第3部 第13話
 
 
 
「お。今日も本城先生にしごかれてるな?頑張れよ」
「まだ夏休みの宿題、終わってないの?本城先生も大変ね」
「なんだ三浦。押しかけ女房か?」

・・・。
毎日放課後、本城先生の隣で夏休みの宿題をしている私を見て、
色んな先生がご心配して下さる。

ほっといてくれ。


「ま、もう9月も7日目なのに、まだ夏休みの宿題が終わってないのは事実だな」
「そうですけどー。先生、これ教えてください」
「なんだ、英語か。どれどれ?」

私は本城先生に英語のプリントを差し出した。

それにしても、学校の先生の横で宿題をすると、こうもはかどるものなのか。
あっと言う間に、残すは英語ちょっとと数学のみとなった。
だって、本城先生。数学はもちろん、他の科目でも私レベルの質問には答えられるようで、
いつの間にやら家庭教師と化している。

「たく、これじゃ市川と変わらないじゃないか・・・」
「まーまー!下心がない分、楽でしょ?」
「そうだな。そーいや三浦、森田とはどうなったん、」
「しー!!!!」

私は慌てて先生の口を手でふさいだ。

「・・・んぐ。その分じゃ、全然進展はなさそうだな」
「ほっといてください。先生こそ和歌さんとどうなんですか」
「どうって、どうもないぞ」
「また喧嘩したりしてません?」
「・・・前の喧嘩は誰のせいだと思ってるんだ」

先生が私を睨んだその時、職員室の中が「お、来たぞ」と騒がしくなった。
私と先生も、他の先生の視線の方向・・・窓の外の校門の方を見た。

「なんですか、あれ?」
「大型バス」

それは見れば分かる。
三輪車じゃないことは確かだ。

「なんで、大型バスがあんなにいっぱい・・・1、2、3、4・・・7台も学校の前に来たんですか?」
「2年生が羽田空港から戻ってきたんだろ。今日まで修学旅行だったからな」

修学旅行!!
そっか!!


朝日ヶ丘高校の修学旅行は、2年の9月に2泊3日で行われる。
行き先は、北海道か沖縄のどちらか希望するほうに行けるのだ。

お兄ちゃんとヒナちゃんは沖縄だった。

「昔は、羽田空港で解散だったのに、最近は学校まで戻ってくるようになったな」
「え?どうしてですか?」
「『遠足は、家に着くまでが遠足です』って小学校の頃に習ったのを忘れて、
羽田からの帰り道、寄り道する生徒が続出したから」
「・・・」
「三浦なんかも、例に漏れず寄り道するタイプだろ?」

もちろんですとも。
朝日ヶ丘高校は都心から離れていて、放課後に遊びに出るには不便だ。
せっかく友達と一緒に羽田から電車で帰れるなら、寄り道しない手はない!

・・・なるほど。
私みたいなのがいるから、バスで学校まで戻ってくるようになったのね。

納得。

「和歌さんは北海道と沖縄、どっちに行ったんですか?」
「北海道。暑いのは苦手らしい」
「あー。分かる気がする。先生も北海道?」
「いや、その年は俺は沖縄だった」
「えー?和歌さんと一緒じゃなかったんですか?せっかくの修学旅行なのに?」
「・・・俺は教師だぞ」

そうでしたっけ?


森田は・・・どっちに行くんだろう。
本城先生が行く方に行くのかな?
それとも敢えて逆にするかな?

私はどっちでもいいけど、できれば森田と同じ方がいいな。
あ、でもその前に、2年になったらクラスだってわかれるかもしれない。

・・・それは、嫌だなあ・・・

「先生」
「ん?」
「この前の京都の梅昆布茶、美味しかったですか?」
「おお!美味かったぞ!!さすが1缶千円!」
「あれ、毎年同じ人がお中元でくれるんです。来年も欲しいですか?」
「・・・ほしい、けど・・・三浦、なんか企んでるな?」
「いえ、来年も先生のクラスだったらあげようかなー、と思って」

「先生のクラスだったら」を強調してみる。

先生はピンと来たようで、頷きながら言った。

「わかった。お前は俺のクラスにしよう。森田は杉崎先生のクラスにでも放り込むか」
「やっぱり梅昆布茶あげません」

先生はゲラゲラ笑いながら、目を机の上の書類に戻した。
私も英語の宿題に戻る。
いつまでもおしゃべりしてたんじゃ、本当に市川さんと変わらない。

だけど、またしても邪魔が入った。

「先生。日誌」
「お。サンキュ。そっか、今日は森田が日直か」

森田は軽く頷いて私を見た。

「三浦。あんだけ俺と一緒に宿題やったのに、まだ終わってないのかよ」
「森田とやってた時以外は宿題してなかったから」

エヘッとかわいこぶって舌を出してみる。

「・・・さいなら」
「なんだ、森田。三浦が俺と一緒にいるから妬いてるのか?」

先生がニヤニヤしながら森田を見る。
もちろん冗談だろうけど、森田の反応がちょっと気になって、私は黙っていた。

が、森田も負けていない。
いや、今回は森田の勝ちだ。

「そーだな。じゃあ、俺は代わりに和歌さんの手料理食ってくるよ」
「は?」
「さっき、『友達から仙台土産に牛タン貰ったから、食べに来ない?どうせ、先生は遅いし』って、
メール来たから、今から行って来るわ」
「な、何をそんな嘘を・・・」

先生が言い終わる前に、森田が自分の携帯を差し出す。
私も先生と一緒になって見てみると、確かに今森田が言ったのと同じ文面のメールが表示されている。
差出人は間違いなく和歌さんだ。

私は、さっさと帰り支度を始めた。

「三浦・・・まさかお前まで・・・」
「森田。一緒に行っていいでしょ?」
「ああ。和歌さんに『三浦も行くかも』って返事しといた。仙台の牛タンは美味いぞー」
「やったあ!」
「お、お前ら!!」
「「先生、さようならー」」

私と森田は仲良く合唱して、職員室を出た。
 
 
  
 
 
 
 
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