第1部 第20話
 
 
 
「ダメだ」
「お兄ちゃんの意見なんて聞いてない。ヒナちゃん、一緒に水着買いに行こう!」
「うん。でも、私はいらないから、一緒に舞ちゃんのを選ぼう」
「えー?ヒナちゃんも一緒にビキニ買おうよ」
「む、無理!」


期末テストなんて物があったかどうか忘れたけど、
(そう言えば、本城先生に怒られたような・・・)
夏休み最初の日曜日。
私はヒナちゃんと一緒にパルコへ水着探しに行くことにした。

「行くことにした、じゃない。許さん」
「どうしてお兄ちゃんに許してもらわなきゃいけないのよ」
「・・・海って、男も来るんだろ」
「そりゃあね。サルも来るけど」
「やっぱりダメだ」
「行こう、ヒナちゃん」
「ヒナ!行ったら別れるぞ!」
「いってきます、三浦君」
「おい!」

ギャーギャーうるさいお兄ちゃんは放置し、
私達はさっそく電車に乗り込んだ。

「ねえ。7月29日、ヒナちゃんも一緒に海行こうよ。お兄ちゃんよりいい男もいるかもよ」
「そ、それは遠慮しとく。水着なんて恥ずかしいし、高校生と一緒に海なんて、無理だよ。
第一、平日だから仕事あるし」
「あ、そっか」

社会人は大変だ。
その点、まだ大学生のお兄ちゃんは勉強はあるものの、すっかり夏休み気分。
ヒナちゃんと遊びに行くところを探しているのか、最近よくパソコンと睨めっこしている。

「舞ちゃんはスタイルいいから、どんな服でも水着でも似合っていいね」

スタイル悪くはないけど、
いいって言うより、背が高くて細いだけだ。

「だけ、って・・・じゅうぶんじゃない。私、背も低し太いもん」
「太ってないでしょ。なんてゆーか・・・コロコロしててかわいい」
「・・・・・・」

なんか落ち込んでしまったヒナちゃんを引っ張って、
パルコの上の方の階へ急ぐ。

水着の特設コーナーには、色とりどりの水着たち。
たくさんありすぎて、訳がわからなくなる。

うーん、どれにしよう?

・・・森田はどんなのが好きかな。
意外とエロいのが好みかも。
サルだし。

「・・・」
「舞ちゃん?」
「え、あ、何?」
「お友達と一緒じゃなくてよかったの?ほら、中学の時からよく一緒に遊んでる・・・茜ちゃん?」
「ああ、うん」

もちろん、茜も誘った。
ってゆーか、最初は茜と2人で水着を探すつもりだった。
ところが・・・

終業式の日のこと。

「行かない」
「水着、買わないの?」
「そうじゃなくて、海に行かない」
「ええ!?行こうよ!茜がいないとつまんない!」
「だって・・・森田君も行くんでしょ?私、失恋しちゃったし、気まずいよ」
「そんなの私だって一緒よ」
「舞は振られた訳じゃないじゃない。気まずくはないでしょ。それに・・・」
「それに?」
「もしかしたら、森田君、彼女連れてくるかもしれないでしょ?そんなの見たくない」
「・・・」

そう言う訳で、茜は天野に「行かない」と返事してしまった。
私も悩んだ。
確かに、森田が彼女と海で仲良く遊んでるとこなんて、見たくない。
でもその反面、森田の彼女がどんな子なのか、興味ある。

返事しあぐねてる私に、天野はしきりに「来いよ」って言うけど、
思い切りがつかない。
するとそこへ、森田がやってきた。

「何、牧野行かねーの?」
「・・・うん」
「三浦は?」
「茜が行かないなら、やめようかなと思って」
「なんで?せっかくだし、2人とも行こーぜ」
「え?」
「な。牧野、なんか用事でもあんの?」

森田が茜を見る。

森田。茜はあんたのせいで行かないって言ってるのよ。
察しなさい。

あ。
それとももしかして、
森田は茜に気を使って誘ってるのかな・・・。

「用事は、ない、けど・・・」
「じゃ、決まりな。三浦も来るだろ?」
「え・・・じゃあ、茜が行くなら・・・」



と、言うわけで、行くことになってしまったのだ。

だけど、茜はまだ悩んでる。
だから水着も買わないで、「行くなら去年買ったやつ着てく」そうだ。

私も茜が行かないなら行きたくないけど、ろくな水着を持ってない。
だから一応買っておこうと思ったのだ。



「ねえ、これは?かわいいよ」
「あ、ほんとだ」

ヒナちゃんが手に取ったのは、黒のビキニ。
シンプルだけど、肩紐と腰紐の部分が、さりげなく凝ったデザインになってて、お洒落だ。

「こんなの、スタイルがよくないと着れないもんね。舞ちゃんにピッタリ!」
「そ、そう?じゃあ、これにしようかな。試着してみるね」
「うん」

私はフィッティングルームに向かおうとしたけど、
ヒナちゃんを振り返った。

「ヒナちゃん、本当に買わないの?お兄ちゃんと海とかプール行かないの?」
「私、そういうとこ苦手だから。三浦君もわかってるし」

確かに、お兄ちゃんとヒナちゃんが泳ぎに行くなんて聞いたことない。
お兄ちゃんは結構海が好きだけど、ヒナちゃんが苦手だから行かないのだろう。

そうだ。
夏は毎年、2人でどこかに花火を見に行っている。
ヒナちゃんは花火が好きなのだ。

なんだ。なんだかんだ言って、やっぱりお兄ちゃんはヒナちゃんを大切にしてるんじゃん。


・・・いいな。

昔は、ううん、ついこないだまでは、「お兄ちゃんと花火を見に行けるヒナちゃん」が羨ましかった。
でも今は、「好きな人と花火を見に行けるヒナちゃん」が羨ましい。

私もそういうこと、してみたい。


「今年も花火見に行くの?」
「あ、ううん。今年はまだ決めてないの。三浦君、なんだか忙しいみたいで」
「えー?そう?ヒナちゃんの方がよっぽど忙しいと思うけど?」
「ふふ、いいの。来年でも再来年でも行けるし」

・・・そうだよね。

お兄ちゃんとヒナちゃんは、今までも、これからもずっと一緒だもんね。



やっぱり、羨ましい。
 
 
 
 
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