第3部 第24話
 
 
 
私が1人で教会の中に入ると、白いタキシード姿の先生がすぐに私に近づいてきた。

「三浦!」
「うわ、先生!かっこいい!」

お世辞じゃない。
先生は顔もかっこいいし背も高いから、こういう格好が本当によく似合う。
特に、森田が選んだこのタキシードは先生のイメージにピッタリだ。

でも先生。和歌さんも負けてませんよ、と言いかけて、ぐっと堪える。

「三浦・・・ありがとうな」
「いえいえ。先生のその格好見れただけでじゅうぶんです」
「・・・照れくさいな」
「ふふふ」

先生は自分を見下ろして、頭を掻いた。
本当に照れくさそうだ。

そんな先生の背中を、森田がドンと叩いた。

「じゃ、始めよーぜ」
「ああ・・・って、どうしたらいいんだ?」
「和歌さんが、教会の外で待ってるから真弥が迎えに行ってやって。
で、2人で教会の中に入って挙式するんだ」

本当なら、新郎は祭壇の前で、新婦とお父さんが腕を組んで入ってくるのを待ってるんだけど、
今日は、先生の親族も和歌さんの親族も招待していない。
親戚関係を呼んでると切りがないし、これはあくまで私達からのただのプレゼントだから。

「わかった。お前らは?中にいるのか?」
「いていいのか?」
「・・・」
「真弥と和歌さんのことだから、どーせ恥ずかしくって見てて欲しくないだろ?
俺達は式の間は外で待ってるよ」
「・・・助かる」

ぷぷぷ。
本当は凄く見たいけど、森田の言う通り、私達に見られてたんじゃ、
先生達の性格からして落ち着かないだろう。

先生と和歌さんの式なんだから、2人のしたいようにさせてあげよう。


私と森田が先生に段取りを説明していると、牧師さんが笑顔でやって来た。
外人さんだけど、綺麗な日本語を話せる人だ。

「本日は、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「結婚式を生徒達に準備してもらえるなんて、あなたは人としても教師としても、とても幸せですね」
「はい・・・」

先生が私と森田の方を見て微笑む。
本当に幸せそうなその笑顔に、思わず私も微笑み返した。

「これをどうぞ」

牧師さんが先生の手に何かを握らせた。
白い花で作られたかわいいブーケだ。

「ブーケの由来を知っていますか?」
「いえ・・・」
「昔ある男が、花を摘んで花束を作り、それを渡しながら恋人にプロポーズしました。
それがブーケの始まりです」
「・・・」
「ですから、このブーケを持って、彼女を迎えに行ってあげてください」
「・・・はい」

牧師さんは「では、行きましょう」と、バージンロードを教会の入り口に向かって歩き出した。
それに先生が続き、更に森田と私が続いた。

誰もいないシンとした教会に、私達4人の足音だけが響く。

私は、自分が結婚するわけでもないのに、意味もなく緊張した。

いつか、私もバージンロードを花嫁として歩く日が来るのかな。
その先に待っているのは、誰なんだろう。

目の前の森田の背中を見てみる。

もし、そこに待っているのが森田だったら・・・


「さあ、どうぞ」

牧師さんが、ゆっくりと教会の扉を開いた。
薄暗い教会の中に、光がさし、私は眩しくて目を細める。

先生も立ち止まり、目が慣れるのを待つ。


そして・・・


「・・・」

先生は言葉もなく、扉の向こうに立つ和歌さんに近づいた。

森田が私を振り返り「すげーな」と目で言う。
私も「でしょ?」と目で言って胸を張った。

「・・・月島・・・」
「先生・・・ど、どうですか?変じゃないですか・・・?」

和歌さんが自信なさ気に肩をすぼめる。


和歌さんが選んだのは、5着のうちで一番シンプルなマーメードラインのドレスだった。
西田さんが「多分、和歌はこれを選ぶんじゃないかな」と言っていたドレスだ。
光沢があり、それでいて派手でない生地が、白い和歌さんの肌に自然と馴染んでいる。

本当に・・・本当に、よく似合う。

メイクも、濃すぎず薄すぎず、上手に和歌さんの綺麗さを引き立ててる。
メイクさんは、今日初めて和歌さんを見たはずなのに、凄い。


美しい、って言葉以外出てこない。


「びっくりした・・・綺麗だよ」
「・・・本当ですか?」

先生はそれ以上、何も言わなかった。
でもその温かい眼差しを見れば、思っていることは簡単に分かる。

「歩君、舞ちゃん。本当にありがとう」
「礼はいいから。ほら、早く入りなよ。牧師さんが待ってる」
「うん・・・」


先生が和歌さんの目を見ながら、相変わらず何も言わずにブーケを渡した。
和歌さんも先生の目を見ながら、ブーケを受け取る。

・・・何を伝え合ってるんだろう。

私と森田じゃ、さっきの「すげーな」「でしょ?」くらいが関の山だけど、
先生と和歌さんは、きっと目を見るだけで、たくさんの会話ができるんだ。


羨ましい、と思った。
2人が結婚したことよりも、そんな信頼関係を築けていることが羨ましい。

辛いことを乗り越えて来たからこそ、今の2人があるんだろう。


「月島」
「はい」
「・・・行こうか」
「はい」


2人は腕を組み、教会の中へと入って行った。
 
 
  
 
 
 
 
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