第1部 第12話
 
 
 
 
昼休み。
私は不機嫌な顔で体育館の壁にもたれていた。

隣には、目をキラキラさせている、茜と世羅と友香と・・・その他女子多数。

バスケをやってる男子を見学に来たのだ。
もちろん私はただの付き添い。

「はぁ。やっぱり森田君、かっこいい・・・」
「どこが?」
「舞はすぐにお兄さんと比べるから。でも森田君、舞のお兄さんと比べても見劣りしないと思うけど?」
「するに決まってるでしょ!」

全く!あばたもえくぼ、とは、よく言ったもんだ!

「前、図書館に行った時の私服姿もかっこよかったし」
「ただのTシャツとジーパンじゃん」
「シンプルな格好だからこそ、素材の良さが引き立つのよ」

ほー。
ほーほけきょ。

「舞も同じような格好だったじゃない。ま、舞も素材はいいけどね。ちょっと色気なさすぎ」
「森田も色気なんかないでしょ!」
「えー?あるわよ。かわいらしい顔してるけど、結構男っぽいとこあるし」
「サルっぽい、の間違いでしょ」

色気ないと言われ続けて早16年。
いい加減諦めの境地だけど、
サルでオスの森田より色気ないと言われると、さすがに若干ショックだ。

私は、ちょうどボールを取った森田を見た。
他の男子と比べれば確かにかっこいいかもしれないけど、お兄ちゃんには到底かなわない。
もちろん、本城先生にはもっとかなわない。

そうそう、「先生」と言えば。

今度は、森田の少し前で森田をガードしている葉山先生を見てみる。
葉山先生は、私達と一緒にこの4月に朝日ヶ丘に来た大学出たての新米先生。
本城先生ぐらい、とはさすがに行かないにしても、かっこいい先生だ。

男子じゃなくて、葉山先生を見学に来ている女子も多い。
かつては本城先生もあんな風にバスケをやってたらしいけど、
その当時はもっとギャラリーが多かったことだろう。

「ねえ、茜。森田じゃなくて、葉山先生にしといたら?」

すると、何故か茜がニヤニヤして私の方を見た。

「何?森田君には手を出さないで欲しい?」
「なんでそーなるの。てゆーか、どうして面白そうな顔してるの」
「舞と森田君って、お似合いだと思うから」

そりゃ、サルとチンパンジーですから。
って、なんでだ。

「茜は嫌じゃないの?」
「うーん。羨ましいな、とは思うけど。森田君と私じゃどう考えても釣り合わないもん。
舞と森田君だったら、見た目にもお似合いだし、2人が話してるの聞いてると面白いし」
「・・・」

もちろん、私にも森田にもそんなつもりはない。
だけど、なんか悲しくなってきた。

茜はいつも、「私なんて」ってスタンスだ。
自分にコンプレックスがあるらしく、恋愛にも消極的。
私に「色気がない!」とか言うけど、茜は色気を隠そうとしている。

だから、男子のことでこんなに騒いでる茜は珍しい。
そのくせ、私に「森田君とお似合い」とか言う。
本当は自分が「お似合い」になりたいけど、なれないと諦めてるんだ。

「茜。森田に告ってみたら?」
「そんな!できるわけないでしょ!私なんか絶対振られるから、今のままの方がいい」
「ほら、また『私なんか』」
「え?」
「やってみないとわかんないでしょ?」
「そうだけど・・・」
「なんなら私が代わりに伝えてあげようか?」
「や、やめて!絶対ダメ!」

茜が私の両肩を掴んでガクガクと揺さぶる。

「あうあうあう・・・」
「お願い!お節介なことしないでよ!」
「わ、わかったから・・・あうあう・・やめて」
「言うなら自分で言うから!」
「はあ。はいはい。頑張ってよね」
「う、うん」

茜はもじもじと赤くなって俯いた。

茜、結構かわいいと思うんだけどなあ。
どうしてもっと自信持たないんだろう。

そう言えば、ヒナちゃんも昔そうだったらしい。
自分に自信がなくて、お兄ちゃんが自分のことを好きだなんて信じられなかったと言う。
それは今もそうかな。よく、「私になんか三浦君はもったいない」って言ってるもん。
もう7年以上も付き合ってるのに。

そりゃ、お兄ちゃんはモテる。
彼女がいるとかいないとか関係なく、モテる。
ヒナちゃんが不安になるのも仕方ないだろう。

でも、ヒナちゃんと付き合いだしてから、お兄ちゃんは一度だって、
ヒナちゃん以外の女の人を見てないのに。

それでも不安だなんて、恋って厄介だ。


私は携帯を取り出し、ストラップ代わりにしているキーホルダーを見た。
まりもっこり・・・じゃなくて、まりもキティちゃんだ。

もし私が転校していなければ、私は
雲雀乃谷ひばりのだに君と本物の恋をしてたのかな?


恋って厄介だ。
でも、憧れる。
恋に恋してしまう。


私にもいつか、本物の恋が訪れるのかな?
 
 
  
 
 
 
 
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