海に行こうぜ。俺、泳ぎたい・・・あ、でもこれじゃあなあ。
どうしてくれるんだよ。オサマルまで待つか」
「お兄ちゃん・・・」
「さすがにもう、水着が恥ずかしいとか言わないだろ?」
「・・・うん」

詩織はヨロヨロと立ち上がり、部屋の扉の方へ歩いて行った。

「・・・お兄ちゃん」
「ん?」
「・・・待ってるね」
「え?」
「海で!待ってるから、早くオサメテ来てよ!」

そう言って、詩織は走って部屋を出て行った。

ったく。誰のせいだよ、誰の。


俺は苦笑いしながらクローゼットを開いて、水着を探し始めた。
 
 
 
  
 
 
 
 
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