第3部 第1話
 
 
 
「たのもー!」

しーん

お。無視ですか。

「ちょっとー、中で何やってるのよー?なんかイヤらしい事でもしてるのー?
そーゆーことは、ちゃんとホテルとかで、」
「うるさい!!」

凄い勢いでお兄ちゃんの部屋の扉が、中から開いた。
お陰で私は危うく、扉とファーストキスを済ませるところだった。

「何を考えてるんだ、お前は!」
「だって。あ、ヒナちゃん、こんにちは」
「こ、こんにちは」

何故か赤くなるヒナちゃん。

「さては、本当にイヤらしい事してたな?」
「ふざけるな。これのどこを見て、『イヤらしい』って言えるんだ」
「・・・」

確かに。
床に散らばっているのは、服・・・ではなくて、折り紙。

って、なんで折り紙?

「今度、保育園でお遊戯会があるの。その時使うお面を作ってて」
「折り紙のお面?そんなのをお兄ちゃんが手伝ってるの?意外ー」
「お前な」

お兄ちゃんの拳骨が飛んでくる前に、私はクッキーの缶を差し出した。

「お、気が利くな・・・って、これ、空じゃねーか」

お兄ちゃんが私の手からクッキーの空缶を奪い取り、それで私の頭を叩く。

ポコン!

おお。いい音だなぁ。

「どっちも空だからな」
「・・・。これは、集金箱なの!」
「集金箱?」
「そう。1口1万円、1人5口以上でお願いします」

今度は何回も空缶が頭を打った。

「おーまーえーは!いつからマルチ商法を始めたんだ!?」
「い、いたい!違うって!本城先生の結婚祝いのために・・・!」
「おっ。なるほどな」

そう言うと、切り替えの早いお兄ちゃんは、さっさと財布を取り出した。

「全く、最初っから素直に・・・」
「何か言ったか?」
「いえ、何も」

ここは逆らわない方がいい。
ビッグスポンサーが逃げてしまう。

「でも5万も出せないぞ。俺、まだ学生だし」

お兄ちゃんは1万円札を1枚、クッキーの缶に入れる。
ヒナちゃんは「本当は3万円くらいあげたいんだけど・・・」と言いつつ、2万円入れてくれた。

じゅうぶん過ぎるくらいだ。

「ありがとう!」
「で、何をあげるんだ?」

私は左手を腰にあて、右手の人差し指を立てて口の前に持っていった。
ついでにウインクしてみる。

「ひ・み・つ♪」
「吐けー!でないと、こっちが吐きそうだ!!」

お兄ちゃんに首を絞められ、危うく本当に吐きそうになりながら、私は吐いた(ややこしい)。
それを聞いて、ヒナちゃんが目を輝かす。

「うわあ!素敵なプレゼント!ね、三浦君!」
「そうだな」

珍しくお兄ちゃんも素直に頷く。

「舞ちゃんが考えたの?」
「サルが」
「え?」
「いえ、何でもありません」
「まあ、そーゆーことなら協力してやるよ」
「協力?」

腕組みをしながら、何やら思案するお兄ちゃん。
こういう時のお兄ちゃんは本気だ。

「手を広げようと思ったらどこまででも広がってしまうからな。取り合えず、俺達が卒業した時の、
3年5組だけでいいだろ」
「?」
「俺は男に連絡するから、ヒナは女に連絡しろ。全員は無理でも、結構集金できる」
「お、お兄ちゃん!」
「他ならぬ本城先生のためだからな。しかも相手は同級生の月島だし」

私は、ニヤッとするお兄ちゃんに抱きついた。

「お兄ちゃん!大好き!!」
「うわー!!気持ち悪い!!やめろ!!!!」

失礼ねー。





「すげー!大金だな!」
「何人に連絡がつくかはわからないけどね。つけば、みんな本城先生と和歌さんのためなら、
お金は出してくれると思うって、お兄ちゃんが言ってた」
「おお、頼もしい」

私はベッドの上でうつ伏せになりながら、森田と携帯で話していた。
もう夏休みだから、こうしないと連絡が取れない。

「俺達のクラスからは1人千円で、だいたい4万くらいか。
三浦の兄ちゃんの代の金と比べたら微々たるもんだな」
「そうね。でも気持ちの問題だよ」
「そうだな」

アルバイトもしていない高校生の千円。
高いと見るか安いと見るかは人によるだろうけど、
大事なのは先生のために少しでも何かしたい、という気持ちだと思う。

「後は、俺の親からのお祝儀だな」
「そっか。森田のお父さんは先生の元上司なんだっけ?」
「和歌さんが1年の時の担任でもあるし」
「そうなの!?」
「うん。これだけ集まりゃ、ちょっとプレゼントの内容、考え直してもいいかもな」
「そうね」

楽しい。

こうやって森田と携帯で話せるのも楽しいし、
誰かへこっそりプレゼントを用意する計画を立てる、っていうのも凄く楽しい。

それに、森田のことを見直した。
大好きな本城先生と和歌さんを喜ばせるために、こんなこと思いつくなんて。
2人のことを本当に想っている森田だからこそ、思いついたんだろうけど、
そこまで2人のことを想える森田を純粋に尊敬できる。

「準備が大変だなー」
「うん。でも夏休みだから時間あるし、私もできる限り手伝うから!頑張ろうね!」
「ああ、ありがと。明日早速、見に行くか」
「うん!」

私は思い切り元気良く答えた。
 
 
  
 
 
 
 
 ↓ネット小説ランキングです。投票していただけると励みになります。 
 
banner 
 
 

inserted by FC2 system