第3部 第2話
 
 
 
「お疲れ様でした!」

部屋に戻るなり、春美ちゃんが笑顔とお菓子で迎えてくれた。

「うん。はあ〜、疲れたぁ。別れるのって、疲れるね」
「でしょう?私も宮崎さんと別れ話をした時は、体力と精神力を消耗しました。
疲れたときは甘い物に限りますよ!はい、チョコレート!あ、でも妊婦さんにはよくないですかね?」
「ふふ、ちょっとくらいなら平気よ」
「ですよね。じゃあ早速、いただきます!」
「いただきます」

私と春美ちゃんは、夜のお菓子パーティを始めた。
湊君と宮崎さんが見たら嘆きそうな光景だ。

「湊君、大丈夫でした?」
「全然」
「やっぱり」

春美ちゃんがケラケラと笑う。

「意外と打たれ弱いですよね、湊君。今度慰めてあげよう。50円シュークリームでいいかな?」
「せめて、どこかのお店のシュークリームにしてあげて」
「えー。もったいない」
「あんなにお土産貰ったくせに」
「うーん。じゃあ50円シュークリーム2個で手を打ちましょう」

私は苦笑いしながら、チョコを食べた。

・・・美味しい。

なんだかホッとする。
私、本当に疲れてたんだな。

湊君は今、何をしてるだろう。
まだ、落ち込んでるかな。

図書室での湊君を思い出すと、胸がキリッと痛む。
でも、それも全部覚悟の上で話したのだ。
だから私はこうやってダメージが小さくて済んでいる。

だけど急に全てを告げられた湊君は・・・

きっと物凄く落ち込んでいるだろう。
でも、もう私には湊君を慰めてあげることはできない。


「あ。湊君からメールだ・・・違った、月島君だ」
「え?」

春美ちゃんが携帯を取り出す。

「月島君て、携帯持ってないらしいんですよね。
だから湊君の携帯で、メールを打ってきたみたいです。題名に『月島です』って入ってます」

なるほど。

「『なんか湊さんが死にそうなんですけど、ほっといていいですか?』だって。
いいよ、って返事しときますね」
「ふふふ。春美ちゃんて湊君に冷たいよね」
「当たり前じゃないですか。私を振った罰です。送信!」

早っ。
本当に「いいよ」しか打ってないらしい。

月島君・・・。
そう、湊君の傍には月島君がいる。
月島君はなんだかんだ言って、湊君のことが大好きみたいだ。
1学期に月島君と一緒に生徒会の用事で出掛けた時も、
「湊さんて、ほんっとに世話が焼けます!」とか言いつつ、顔はニコニコしてた。

月島君だけじゃない。
湊君にはたくさん友達がいる。
今は辛くて落ち込んでいるかもしれないけど、
湊君ならきっとすぐに元気になれる。

そう信じてるから、私も思い切って別れられた。

私の傍にも春美ちゃんが・・・

私は、美味しそうにチョコレートをパクパク食べてる春美ちゃんを見た。


夏休み最後の日、
寮に戻ってきた春美ちゃんに妊娠したことと退学することを告げた時、
春美ちゃんはしばらく呆然としてから、
「私、1人になっちゃうじゃないですか!」と泣き出した。
春美ちゃんは、入学してから今日までずっと私と同室だったから、
私がいなくなるのが本当に寂しいらしい。

妊娠を隠して卒業するのは難しいということを説明したけど、中々納得してくれず、
やっと泣き止んだ時にはもう2時間近くが経っていた。
そしてそれからようやく「え?産むんですか?」と、目を丸くした。


「あの時の春美ちゃんは大変だったわ。ある意味、湊君以上に大変だった」
「じゃあ、今日はだいぶ楽だったんですね?私も役に立つんだなあ」
「あのね・・・」

私はまた苦笑いだ。

湊君をめぐる一件以来、私と春美ちゃんは前以上に仲良くなった。
変な遠慮がなくなったというか、何でもかんでも言い合えるようになったというか。
でもだから、余計に別れが寂しくもある。

だけどいつまでもメソメソしてられない。
というわけで、今日もこうしてお菓子パーティだ。

「月島君から返信が来ましたよ」
「なんて?」
「『坂上先輩のメールを見せたら、不貞腐れちゃいました』」
「あはは」
「こっちはお菓子パーティしてるよ、っと。送信!」
「あーあ」

この分じゃ湊君は、ゆっくり落ち込ませてももらえないだろうな・・・。

気付くと私は、無意識のうちにお腹の上に手を置いて笑っていた。
まだお腹はぺちゃんこだけど、最近こういうことが多い。
自分には女らしさなんて欠片もないと思っていたけど、結構かわいいとこあるじゃない、
なんて自分で突っ込んでみる。

春美ちゃんも私の手に気がついた。

「男の子かな?女の子かな?」
「うーん。まだ3ヶ月だからわからないなあ」
「湊君みたいな男の子だったらいいですね」
「そうね。ピアス付けてあげなきゃ」
「あはは!いいですね、それ!きっと似合いますよ」
「うん」


私と春美ちゃんは、明日も授業があるというのに
いつまでたってもおしゃべりをしながらお菓子を食べていた。
 
 
 
  
 
 
 
 
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