第1部 第10話
 
 
学食のカレーを一口食べて、私は顔をしかめた。

「まずい?私、ここのカレー好きだけど」

茜が不思議そうに訊ねる。
ちなみに茜はピラフだ。

「別にまずくないけど」

私はそう言って、水を飲んだ。

まずい訳じゃない。
けど、辛過ぎる。
カレーだから当たり前かもしれないけど、私はもうちょっとマイルドな方がいい。
もったいないから、もちろん食べるけど。


その時、急に2組の男子が数人、私達の近くの席にお盆を持ってやってきた。
その中には森田もいる。

「なあ、今度の日曜暇?」

そう声をかけてきたのは、粘着系男子・天野。
私と茜、それに一緒にご飯を食べてる
畑中世羅はたなかせら荻野友香おぎのともかが顔を見合わせた。

「図書館で中間テストの勉強するんだけど、一緒にしない?で、その後、夕飯食おうぜ」

・・・。
なんて色気のないお誘いだろう。
素っ気無くパスしたいところだけど、
私以外の3人の女子は何故か乗り気だ。

あ、そっか。
茜は森田がいるから、行きたいんだ?
どうやら世羅と友香もそうらしい。
意外と人気あるんだなあ。

「・・・サルのくせに・・・」
「三浦。なんか言ったか?」
「別に」

なんて耳がいいんだ、森田。

私は行かないから茜達だけ行ってきなよ、と言おうと思ったら、
私の隣に座った森田が、突然私のカレーの中に半熟卵を投入してきた。
どうやら、自分のハンバーグの上にあった卵らしい。

「何するのよ」
「俺、卵嫌いだからやる」

そして小声で付け加えた。

「その代わり、日曜参加しろ」
「は?なんで?」

森田が天野の方をチラッと見る。

「・・・嫌よ。私、粘着系って趣味じゃない」

ちなみにサルも趣味じゃない。

「しかも、『その代わり』って、何よ。森田は自分の嫌いな卵を私に押し付けただけでしょ」
「そう言いつつ、もうカレーと混ぜて食ってるだろ。交渉成立だ」

むむむ。
人の弱味につけこんで!卑怯者!

私はムスっとしながら、いい感じにマイルドになったカレーを頬張った。

って、森田。
なんで嫌いな卵が乗ってる「半熟卵つきハンバーグ」を敢えて注文したのよ。
よくわからない。
さすがサル。





「森田君たちとデートできるなんて超ラッキー!」
「ふーん」
「ねえ、これとこれ、どっちがいいと思う?」
「どっちでもいーんじゃない?」
「・・・舞。もうちょっと真剣に考えてよ」

その日の放課後、
「日曜に来ていく服を買う!」と意味不明なやる気を出してる茜に引っ張られて、
私は原宿へやってきた。

だいたい、原宿って好きじゃないのよね。
人多いし、車多いし。
どのお店もギュウギュウしてて、とにかく疲れる。

「・・・舞ってほんと、冷めてるよね」
「本城先生も日曜来てくれるなら頑張るけどね。あ、弟でもいいけど」
「は?」
「なんでもない。あ。あの吊るしてるワンピは?」

ハイウエストのかわいらしいデザインのワンピ。
素足でもストッキングでもいけそうだ。

でも、茜はため息をついた。

「私があんなかわいいの、着れる訳ないじゃん。舞じゃあるまいし。
いいよね、舞は。なんでも似合うから」
「・・・」

うーん。
確かに、太ってはないけど、がっちり系の茜にはちょっと似合わないかもしれない。
私も、あんなの着たことないけど。

好きな男の子とデートする時って、ああいうの着るものなのかな?
そしたら、男の子も喜ぶのかな?

「ねえ。私は着れないけど、舞は似合うと思うよ?着てみたら?」

着れないと言いつつ、かわいいものには目のない茜。
私で着せ替え人形してやろうと、目が輝いてる。

でもまあ、私も嫌いじゃない。
着てみるか。


「・・・どう?」
「お!いいんじゃない?はい、お買い上げー」
「おいおい」

だけど、鏡の中の自分は思ってたよりいけてる。
黙っていれば、どこぞのお嬢様だ。

「黙っていれば、ね」
「うるさいな、茜。って、これいくら?」
「6千円」
「6千円かー」

彼氏がいればお買い上げな値段だ。
でも、今の私には必要ない。

「必要な時が来るかもしれないから、買っときなよ。
てゆーか、その服が無駄にならないように、さっさと脱ブラコンして彼氏見つけなさい」
「・・・」

やっぱり私ってブラコン?

・・・違うもん!

「見てなさい!近々この服を着て、彼氏とデートしてやるんだから!」
「日曜に着たらいいじゃん」
「サルやら粘着やらしかいないのに、もったいない!」
「サル?粘着?」
「森田と天野」
「・・・あのね」

茜が眉をひそめる。
でも、すぐに「あ!」と声を上げた。

「森田君、サルなんかじゃないよ!すごい、頭いいんだから!入試、一番だったって噂だよ?」
「一番?そんな訳ないじゃん」

朝日ヶ丘高校では、入試で一番だった生徒が入学式で新入生代表の挨拶をするのが通例だ。
誰が挨拶したのか忘れたけど(ってゆーか、聞いてなかったけど)、
入学式の間じゅう、森田は一度も席を立たなかった。
間違いない。だって私、ずっと森田を睨んでたもん。

「なんでも、学校関係者に血縁者がいるんだって。それで敢えて選ばれなかったらしいよ」

なるほど。それなら納得がいく。
でも、「森田」なんて教師、いないけどなあ?

「教師とは限らないんじゃない?案外、理事長、とか」
「理事長ってなんて名前だっけ?」
「さあ?」

うーん。
思い出せない。「森田」じゃなかったと思うけど。


それは置いとくとして、確かに森田は頭がいい。
特に数学なんて、多分学年で一番できるんじゃないかな。

「ま、サルって結構頭いいから。人間の中にも、サルよりバカな奴いるし」
「あんたはどうなのよ、舞。今度の中間、早速赤点なんて取らないでよ?中1の時みたいに」

なんの話でしたっけ???
 
 
  
 
 
 
 
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