第4部 第1話
 
 
 
春美さんの結婚式のパーティ会場になっている庭の入り口で、
俺は立ち尽くした。

予想はしてたけど、凄い人だ。
マスコミやパパラッチらしき姿もちらほらある。

さすがは「ジュークスの専務」だよな、
と、鼻を鳴らす。

春美さん、なんだってあんな奴と・・・

でも今はそれどころじゃない。
だってここに、先輩が来てるんだ。

すぐにでも会場の中に飛び込んで先輩を探したいけど、
スーツで来るのが
しゃくで、俺はコートにジーパンという普段着だ。
パーティに参加するつもりじゃないからこんな格好で来たものの、
これじゃあパーティ会場にも入れない。
入り口で門前払いだろう。

つまり、先輩を探せないってことだ。

一度帰って着替えてこようか?

でもあいつに、パーティに参加しに来たと思われるのは嫌なので、
俺は仕方なくそのままパーティ会場の外を歩いて回ることにした。

会場になっている庭は、周囲より1メートル程高い芝地で、
俺はその芝地の下の道を、上を見上げながら歩くかっこうになる。

これじゃあ、会場の端っこに立っている人間しか見えない。
でも、そこに先輩がいないとも限らない。


先輩・・・
2年ぶりだ。

元気だろうか?
俺のことをどう思ってるんだろう?
今の俺を見て、どう思うんだろう?

って、別に見た目がそんなに変わった訳じゃないけど、
少しは背が伸びたし、何より内面が大きく変わったと思う。

この2年、とにかく俺は勉強を頑張った。
少しでも興味のある科目には片っ端から手をつけた。
英語もすぐにマスターして、今じゃネイティブ並みに話せる。

来月からは社会人だし(あいつの会社ってのが、気に障るけど)、
9月からは大学で勉強もする。

学生専用のアパートでルームシェアして住んでいたから、
色んな外国の友達もできたし、
家事も一通りできるようになった。

春美さんには「相変わらず子供っぽい」って言われるけど、
それでも2年前の俺よりは成長したと思う。

先輩はどうだろう・・・。

俺は会場を見上げながら胸に痛みを覚えた。

先輩はこの2年、どんな生活をしていたんだろうか。
未婚のまま1人で子供を産んで育てるというのは、どれほど大変なことなんだろうか。

春美さんは、敢えて俺に先輩の話はしなかった。
だから俺は、先輩がどんな生活を送っているのか全く知らない。

もしかしたら、滅茶苦茶苦労をしてるのかもしれない。
もしかしたら、誰かいい人を見つけて、結婚してるかもしれない。

気にはなるけど、怖くて聞けなかった。


でも、その先輩がここにいるんだ。
会えるんだ。

早く、会いたい。
早く・・・

焦る気持ちに比例するかのように、足が早くなる。


アメリカは、季節は日本と同じだけど、
基本的に日が長い。
パーティの開始は午後4時。
そこから日が落ちるまでが、言わば1次会。
日が落ちた後、会場をライトアップして2次会が始まる。

2次会は、いい加減みんな酒も回ってるから宴会みたいなもので、
エンドレスに続くことだろう。
もしかしたら2次会にはこっそり潜り込めるかもしれない。
(招待されてるのだから堂々と入ればいいんだけど、あいつがいるからそれはちょっと・・・)
それまで待った方がいいだろうか?


その時、俺の頭上が急に騒がしくなった。
見上げると、カメラのフラッシュが次々と光っている。
どうやら、どこぞの有名人か何かが来たらしい。

マスコミに囲まれていてその人物は見えないけど・・・

そのマスコミ集団の進行方向に、ふと目をやった。
そこには、日本人の女性らしき人がこっちに背を向けて立っている。
マスコミ集団に巻き込まれそうになるのを、どうかわそうか困っているようだ。

その人が少し顔を動かした。
俺の方に横顔が向く。


・・・って、先輩!?


大人っぽいワンピースを着て、
綺麗に化粧をしている。
眼鏡もかけてない。

だから一瞬わからなかった。

でも・・・間違いない。
あの横顔は先輩だ!

「先輩!!!」

俺は大声で叫んだけど、その声は先輩には届かない。
でも俺は構わず、叫ぶと同時にダッシュした。

マスコミ集団の下を駆け抜け、先輩の真下に滑り込む。
そして思い切りジャンプし、1メートル近く上にある先輩の手首を掴んだ。

不意をつかれた先輩がよろける。
俺も空中で先輩の手首を掴んだものの、
バランスを崩して、地面に腰から落ちる。

そして・・・

俺の腕の中にすっぽりと先輩が落ちてきた。
 
 
  
 
 
 
 
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