第2部 第18話
 
 
 
「湊センパイ!これ、ワタシの気持ちです!受け取ってください!」
「・・・」
「ワタシ、小倉先輩にも坂上先輩にも負けませんから!」
「・・・」

そう言い捨てると、「ワタシ」は一目散に廊下を走って行った。

教室の扉の前でポカンとしている俺の手には、「ワタシ」が押し付けていったビニール袋。
それも、どう考えてもわざとこれを選んだのであろう、中身が丸見えの透明のビニール袋だ。

「柵木君・・・」

振り向くと、クラスメイト達の氷点下40度くらいの視線に出くわした。
誰もが沈黙する中、「氷の女王」なる異名を持つ
本竜ほんりゅうという女子生徒が俺に声をかけてきた。

「今の、中等部の月島君よね?」

そうでしたっけ?

「その袋、何?」
「・・・」
「ハートがいっぱい詰まってるわよ」
「・・・」
「それが、柵木君に対する『気持ち』だって」

あ、あの野郎!!!!!
許さん!!!!


珍しくまんまと月島をはめて、
千羽鶴ならぬ、千羽(?)ハートの半分を月島に押し付けれたと思ったのに・・・!

だが。

俺は袋の中身を見た。
数えた訳ではないけど、
恐らく本当に500個ある。

一昨日折り紙を渡したところなのに、もう500個も折ったのか!?
1人で!?

あいつ、何者だ?





「私、ハンバーグランチ」
「私は、カルボナーラ」

昼休み。
「ワタシ」がライバル宣言した2人が、学食の前で俺を待ち構えていた。

「え?何ですか?」
「ご馳走してくれるんでしょ?」
「は?」
「昨日月島君が女子寮に来て、女子生徒みんなに『ご協力お願いします』って折り紙渡してたわよ。
みんな、かわいい月島君の頼みとあらば、って張り切って折ってた」
「・・・」
「で、私が『みんなが折り終わるのを女子寮の中で待ってるのも居心地悪いでしょ?
後で、私と亜希子さんで、男子寮に届けに行ってあげる』って言ったら、
『湊さんからの頼みなんで、お2人に明日のお昼ご飯奢るように言っておきます』って」

俺はどうやっても月島には勝てないらしい。



「そういうことなら、最初から私と亜希子さんに頼めばいいのに」
「春美さんはともかく、先輩にはそんなことお願いできませんよ」
「亜希子さんには優しいのね」
「俺、春美さんにも優しいと思いますけど?」

天むすは断念したが、
外郎ういろうになごやん、赤福をちゃんと買ってきたぞ。

ちなみに「なごやん」というのは、黒糖まんじゅうみたいなもので、
愛知ではコンビニにも置いてある超庶民派のお菓子だ。

「先輩は受験生ですからね。勉強の邪魔はできません」

俺がうどんをすすりながらそう言うと、
先輩と春美さんは無言で視線を交わした。

なんだ?

「じゃ、私はそろそろ行くわね。後はお2人でごゆっくりどうぞ」

ハンバーグランチを食べ終えた春美さんが、
気をきかしてか学食を出て行った。

「ふふふ、春美ちゃん。なんだかんだ言ってよく食べるなあ」
「え?」
「湊君のお土産、『賞味期限が切れたらもったいない!』って、毎日たくさん食べてたの。
ダイエットしなきゃ、とか言ってたけど、あれじゃダメね」
「でも春美さんは細いですからね。ダイエットなんかしなくていいでしょ」
「・・・それ、私に対するあてつけ?」
「ち、違いますよ!先輩も太ってないじゃないですか!」
「太ってないけど、細くもない、って言いたいんでしょ」
「・・・」

いいじゃないか、別に。
太ってても細くても、先輩は先輩だ。
関係ない。

でも、俺と付き合い始めてから、先輩は女らしい身体つきになった。
太ったと言えば太ったのかもしれないけど、
それは胸とかお尻の話だ。
喜んでいいんじゃないのか?

「・・・胸はともかく、お尻は嫌よ」
「えー?俺は触り心地が良くて嬉しい、」
「湊君!!」

先輩が赤くなって叫んだ時、
俺と先輩の席に、卓巳さんがやってきた。

「おー。なんだお前ら、一緒に食ってんのか」
「うん」
「・・・本当に付き合ってるのかよ?」
「?うん、そうだけど?」

卓巳さんの声のトーンが少し変わる。
でも先輩はそんなこと気にせず無邪気に頷いた。

「湊も変わってんな。こんな色気のない奴と付き合うなんて。
お前なら、坂上みたいな奴との方がお似合いだぞ」
「そうですかー?」

卓巳さん。
今のセリフ、「お前に亜希子はもったいない」って聞こえるんですが。

でも、さすがに卓巳さんに向かってそんなことは言えない。
俺は卓巳さんから視線を外して、箸を動かした。

「・・・。そうだ、亜希子、これ返しそびれてた。ありがとな」

卓巳さんは、脇に挟んでいた本を先輩に差し出した。
先輩は、何故かちょっと慌てて「あ、うん」と言ってその本を受け取り、
隠すように自分の膝の上に置いた。

でも、卓巳さんが先輩に本を渡すとき、その表紙に書かれたアルファベット3文字が、
俺の目に飛び込んできた。
たぶん、卓巳さんはわざと俺に見えるように先輩に渡したのだろう。


卓巳さんは「じゃあな」と言って、
俺達とは離れた席の方へ行った。
だけど、俺達が見える席へ。


それはまるで、これから俺と先輩の間で何が起こるのかを、
見物しているかのようだった。
 
 
 
  
 
 
 
 
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