第1部 第3話
 
 
 
面白そうな先生だとは思っていたけど、
「面白そう」どころの騒ぎじゃなかった。


「入学式でも紹介されたけど、この1年2組の担任の
本城真弥ほんじょうしんやだ。
担当は数学。よろしくな」

信じられないくらいのイケメンっぷりに、教室中の視線が教壇の上に集まる。
そしてその視線は、先生の次の言葉を期待している。

けど。

「んじゃ、さっさとやること終わらせよーぜ。まずは始業式の日だけど、」
「えー!?」

教室中からブーイングが起こった。

「なんだ?なんか文句あるか?」
「もうちょっと、自己紹介とかないのかよ!?」

教室の真ん中辺りの男子が叫んだ。
みんなも同意するように「だよな、だよな」と頷く。
ちなみに私も同感だ。

「あのな。こっちは毎年毎年この時期に嫌になるほど自己紹介してるんだ。いい加減飽きた」

・・・私達は初めてなんですけど。

「お前らのパパとママも体育館や校庭で待ってるだろ?無駄なことは省略しようぜ」

無駄なのか。

それでもまだ納得しない私達に、先生は呆れながら言った。

「んじゃ、俺はプリントとか配ってるから、聞きたいことあれば質問しろ。
あ、でも、『彼女いるんですか?』は無しな。いるって答えても、いないって答えても後々面倒だから」
「・・・」

他の人ならいざ知らず、本城先生なら本当に「面倒」なことに巻き込まれるのだろう。
心底うんざりしている表情だ。

先生は早速プリント類を配り始めた。
教室の中はちょっと戸惑った空気が流れたけど、
どこにでも、そんなことをもろともしない奴っていうのはいるもので。

「歳は?」
「29」

嘘!?見えない!25くらいだと思ってた!

「趣味は?」
「バスケ。昔は昼休みに生徒とバスケしてたけど、もう体力勝負は卒業した。
三十路のオジサンには、昼休みは職員室で茶をすするって言う大事な仕事があるから、誘うなよ」
「・・・。好きな食べ物は?」
「梅昆布茶」

それ、食べ物ってゆーの?

「嫌いな食べ物は?」
「バレンタインのチョコ」
「バレンタインのチョコ?じゃあ、普通のチョコは?」
「好き」
「・・・。何フェチ?」
「髪フェチ。俺に好かれたかったら間違っても染めたりパーマかけたりすんな」

・・・今日、黒に戻そう。

「好きな女のタイプは?」
「受けを狙ってなくても素で面白い女」
「嫌いな女のタイプは?」
「・・・」

それまでポンポン軽く答えてた先生の口が止まる。
そして、両目をちょっと細めて、嫌そうに言った。

「焼肉の最後一切れを俺が食ったからって、本気で怒る女」

・・・どうやら先生は、
素で面白くて髪が綺麗な彼女と、焼肉のことで喧嘩中らしい。

早く仲直りしてください。


「よし。これで配らなきゃいけないもんは、全部配ったな。じゃ、解散」
「ええ?なんか説明とかは!?」
「プリント読めばわかるだろ」

それはそうだけど。

みんながまた、「ええー!?」とか言ってると、
先生は「仕方ないなー」とか言いながら、でもちゃんと説明し始めた。


ほんと、変な先生だ。
でも面白い。
この1年は退屈せずに済みそうだ。

けど。

私は廊下側の席に目を移した。
そこにはあの痴漢男が。

あーあ、やっぱり同じクラスだ。
しかも、みんなが先生の言葉に反応良く笑ったり怒ったりしてるのに、
痴漢男だけは、無表情に先生を眺めてるだけ。

感じ悪いったらない。


「まだちょっと時間があるな。よし、学級委員だけ決めとくか」

先生はそう言うと、教室中を見回し始めた。

え?そんな適当に決めちゃうの?
そりゃ、誰がいい?って聞かれても、どの生徒がどんな人かわかんないけど。


・・・あれ。なんか嫌な予感がするのは気のせい?


「じゃあ、女子は、」

・・・・・・。

「三浦=まりもっこり=舞」

なんだ、そのミドルネーム。

私は口をパクパクしたけど、クラス中が大爆笑と拍手に包まれ、
辞退できる雰囲気ではない。

「文句、ないよな?」

先生が、上から目線で私を見た。

っく。携帯なんてみんな持ってるでしょ!?
なんで私だけ、弱み握られてる感じになってるの!?
しかも先生、さっきまで携帯が校則違反だって知らなかったくせに!!

だけど何にも言えない私を尻目に、先生は「男子はー」とやりだした。
はぁ・・・仕方ない。

「森田。お前、やれ」
「はあ!?」

不満全開の声が廊下側の席からした。

・・・おや?おやおや・・・?

「なんで、俺が!」
「うるさい。はい、これで学級委員はけってーい。じゃ、今度こそ解散!」

という訳で、本当にHRはお開きとなった。


って、ちょっと待って!!!!
「森田」って・・・痴漢男じゃない!!!!


向こうも、私に気づいたらしく、こっちを見てげんなりしている。

ちょっと!げんなりしたいのはこっちの方よ!



ああ、もう!!!本当に最悪!!!!



  
 
 
 
 
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