第1部 第17話
「あー、くそ!帰りてー!!」
「それはこっちのセリフよ!」
私と森田は凄い勢いでプリントをホッチキスで留めまくっていた。
今日、授業を聞いていなかったバツとして、
本城先生に「夏休みの宿題のプリントを、クラスの人数分用意しておくよーに」、
と言われたのだ。
って、凄い量だし!
ホッチキスで留めるのも疲れるけど、
夏休みに入ったらこれを自分が解かなきゃいけないのかと思うと、ますます疲れる。
「ねぇ、森田くぅ〜ん」
「きもっ」
「夏休みの宿題、一緒にやらない??」
私は上目遣いでできるかぎり色っぽく言ってみた。
「一緒にやらない、とか言って、俺に手伝わせるつもりだろ」
「バレた?」
「当たり前だろ。毎日夕飯奢ってくれるなら付き合ってやってもいいけど」
「・・・そんなの無理に決まってるでしょ」
焼肉に行った時の森田の食欲を思い出す。
あんなのに毎日お金払ってたら、私のお小遣いはエンゲル係数100%で消えてしまう。
「・・・まあ、わかんねー問題を教えるくらいだったらいいけど」
「ほんと!?」
よし!それにかこつけて、手伝わせよう!
「昼飯奢れよ」
「100円マックね」
「10個な」
「・・・」
ち。
口の減らないサルだ。
でもまあ、夏休みには、悲しいかな何の予定もない。
森田に宿題を手伝わせて、マックでお昼ご飯を食べるくらいはいいだろう。
・・・うん、まあ、悪くない・・・
そ、そうそう!!
お兄ちゃんとヒナちゃんだけど!
あれから無事仲直りをした。
なんか前よりラブラブで、こっちが恥ずかしくなっちゃうんだから!
それに、あの間宮さんも、ヒナちゃんの保育園に子供を預けるって決めたらしい。
よかった、よかった。私もこれで肩の荷が下りるってものよ。
そうそう。これで一安心、一安心、一安心・・・
・・・森田のことなんて、どーでもいいんだから。
「そー言えば」
「な、何よ!?なんか文句ある!?」
「は?」
「い、いえ、何も・・・続きをどうぞ・・・」
「?ま、いーや。それより、なんで俺と三浦がまりもっこりコンビなんだよ」
思い出したかのように、森田がげんなりした表情になる。
「よりによって、まりもっこりって・・・もっとマシなのがいい」
「・・・多分、これのせいじゃないかな」
私はポケットから携帯を取り出した。
「多分」じゃないな。「絶対」だ。
「なんだ、こりゃ。まりもっこり?」
森田が私のストラップを見て、変な顔をする。
「・・・やっぱりそう思う?」
「どう見ても、まりもっこりだろ」
「もっこりしてないもん」
「あー、そういえばしてないな」
もうちょっと色気のある会話ができないものか。
「じゃあ、なんだよこれ?」
「まりもキティちゃん」
「え?」
森田が今度はビックリした顔になる。
「何そんなに驚いてるのよ」
「驚くだろ。こんな薄汚れたのがキティちゃんなんて」
「仕方ないでしょ。もう7年も前のなんだから」
「・・・ふーん。そんな昔のモノ、いまだに持ち歩いてるのかよ」
「ふふん」
私は胸を張った。
「好きな男の子にもらった物だから、今でもこうして大切にしてるのよ」
「・・・」
別に森田に「へー。三浦って一途なんだなー」とか「意外と乙女チックなんだなー」とか
言われると思っていたわけじゃない。
ちょっと自慢したかっただけだ。
だから、なんて言われようと気にならない、
と、思ってた。
「なんだそりゃ。きもっ」
「・・・」
うるさいわね!ほっといてよ!
とか、
やっぱりー?もうキティちゃんてゆーより、まりもっこりだしねー、
とか、
言い返せばいいじゃん。
「きもっ」なんて、さっきも言われたし。
いつも似たようなこと言われてるし。
「・・・」
「なんだよ、何急に黙りこくってんだよ」
「別に」
「・・・何怒ってんだよ?」
「怒ってない」
「怒ってるだろ」
私は、自分がホッチキスで留めたプリントの角をドンドンと揃えると、立ち上がった。
「残りは森田がやっといてよね」
薄暗くなった家への道を、私は凄いスピードで歩いた。
何よ・・・何よ、何よ!
「きもっ」って、何がきもいのよ!
別に今も雲雀乃谷君のことを好きなわけじゃない。
もし再会できたら、心から笑って「久しぶりー!元気?彼女できた?」とか言える。
このまりもキティちゃんを持ってるのは、ただ大事な思い出ってゆーか・・・
もらった時は凄く嬉しくて「一生大切にしよう!」って思ったから、
今もなんとなく捨てれずに持ち歩いてるだけ。
深い意味はない。
だけど・・・
もし今、雲雀乃谷君が、私がまだこれを大切に持ち歩いてるって知ったら、
やっぱり森田みたいに「きもっ」って思うのかな?
逆に、もし雲雀乃谷君が、昔私があげた物をいまだに大切に持ち歩いてたりしたら・・・
やっぱりちょっと変かな?
私は、公園を見つけると、そのままのスピードで中へ入って行った。
探すまでも無く、目の前にゴミ箱が現れる。
そう。
今となってはこのキティちゃんに深い意味はない。
なんとなく習慣でつけてるだけだ。
でも、このキティちゃんのせいで、森田に昔の大切な思い出まで汚された気がする。
私は携帯からキティちゃんを取ると、
ゴミ箱の中へ投げ入れた。
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