第2部 第16話
 
 
 
「限界です」
「え?」
「早くベッドに行きましょう。俺、もう本当に限界」

シャワーを浴び始めてわずか3分。
もう、ダメ。

これ以上こうしていたら、ここで押し倒してしまいそうだ。

分かっているのに俺の足はバスルームの外へは向かおうとはせず、
代わりに手が先輩の身体を這う。

「あっ・・・」
「先輩。なんでいっつも声、我慢するんですか。我慢する必要ないでしょ」

恥ずかしいからというのは分かってるけど、
わざと聞いてみる。

だから先輩の返事は聞かず、俺はそっと指を滑り込ました。
先輩はちょっと身を固くしたけど、
大きく深呼吸して、その感触に耐える。

俺は先輩の表情と、身体の中の反応の両方を注意深く観察しながら、
絶妙のタイミング(俺的には)で指を・・・
抜こうとした時、先輩が首を振った。

「・・・大丈夫」
「無理しなくていいですよ」
「ううん。本当に大丈夫、だから」
「・・・」

俺は少し悩んだけど、続けることにした。
いつもなら先輩が「大丈夫」と言ったとしてもやめていただろう。
でも今日の先輩は、しばらく会っていなかったせいか、いつもとちょっと違う。

素直だし・・・なんか色っぽい。
それに、顔つきが変わった?ような・・・

相変わらずキリッとした顔立ちだけど、
どことなく目が優しいというか、ツンっとした感じが減ったというか。

先輩が恋しいあまりに、俺にだけそう見るのかもしれないけど。

とにかく、先輩のいつもとは違うそんな雰囲気にほだされた俺は、
続けることを決めた。

でも、だからと言って激しいことはしない。

はやる気持ちを押さえ、ゆっくり指を根元まで入れた。

「んっ・・・」
「大丈夫ですか?」
「うん・・・」

俺の腕を握る先輩の手に、力が入る。
とても大丈夫そうには見えない。

俺は指を抜いて、先輩の頭をなでた。

「よく我慢しました」
「・・・何、それ」
「続きはまた今度にしましょう。俺は先輩のその気持ちだけでじゅうぶん嬉しいです」

言葉に嘘はない。
ただ。

「それにもう、俺、」
「・・・座って」
「え?」

先輩が軽く俺を押す。
どうやら、俺の後ろにあるバスタブの淵に座れと言ってるらしい。

・・・本当にもう、それどころじゃないんですが。

だけど、俺は素直に先輩の言葉に従った。
すると先輩は、俺の前に両膝をついてかがみ込んだ。

「・・・恥ずかしいから、見ないでね」

何を?


・・・。


「あっ」
「え?」

ちなみに「あっ」は俺で、「え?」は先輩だ。

先輩は口をしっかりと閉じて、代わりに目を見開いた。

「あ、あ、あの・・・すみません・・・てゆーか、吐いてください!」

ところが。
その時。
信じられないことが起こった。


ヒクッ!


「・・・先輩、今、もしかしてしゃっくりしました?」

コクコク

「・・・飲み込んじゃいました?」

コクコク

「・・・」
「・・・私、死んじゃうかな?」
「いや、死にはしないと思いますけど」
「よかった」
「でも気分的に、腹が痛くなるかもしれません」
「うん。でもそれくらいなら・・・」
「うがい!してください!」

俺は慌ててシャワーを壁からひったくると、
先輩の顔にかけた。

「あああ。本当にすみません。まさか、あんなことしてくれるなんて、思わなかったから・・・」

だから一瞬で・・・
さすがに先輩も、あまりの早さに驚いたことだろう。

お、俺のせいじゃないぞ!
先輩が、悪いんだ!
いきなりあんなことした先輩が!

「〜〜〜く、苦しいよ、湊君。シャワーが・・・」
「うわあ、すみません!」

もう、謝りまくるしかない。

「もう二度と、飲み込んだりしなくていいですからね!」

俺がそう言うと、先輩は弱弱しく笑った。

「ふふ、『飲み込んだりしなくていい』なんだ。『しなくていい』じゃなくて?」
「・・・しては、欲しい。です」
「あはは」

・・・はあ。
ビックリした。

でも・・・
詩織が同じことをした時、俺はただ驚いただけだった。
よくあんなモノが飲めるな、と。

だけど今回は違う。
驚きと嬉しさと申し訳なさと。

複雑な気分だ。

「飲まなくていいけど、して欲しいです。凄く気持ち良かったです」
「うんうん、わかった。ほんと素直だよね、湊君」

先輩も今日はとっても素直で優しいですね、

と、心の中で言って、俺は先輩を抱えるようにベッドへ連れて行き、
全身全霊で愛した。

あんなことをしてくれたお礼という訳じゃない。
ただ、愛おしくて愛おしくて・・・自然とそうなっただけだ。


「どうしたんですか?」
「・・・うん」

先輩が俺の首に腕を回し、上半身を少し持ち上げた。

「座りたいんですか?」
「・・・」

ほんと、先輩、今日はどうしたんだろう。
もちろん、嬉しいけど。

俺はベッドの上の先輩を抱きしめ、ゆっくりと持ち上げた。
そして一緒に座る。
もちろん先輩は俺の上だ。

「っん」

ぐっと奥まで入り、先輩が身をよじる。

「ああ、先輩・・・すげー気持ちいい・・・」

堪らず先輩をギュッと抱きしめる。

「うん、私も・・・あ・・・ああ・・・」

突然先輩の中が激変した。
これは・・・

「先輩?」
「あ、ダメ・・・なんか・・・んんっ!」

先輩が俺にしがみつく。
痛いくらいに強い力だ。

先輩の目を見ると、涙目になっている。

俺は自分の快楽も忘れて、夢中で先輩の全身を愛撫した。

こんな先輩初めてだ。
身体が熱い。


そして俺と先輩は初めて、
一緒に果てることができた。


この人のためなら死ねる、
本気でそう思った。
 
 
 
  
 
 
 
 
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