第1部 第6話
 
 
 
今日もやっぱり遅くなってしまい、
学食を出たのはもう12時過ぎだった。

バイトや受験勉強をしている生徒のために、学食は朝6時から夜12時まで開いている。

つまり、閉まる時間になったので、追い出されてしまったのだ。

学食と寮は別の建物だから、少し歩かないといけない。
私と湊君は、5月の風が心地よい夜道をゆっくりと進んだ。

「はあ。もう土曜日だ」
「何、その言い方」

私は、妙に年寄りじみた口調の湊君に苦笑いした。

「明日、じゃなかった、今日の午後、試合があるんです」
「試合?」
「中等部の時って、バイトがない代わりに、全員部活やらないとダメだったじゃないですか。
俺、バレー部だったんです。んで、今日の午後、現役バレー部とOBの試合があるんです」
「へえ」
「ま、ただのレクリエーションですけどね。
でもあの若くてピチピチした中学1年生と試合するのかと思うと、今から疲れます」
「ピチピチって言葉、久しぶりに聞いたわ」

私と湊君は、道が二手に分かれているところで立ち止まった。

「先輩。もしよかったら試合、見に来ませんか?」
「え?いいの?」
「はい。誰でも自由に見ていいんで、友達とか誘ってもいいですよ」

友達・・・春美ちゃん、誘ったら来るかな?

「あいつもバレー部だし」
「あいつ?」

湊君は、まるで秘密を教えるかのようにもったいぶった口調で言った。

「月島、です」
「月島・・・新入生代表で挨拶した?」
「はい」
「・・・」

意外だ。
あんな文科系の男の子がバレー部だなんて。
ちなみに私も中等部の時は、文科系の部活に所属していた。

でも・・・確かに興味はある。
入学式の後に噂で聞いたのだけど、月島君は今年のトップ入学というだけではなく、
歴代トップなのだそうだ。

そのくせ、去年のトップとは違って、親が大騒ぎしている風でもなかった。
というか、月島君のご両親がどの人なのかもわからなかった。
毎年、トップの両親は「うちの子、トップなんですの!」って看板しょってるのに。

どんな子なんだろう。
学年トップの定めとでも言おうか、私も月島君も生徒会をしているけど、
まだ話したことはない。

一度、話してみたい、
そう思ってた。

「ふふん。やっぱり、月島に興味あるでしょ?じゃあ是非来てくださいね、紹介しますから」
「う、うん」
「2時に体育館です。じゃ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」


私は、手を振って去って行く湊君の後姿を少し見送った後、
足早に女子寮へ向かって歩き出した。


中等部と高等部の校舎は同じ敷地内とは言え、少し離れている。
私が中等部の男子生徒と会ったり話したりすることは、まずない。
(女子は、寮が一緒だから会うけど)

だから、月島君と話してみたいと言っても、そんな機会はないと思ってたのに・・・

ラッキーだ。

私はどちらかというと秀才型だけど、
月島君は明らかに天才型。
それも、とびきりの。

ああいう子の思考回路はどうなっているのか、
普段どんなことを考えているのか、
将来どんなことをしたいのか。

物凄く、興味がある。


早く寮に戻らないと、という焦りと、
月島君と話せる、という興奮で、
私の足はますます速くなった。


そう言えば、湊君も天才型で頭がいい。
だけど、老人ホームのアルバイトをしてみて、
「やっぱり、少子高齢化の世の中、介護系の仕事は利益が大きいですね。
特に団塊の世代に介護が必要になったら、今の施設数じゃ足りませんよね」
と、言いつつ、
「でも俺、介護が必要な人に介護して、それで稼ぐって嫌だなー」
なんて甘いことも言っている。

経営者向きじゃないんだから。

でもそれが湊君のいいところでもある。
・・・まあ、海光の生徒がそれじゃダメなんだけどね。


経営者向きじゃないと言えば、春美ちゃんもそうだ。
成績はいいし、要領もいいから勉強以外のことにも時間を上手に使う。
でも、容姿があまりにかわいいから、周囲から「経営者」というより「女」に見られる気がする。
本人の性格を考えても、普通にOLをしたり、結婚して主婦になる方が向いているかもしれない。
宝の持ち腐れではあるけれど。


そんなことを考えながら歩いていると、
目の端が、遠くに何か動く物をとらえた。

思わず足を止める。

何だろう?

少し戻って、暗闇の中、目を凝らしてみる。
すると、私が立っているところから少し離れた木の陰に、
何か白っぽい物がボンヤリと闇に浮かんで見えた。

お化け?
ううん、まさか。
そんな非科学的なもの、あるわけない。


雲が途切れ、月明かりが辺りを照らす。
そして木の陰の形が変わり、
その白っぽい物が私の目にもはっきりと見えた。


人だ。
それも2人・・・男と女だ。


私は息を飲んだ。


2人はしっかりと抱き合い、キスしていたのだった。
 
 
 
  
 
 
 
 
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