第3部 第8話
 
 
 
カフェで人生勉強をさせてもらった後、
3人で結婚祝いを選び、仕事へ行くという西田さんを駅まで見送った。

「面白い人!」
「うん。相変わらずだったなあ、西田さん」


私とヒナちゃんも切符を買い、西田さんとは違う路線のホームへ降りる。

「今日はありがとね、ヒナちゃん」
「ううん。こっちこそお礼を言わなくちゃ。ありがとう。西田さんに会って本当によかった」
「え?」

ヒナちゃんは私を見て微笑んだ。
西田さんのような強い笑顔じゃないけど、
温かい穏やかな笑顔だ。

「私最近、
『これから私、どうなるんだろう?いつ結婚できるんだろう?三浦君はどう思ってるんだろう?』
って、ずっと考えてた。でも、そんなこと考える前に、
もっと自分がどうしたいのか、そのためには何をしなきゃいけないのかを考えなきゃね」
「ヒナちゃん・・・」
「自分が進んだ道の先に、『結婚』があれば結婚したいし、なければまた探せばいいだけよね。
何が何でも結婚しなきゃいけないわけじゃないし」

結婚しない・・・という選択肢はお兄ちゃんが許さないと思うけど、ね。

「西田さんの話を聞いて、なんか元気が出てきた」
「あ、それは私も。西田さんって、元気を振りまく人だね」
「うん、昔からそうなの。三浦君が好きになるのもわかるでしょ?」
「うーん、そうだね」

でも、お兄ちゃんと西田さんはちょっと合わない気がする。
お互い強すぎるって言うか。
お兄ちゃんにもっと度量がないと、西田さんを受け止めきれないと思う。

「ヒナちゃんくらいが、ちょうどいいよ」

私は心からそう言った。
お兄ちゃんは、いい人に巡り合えたと思う。
西田さん流に言えば、ばっちり「合う」二人だ。

私はどうだろう?
森田と「合う」のかな?
・・・衝突してばっかりだけど。

「え?」
「ううん。なんでもない」
「そう?・・・あ、そうだ。月島さんのことだけど、月島さんが子供産めないって、本当なの?」
「あー・・・うん」

和歌さんのプライベートなことだから、お兄ちゃんにもヒナちゃんにも言ってなかったのだ。

「今は元気なんだけどね。昔心臓の手術したんだって。それで・・・」
「・・・そうだったんだ」

ヒナちゃんが心苦しそうに、下唇を軽く噛む。
ヒナちゃんは子供が大好きだ。保育園の先生をやってるくらいだもん。

和歌さんの心情を想うと辛いんだろう。

「そのこと、さりげなく広めといてもいいかな?」
「え?」
「何にも知らなかったら、
みんな、『結婚おめでとう!子供できるの待ってるね!』とか言っちゃうと思うんだよね」

あ!そっか!
そんなことまで、考えてなかった!

「先生の教え子だったら、先生の子供を見てみたいってみんな思うと思うし」
「うん・・・そうだね。お願いするね」

どうしよう、私のクラスメートにも言っといた方がいいかな。
でも、そんなことしたら学校中に広まっちゃいそうだ。

森田に相談してみよう。



ホームに電車が滑り込んで来た時、タイミング良く、いや、悪く、
ヒナちゃんの携帯が鳴った。
ヒナちゃんは、メールか電話かだけを確認して、無視しようとしたけど・・・

「あ、三浦君から電話だ」

私だったら電源を切る勢いで無視だけど、ヒナちゃんにとっては彼氏だから、
そうも行かないだろう。

「いいよ、出て。次の電車にしよう」
「ごめんね。・・・もしもし」

電車に乗り降りする人を避け、私とヒナちゃんはホームの隅に移動する。

「うん、大丈夫。今?舞ちゃんと新宿駅に・・・今から?」

ヒナちゃんが私を見る。

どういう意味だろう?
どうやらお兄ちゃんは、今から会おうと言ってるみたいだけど、
ヒナちゃんは、
ここで私と別れよう、と思ってるのか、
一緒に来て欲しい、と思ってるのか。

ま、私としてはどっちでもいい。
帰ってもすることないし(宿題しろよ、と自分で突っ込みたくなるけど)。

私は指でOKマークを作ると、
ヒナちゃんは、ありがとう、と言うように頷いた。

「じゃあ、舞ちゃんも一緒にいい?・・・うん、わかった。行くね」

ヒナちゃんは携帯を切ると、私に言った。

「ありがとう。三浦君が、今から会いに来て欲しいって」
「どうしたんだろ?」
「うん・・・なんか、私に会わせたい人がいるんだって。舞ちゃんにも会ってもらいたいって」
「・・・会わせたい人?」

ヒナちゃんの顔が曇る。

最近疎遠気味だった彼氏に突然「会わせたい人がいる」って呼び出されるなんて・・・
おお、
彼氏いない暦15年の私でも、簡単に想像がつくぞ。

お兄ちゃんが物凄い美女を連れて現れて、
いきなり、「こいつと結婚することにした」とか言ってヒナちゃんを泣かせるんだ。
で、その美女は、
「ごめんなさいね。でも、あなたより私の方が、この人に合うと思うの」とかしれっと言うんだ。
私の役回りとしては、泣くヒナちゃんを慰めるってとこだろう。

でも、この舞様はそんなんじゃあ、納まらないぞ。
その美女に右アッパーをお見舞いしてやる!

ついでにお兄ちゃんにも、膝蹴りだ!!!
 
 
 

  
 
 
 
 
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