第2部 第7話
 
 
 
「なんだよ、真弥が払ってくれるのか?」
「歩にタクシー代なんか払わせれるか。森田先生に怒られる。お年玉は取っとけ」
「ラッキー!」
「たく。電車で来れば500円もしないのに・・・」

真弥はブツブツ言いながらもタクシー代を払うと、
東京駅の前に降り立った。

「真弥!走るぞ!」
「え?そんなに時間ないのか?」
「まだ30分以上ある」
「じゃあ、走る必要ないだろ」
「こーゆー時、男はかっこよく走って現れるに決まってるだろ」
「・・・」

真弥は、つきあってられるか、とでも言うように、ゆっくりと歩き始めた。
いや、ゆっくりって訳じゃない。
俺と一緒の時に、俺に合わせて歩いてくれる程度のいつもの速さだ。

俺はなんとなく安心して、真弥の横に並んで歩いた。

「そーいや、ノエルとはあの後どうなったんだ?」
「お前な」

真弥が俺を睨む。

「なんでノエル君を放置していくんだ。気まずいったらなかったぞ」
「やっぱり?つーか、真弥でも『君』とか言うんだな。やっぱ彼女の弟にはいい顔すんだ?
嫌われたくない相手だもんな」
「・・・これ以上ない程嫌われてるけどな」

それもそうだ。

「でも、謝ってくれたよ。『誤解してて悪かった』って」
「そっか。よかったじゃん」
「お前がゆーな」
「へへへ」


その時、真弥が突然足を止めた。
俺もつられて立ち止まる。

その視線の先には、今ちょうど話題に出ていたノエルの姿が。
そして、その隣には・・・

「月島・・・」

真弥が呟く。

その表情は、なんだかとても切ないものだった。

・・・そっか。
真弥は4月からずっと和歌さんに会ってないんだ。
連絡も取ってないって言ってたから、声すら聞いてないんだろう。

真弥は、和歌さんから少し離れたところで立ち止まったまま、和歌さんを見つめていた。


和歌さんは、ノエルと両親と一緒に、改札で新幹線の切符を買っていた。
見た感じからして、ノエルと父親は見送りで、母親が和歌さんと一緒に大阪へ行くのだろう。

和歌さんが荷物を手に振り返る。

そして・・・俺達に、いや、真弥に気づいた。

「先生・・・」

和歌さんの両親もハッとして、真弥に軽くお辞儀をする。
真弥もそれに応える。

ノエルはこうなることを予想していたのか、驚いた様子はない。


真弥は軽く深呼吸をすると、和歌さんの方をしっかりと見ながら歩み寄った。
俺は動けず、真弥の背中を見つめることしかできない。

ここまで強引に引っ張ってきたけど、真弥はどうするつもりなんだろう。

別れるとか言わないよな?
でも、和歌さんを納得させるには何を言えばいいんだ?


真弥が和歌さんの前で立ち止まる。
真弥は和歌さんの顔を見てるけど、和歌さんは気まずそうに顔を伏せたままだ。

ノエルも和歌さんの両親も、息を押し殺して2人を見ている。

「月島」

真弥の声に和歌さんの身体がビクッと反応する。
けど、それでも顔は上げない。

そして真弥は・・・


「俺は子供なんていらない。月島と一緒にいられれば、それでいい」


へ?

俺は思わず口をポカンと開いた。
和歌さんも驚いて顔を上げる。

なんだ、それ?

だって、今真弥が言ったのは、8ヶ月、いや、9ヶ月前に、和歌さんに言ったのと同じ言葉だ。
9ヶ月前、和歌さんはそう言われたけど納得せずに、真弥と会わなくなった。
それなのに真弥、何考えてるんだよ?


ところが。

和歌さんは再び顔を下に向けた。
でもそれは、真弥の顔を見れないからじゃない。
ポロポロと涙がこぼれていたからだ。

その涙は・・・悲しいものじゃなかった。


そうか。
真弥が言ってた。
9ヶ月前、真弥がこの言葉を言った時、和歌さんはそれが真弥の本心じゃないと分かったから、
真弥と会わなくなった。

でも今は、この言葉こそが真弥の本心なんだ。
和歌さんも、それに気づいたんだ。


真弥は、泣きじゃくる和歌さんの頭をポンポンと叩いた。
ドラマだったら、こーゆー時、男は周りも気にせず彼女を抱きしめてキスしたりするもんなのに、
どこまでもドライな奴だ。

でも、真弥らしい。
そして、この2人らしい。



ホッとして2人を見ていると、ノエルが俺の横にやってきた。

「本当に、お前と兄弟になる日が来るかもな」
「俺、真弥の本当の弟じゃねーぞ」
「そんなこと、どうでもいいんじゃない?」
「そうだな」
 
 
  
 
 
 
 
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