第1部 第21話
 
 
 
「茜ー!大好き!」

私は駅の改札で、茜に抱きついた。

「・・・気持ち悪いから、離れて」
「だって!茜なら、来てくれると思った!」
「そりゃあ、水着の写真付きで『新しい水着、無駄にさせないでよ!?』なんてメールよこされたら、
来ないわけに行かないでしょ」
「へへへ」

やっぱり、せっかく買ったからには着たいじゃない?
それに、森田のことは置いとくにしても、海には行きたい!

「茜!私達、まだ15歳よ!青春を謳歌しなきゃ!」
「はいはい」
「もしかしたら、誰かがかっこいい男の子を連れてくるかもしれないし!」
「はいはい」
「森田なんてどうでもいいし!」
「はいはい」

と、言いながらも、私も茜も無意識のうちに森田を探す。
大体参加者は集まったみたいだけど、森田の姿はまだない。

「結構多いね。40人はいるんじゃない?」
「うん。天野って粘着力だけじゃなくて、結構影響力あるんだ」
「舞・・・あんたは天野君のこと粘着系だとか言って嫌ってるけど、
天野君って人気者なんだよ?粘着系ってことは、よく言えば、根気強く頑張る人ってことだし」
「・・・なるほど」

そう言えば、天野って掃除とか体育の後の片付けとかも率先してやるし、
今日みたいにクラスをまとめるのが上手い。

「舞は、ずっとお兄さんが基準だったから、
お兄さんより冷めた人は『つめたい』って感じて、
お兄さんより熱い人は『しつこい、うっとーしー』って感じちゃうんじゃない?」
「・・・そっか。そうかも。森田もお兄ちゃんよりサルっぽいから『サルみたい』って思うのかな」
「・・・それはちょっと違うかも」

ふーん。
そっか・・・天野も実は結構いい奴なのかもしれない。


そうこうしているうちに、森田がやってきた。
相変わらず、Tシャツに薄手のジーパン、足元はサンダル。
女の子もたくさんいるんだし、もうちょっとお洒落とかしないのか。

でも、どうしてだろう。
前よりかっこよく見える。

「そういう舞は、結構めかし込んできたね」
「ほ、ほっといてよ!」

今日の私は、ラルフのピンクポロシャツ(お兄ちゃんに買わせた)と、
白のミニスカート、ウェッジサンダル。
「めかし込んできた」ほどではないけど、いつもの私を考えると、大進歩だ。

「おお。マニキュアとペディキュアまでしてる」
「ふふふ、ヒナちゃんにしてもらったの」

ヒナちゃんて、器用な方ではないけど、さすが保育園の先生だけあって、
細かい作業を根気強くやることができる。
「自分にマニキュアなんて恥ずかしくて滅多にしないんだけど・・・」と言いつつ、
そしてお兄ちゃんに、
「舞にそんなことする必要なんかない!」と怒鳴られつつ、
私の爪を塗り塗りしてくれた。


どうだ、森田!これでチンパンジーとは言わせないぞ!!


「あ、三浦、牧野」
「おはよ。森田」

どーだ、どーだ!チンパンジーじゃないでしょ!

「・・・」
「何よ?」

ふふ、黙り込んじゃって。
さては見とれてるな?

「三浦」

うんうん。

「足の指から血が出てるぞ」

・・・サルにはペディキュアという文化がないらしい。





「ほれ」
「・・・ありがとうございます」

海へ向かう電車の中は、もう既に半合コン状態で、
みんな思い思いの異性と盛り上がっている。
茜は、まだ森田を引き摺っているのか、誰かに連れてこられたのであろう他校の男子達ではなく、
いつもの2組の天野たちと一緒だ。

で、私は・・・

「痛い」
「もちょっと我慢しろ」

森田が私の足の指を、駅のコンビニで買ってくれたマキロンで消毒し、絆創膏を貼ってくれた。

「この絆創膏、なに?なんか変わってる」
「防水の絆創膏。これから海行くのに、普通のじゃ意味ないだろ。
てゆーか、これから海行くのに足怪我するか、ふつー?」
「・・・」

そう。
森田が、足の指から血が出てる、と言ったのは、ぺディキュアを血と勘違いしたわけじゃなかった。
本当に靴擦れで血が出てたのだ。

踵の高い靴なんて慣れない物、こんな日に履くもんじゃない。
って、踵が高いって言ってもウェッジサンダルよ?
こんなんで靴擦れしてたんじゃ、本物のハイヒールなんて到底履けそうもない。

「三浦って身長何センチ?」
「168」
「デカイな。無理して背の高い靴なんて履く必要ねーだろ。どこまでデカくなりたいんだ、お前は」
「目指せ、和田アキ子だから」
「・・・勝手に頑張ってくれ」

背が高いことをコンプレックスに思う女の子も多いけど、私はそんなことはない。
ここでも私の基準はお兄ちゃんの178センチで、それ以下はありえないと思っていたからだ。
小・中学時代から男にそんな身長を求めてたら、そりゃ彼氏もできないさ。
(え?そうでなくてもできないって?)

森田は、私のデータによると、176センチ。
お兄ちゃんよりちょっと低い。
でもそんなことは、もうどうでもいい。

でも、彼女が自分より大きかったら、やっぱり森田は嫌かな・・・
ヒールなんてやめた方がいいかもしれない。
って、私は森田の彼女じゃないけど。

「・・・森田の彼女は何センチなの?」
「え?彼女?」
「うん」
「えーっと、いくつだったかな。三浦よりは小さい」
「・・・そうだよね」

森田も、例に漏れず小さい女の子が好きなのか。

「綾瀬学園の生徒?」
「へ?」
「だって、この前行った時、あの辺詳しそうだったから」
「あー・・・。うん」

やっぱり。
そうとは思っていたけど、森田の口から聞くとなんか凹む。

すると森田がニヤリと笑って言った。

「こないだ、先生のお遣いで行った時に、逆ナンされたんだ」
「は!?校内で!?」
「そう。気づかなかったのか?」
「・・・全然・・・」

いつの間に!!!

ちょっと待って。
ってことは、あの時まで森田には彼女がいなかったってこと?
なのに、私はそれに気づかず、目の前で(見てなかったけど)森田を逆ナンされ、
どこぞの女に持っていかれた訳か。

・・・あああ、ますます凹む。



これから楽しい海だというのに、
私の心は既に夕暮れ時になっていた・・・
  
 
 
 
 
 
 
 
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