第1部 第25話
 
 
 
「おー、来たか、あゆむ
「おっす」
「あれ?三浦も一緒か。まあいいや、入れよ」
「・・・」
「三浦?」

その人が、放心状態の私の目の前で、手を振った。

「なんか、魂がお散歩してるぞ、こいつ」
「ほんとだ。おい、三浦、何やってんだよ」

森田に頭をペシッと叩かれて、私はようやく我に返った。

「ほ、ほ、ほ、ほ」
「ほーほけきょ」
「違う!」

それに、そのギャグ、前に一度使ったし!

「本城先生!」
「はい」
「ここ、本城先生の家なんですか!?」
「・・・今のセリフ、『教師の給料でこんなとこ住めるんですか!?』って聞こえるんだが」
「その通りです!」
「・・・まあ、いい。2人とも入れ」

私と森田は、かなりギクシャクしながら、中に入った。
中は・・・説明してると、また1話くらい必要なので割愛しておこう。

とにかく「凄い」。

私は中々「ギクシャク」が取れなかったけど、
森田は靴を脱ぐとすっかりいつもの森田になっていて・・・
いや、いつもの森田以上だ。

何がって?

サルっぷりが。

「ちょ、ちょっと森田!何、片っ端から扉開けて中見てるのよ!」
「どんな部屋か興味あるだろ?俺の部屋はここがいいかなー?」
「おい、歩。お前、また入り浸る気か?」
「前に真弥が住んでたワンルームより、入り浸られ甲斐があるだろ?」
「・・・どーゆー甲斐だ」

先生はため息をついたけど、勝手に家中を見回ってる森田を止める様子も、嫌がる様子もない。
さっさとリビングの方へ行ってしまう。

私は、森田と一緒にいるか先生についていくか迷ったけど、
やっぱりここはサルと行動を共にしてる場合じゃない。
私はリビングへ向かった。

「・・・って、ここ、リビングですか?ダンスホールじゃなくて?」
「なあ?広すぎるだろ?お前も歩とここに住むか?あの辺にダンボールで部屋作ってやるよ」

どこのホームレスだ。


私は先生に勧められて、白い革張りのソファにチョコンと腰を下ろした。
まだ引っ越して間もないのか、家具もピカピカだ。
でも、何より目を引くのはリビングの壁にかけられている大きな絵。
空がメインの風景画なんだけど、とっても鮮やかな色使いで、リビングの雰囲気に良く合ってる。

「なんか飲むか?」
「梅昆布茶」
「おお、いい趣味してるな」

先生は、私が森田から引ったくって渡したアイスを「サルが戻ったら食おうな」と言って冷凍庫にしまい、
美味しい梅昆布茶を入れてくれた。

「・・・聞いていいですか?」
「聞かなくていい。答えてやる」

先生も私の隣に座り、梅昆布茶をすする。

「うーん、どっちから説明するかな・・・まず、この家だが、もちろん俺が買ったんじゃない。
俺の友達に、一万円札をティッシュ代わりにするほど金を持ってる奴がいてさ。
そいつからのプレゼントだ」

プ、プレゼント!?

「もしかして、先生、その人に囲われてるんですか?」
「お前、凄い妄想力だな。断じてそんなんじゃない。それと、歩・・・森田だけど」

そうそう!
むしろ、そっちを聞きたい!

「あいつは、俺の、」
「幼馴染だ!」

サルがアイスを求めてご帰還なさった。

「おい。誰が幼馴染だ。ふざけんな」
「ふざけてねーし。お。梅昆布茶?俺にもくれよ」

森田は遠慮の「え」の字もなく先生を立たせると、
ソファにドカッと座った。

「おー、気持ちいい!俺のベッド、このソファでいいや」
「いいや、じゃない、全く・・・三浦、歩はな、俺が前住んでた家のご近所さんみたいなもんなんだ」
「え?ご近所さん?」
「ああ。歩が9歳くらいの頃から知ってる。俺にとっちゃ弟みたいなもんだ」

弟!?

通りで森田が遠慮しないはずだ。
まあ、もともとサルは遠慮なんてしないけど。

「たく、気づいたら、ちゃっかり朝日ヶ丘に入学して、ちゃっかり俺のクラスになってるし・・・」
「偶然だろ」
「そーだけどさ」

先生に差し出された湯飲みで、美味しそうに梅昆布茶を飲む森田。

・・・なんか、本当の兄弟みたいだ。

そっか。それで森田は敢えて学校では本城先生を避けてたんだ。
教師と生徒が仲良すぎちゃ変だもんね。

それにしても驚きだ。

「あ、ねえ、今日ここに来たのって、家の見学に来たの?さっきのアイスは引っ越し祝い?」
「いや、真弥が話あるってゆーから。アイスは引っ越し祝いじゃないくて誕生日祝い。
今日、真弥の誕生日なんだよ」
「え!?そうなんですか!?おめでとうございます!」
「ああ、ありがと。俺もついに三十路かぁ」
「年だなー」
「うるさい」
「で、話って何だよ?まあ、この家見たら、想像はつくけど」

私は全くつきません。
そもそも、私ってここにいていいの?

「ああ、うん・・・そのことなんだが・・・お、ちょうど帰ってきた」

カチリと玄関の鍵が開く音がした。

先生が立ち上がり、玄関の方を向く。
森田と私もなんとなく一緒に立ち上る。


そして、玄関の扉が開き、
「ただいま」
と、言って入ってきたのは・・・


綺麗な黒髪の若い女の人だった。
 
 
  
 
 
 
 
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