第1部 第6話
 
 
 
「まりもっこり」
「・・・」
「パンツ」
「・・・」
「三浦ジュニア」
「・・・はい」

この辺で妥協しておかないと、また凄い名前をつけられそうだ。
本城先生は満足気に頷いた。

「それと、森田。後で職員室に来い。学級委員の仕事、第一弾だ」



という訳で、お昼休み。
私は痴漢男と2人で職員室へ向かった。

「ちょっと待てよ。なんだよその、痴漢男って」

森田が不満そうな声を出す。

「私のパンツ、見たでしょ」
「はあ!?あんなもん見せられて、被害者はこっちだ!この、逆セク女!」
「な、なんですって!」

私はキッと森田を睨み上げた。
でも森田は全く気に留めず、ため息をつく。

「あーあ、何が悲しくてこんな女と廊下を歩かないといけねーんだ」
「それはこっちのセリフよ!」

だけど行き先も目的も同じだ。

私達は、険悪ムード満載で職員室の本城先生の席へ辿り着いた。
そしたらそこで、更に険悪度を増す仕事が待っていた。

「これ。配達してきて」
「は?」

森田が、本城先生に差し出された大きな封筒を受け取り、表を見る。

そこには、

『綾瀬学園高等部  
宇喜多うきた 先生様』

と言う宛名だけが書かれていた。
どうやらこの封筒を、その「宇喜多 先生様」に届けろって事らしい。

・・・あれ。

「郵送しろよ!」
「郵送してください!」

さすがに私と森田は同時に叫んだ。

って、森田。
先生になんて口の聞き方を。

「残念ながら、それはできないんだ。超重要書類で、郵送は禁じられている。
絶対に手渡しじゃなきゃ、どこのマフィアに奪われるかわかんねーからな」
「・・・なんだそれ」

森田はため息をついた。
すでに諦めモードだ。

でも気持ちは分かる。
この数週間、本城先生を見ていてわかったけど、
先生は本当に口が上手い。
なんだかんだ言って、結局先生の言われた通りにしてしまう。

しかも、「嫌々」ではなく、何故か先生の言われた通りにしたくなってしまうのだ。

現に、2組に茶髪は一人もいない。
私ももう真っ黒だ。

唯一、先生に不遜な態度を取っているのがこの森田。
まあ髪は黒いけど。


「冗談はさておき」

やっぱり冗談だったんですね。

「この中に入っている書類の質問に、すぐに答えてもらいたいんだ。
だから今日中に持って行って、答えも聞いてきてくれ」
「えー?」
「答えは、明日俺に教えてくれればいい」
「・・・もしかしてラブレターとか?」
「当たらずとも遠からず、ってとこだな」
「自分で持っていけよ!」
「自分で持っていってください!」

また私と森田がハモる。

「お。なんだお前ら、仲良しこよしだな。じゃ、頼んだぞ」

何を言ってもサラッとかわす本城先生に疲れたのか、
森田は早々に退散して行った。

でも、私はそのまま残った。

「なんだ、三浦。なんか用か?」
「はい・・・ちょっとご相談が」
「相談?」
「私、もしかしたら一生彼氏ができないかもしれません。
お兄ちゃんよりかっこいい人じゃないとダメみたいなんです」
「ほー。でもお前の兄貴は意外と腹黒だぞ」

お。よく分かってるじゃん。

「森田くらいで我慢しとけよ」
「死んでヤです。先生、弟とかいません?よかったら紹介してください」

私は半分冗談・半分本気で言ってみた。
けど!

「弟?ああ、いるぞ」
「え?何歳ですか?」
「19歳」

うわ!ナイス!

「大学生ですか!?」
「ああ。H大の2年だ」
「H大!?」

あのレベルの高い!?

「弁護士になるために、司法試験目指して頑張ってるらしい」

先生の弟。
つまり、イケメン。
H大の学生。
弁護士の卵。

なんたる高スペック!!!!!

「紹介してください!」
「あいつはダメだ。未婚の父だからな」

・・・なんだそれは。
女に子供を押し付けられて、逃げられたとか?





せっかくのいい物件を目の前にしながら、私はがっかりして教室へ戻った。

「舞。先生の用事って何だったの?」

茜が早速私に詰め寄る。
なんだ、なんだ?
茜、本気で先生に参っちゃったの?

「別に。ただのパシリ。森田と一緒に、なんかをどっかに届けろ、だって」
「・・・何、その『なんかをどっかに』って。大丈夫?」
「森田が分かってるでしょ」

てゆーか、別に森田と2人で行かなくてもいいんじゃない?
森田一人で行けばいいじゃん。

「・・・ねえ、私が代わってあげようか?」
「へ?」

見ると、茜が真っ赤だ。
・・・え?ええ?

「ちょっと、茜・・・。森田はダメよ。あんな痴漢」
「痴漢、って、転んだ舞のパンツ見ちゃっただけでしょ」
「そうだけど!やめといた方が絶対いいって!」
「どうして?」
「どうして、って・・・」

そう言われても困るけど。
だってなんか、感じ悪いんだもん!

「舞は相変わらずね。そんなんじゃいつまでたっても彼氏できないよ?」
「大きなお世話よ。私だって、好きな人の1人や2人、」
「いるの?」
「・・・いない」

茜はため息をついた。

「全く。恋とかしたことないの?」
「恋ぐらいしたことあるわよ!」
「そうなの?中学の時、そんなの一言も言わなかったじゃない。
いつも『お兄ちゃん、お兄ちゃん』ばっかりで」

やっぱり私はブラコンらしい。

「小学校の時よ。あま〜い初恋してたんだから!」
「小学校、ね。その初恋はどうなったの?」
「どうも。小学校4年に上がる時に、私が転校しちゃってそれっきり」

別に遠くに引っ越した訳じゃない。
ちょうど一軒家を買ったから、マンションから引っ越しただけなんだけど、
小学校の学区は変わってしまったのだ。

「今頃どこで何してるのかなあ、雲雀乃谷君・・・」
「・・・は?なんて?」
「ヒ・バ・リ・ノ・ダ・ニ・君」
「ひ、
雲雀乃谷ひばりのだに・・・変わった名前ね」
「まーね」

そういえば、
小学校はみんな仲が良くて、下の名前で呼び合ってたけど、
雲雀乃谷君だけは苗字のインパクトが強すぎて、みんなから苗字で呼ばれていたっけ。

私は携帯を取り出して、茜に見せた。

「ほら、これ」
「・・・まりもっこり?」
「だから違うって。まりもキティちゃん。雲雀乃谷君にもらったの」
「へ〜。両思いだったんだ」
「ううん。なんか、知り合いのお姉さんに貰ったらしいんだけど、自分はいらないからってくれただけ」

でも、凄く嬉しかった。
だから今もこうして携帯につけて持ち歩いてる。

気持ちを伝えることもなく終わった、私の初恋。

あんな甘い気持ちになれる日は、また訪れるのかな・・・?



  
 
 
 
 
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