第1部 第2話
 
 
 
私は慌ててスカートでパンツを隠した。

は、恥ずかしすぎる!

目で、お兄ちゃんに「助けてよ!」と訴えたけど・・・
赤の他人を決め込んでる。
お父さんとお母さんでさえ、助けてくれる様子はない。

酷い・・・

私は仕方なく一人で立ち上がった。

ああ・・・周りの人がみんな笑ってる・・・


私は吊革を持ち、周りから顔が見えないように下を向いた。

と、私のまん前に座っている男の人と目が合った。
その人は「なんだ、こいつ」と言わんばかりの呆れ顔。


しかも・・・その人は、真新しい朝日ヶ丘の制服を着ていた。






理事長や校長先生、それに来賓の挨拶。
それから新入生代表の挨拶と、在校生代表の歓迎の挨拶。

そして新1年生の各クラスの担任の紹介。

その全てを、私は聞いていなかった。
本当なら、担任の紹介なんて、絶対聞き逃したくないところだけど、
今はそれどころじゃない。

なぜなら。

私は斜め前の男子生徒を見てため息をついた。
座ってるからわからないけど、身長は170半ばだろうか。
まあ悪くない見た目だけど、どちらかと言えば子供っぽい。

って、見た目なんてどうでもいいんだって。
なんでこいつが・・・電車の中で私のパンツを見た痴漢男が、
こんなに近くに座ってるんだ。
(痴漢男にも言い分はあるだろうけど)

入学式の席順はクラスごとだから、おそらく私と痴漢男は同じクラスなのだろう。

・・・最悪だ。


私がため息をつきまくっている間に、入学式は終わってしまった。



「舞!6クラスもあるのに、同じクラスなんてラッキーだね!」

入学式が行われた体育館を出ると、早速同じ中学の
牧野茜まきのあかねが、
私に声をかけてきた。

「ほんとねー。中学も3年間同じクラスだったのに・・・凄い腐れ縁」
「運命、って言ってよね」

茜は明るく笑った。

茜は、165センチと私よりちょっと小さい。
でも、中学時代にバトミントン部で鍛えていたせいか、がっしりしていて、
性格も男勝りだ。
そんなとこが私と合うのか、なんとなく一緒にいることが多い。

「ラッキーと言えば!うちらの担任、凄いイケメンだね!超ラッキー!」
「担任?そうだっけ?」
「ちょっと。いくら舞でも、あれはかっこいいと認めざるを得ないでしょ?」

私の「イケメンの基準」はお兄ちゃんだ。
お兄ちゃんよりかっこよければイケメンだし、
かっこよくなければ、イケメンではない。

ちなみに芸能人とか以外で「この人、イケメンだ」と思ったことは一度もない。


それを知っている茜が、私でも認めざるを得ないと言うのだから、
本当にイケメンなのかもしれない。

どちらにしろ見てなかったからなんとも言えないけど。

「・・・見てなかった?信じられない。あんなに体育館中がざわついたのに」
「そんなにかっこよかったの?」
「うん!ほら、教室行こう!HRで見れるよ!」
「あー。その前にオシッコ行ってくる」
「・・・なんてやる気ないのよ、舞」




薄情なことに茜は私を放置して、一人で教室へ行ってしまった。
よっぽど「先生」とやらを早く近くで見たいらしい。
「先生」は逃げないし、担任なんだから、嫌でも毎日見ることになるのに。

やれやれ。

でも、あの茜が男の人のことであんなに盛り上がるのは珍しい。
こりゃ、一度拝んでおいても損はないだろう。

それにもちろん、私だってイケメンは嫌いじゃない。

ちょっと小走りに廊下を進もうとした時。


カツーン・・


何かがブレザーの内ポケットから落ちた。

・・・携帯!!

慌てて戻り、携帯を取ろうとかがみ込んだけど、
それより早く、私の向かいから手が伸びてきて、私の携帯を掴んだ。

「これ、お前のか?」

その人は私の携帯と私を見比べた。

制服を着ていない、ってことは、教師かな?
え?ちょっと待って。

まずい!!

私は焦った。
朝日ヶ丘は携帯が禁止されている。

うわ!
初日から怒られてる場合じゃない!!


だけどその先生は怒るでもなく、私の携帯ストラップをじーっと見た。

「なんだ、これ?随分年季の入ったストラップだな。まりもっこり?」
「ち、違います!まりもキティちゃんです!」
「えー?どう見ても、まりもっこりだろ」
「違いますって!」

なんで私がそんなもの付けるのよ!
確かに、薄汚れちゃって、顔も緑になってるけど!
それに、まりもを頭にかぶってるから・・・うん・・・まりもっこりに見えないこともない。
でも、もっこりしてないもん!(当たり前だ)

「ま、いーや。お前、何組?名前は?」

うっ。

でもまさか、逃げる訳にもいかない。

「1年2組の・・・三浦舞です」
「お。俺のクラスか」
「え?」

その時、私は初めてその先生の顔をまともに見た。

・・・なるほど。
イケメンだ。
これは確かに認めざるを得ない。

「出身中学は?」
「え?あ、
わらび中学です」
「随分遠くだな。小学校は?」

しょ、小学校?

「えっと、
野見山のみやま小学校です。あ、でも、小学校3年までは蒼井あおい小学校でした」
「ふーん。あ、そろそろ教室入らないとな。はい、携帯」
「え?」
「気をつけろよ。最近の携帯は繊細だから落としたりしたらバグるぞ」

先生は本気で心配しながら言ってる。

「・・・あの。怒らないんですか?」
「怒る?なんで?」
「だって、この学校、携帯禁止ですよね?」

先生は目を丸くした。

「え?そうなのか?初めて知ったぞ」



  
 
 
 
 
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