第3部 最終話
 
 
 
「何、ボーっとしてんだよ」
「まりもキティちゃん・・・」
「ん?ああ、ビックリしただろ。あれ、和歌さんからの・・・」
「・・・違う」
「え?」

私は森田を全力で睨んだ。

「違う!!!あれ、私にくれたのは森田じゃない!!!
雲雀乃谷ひばりのだに君だもん!!!」

森田は「はあ?」と首を傾げた。

「まあ、そうだな。あの頃は俺、『雲雀乃谷』だったし」
「雲雀乃谷・・・」
「そう。
雲雀乃谷歩ひばりのだにあゆむ。小4の時、母さんが再婚して『森田歩』に変わったけど」

!!!!!
そうだ!!!
そうだった!!!
雲雀乃谷君の名前、「歩」だった!!!
苗字のインパクトが強すぎて、名前なんて忘れてた!!!

じゃあ・・・
じゃあ・・・


馬鹿みたいに口を開けてる私を見て、さすがに森田も感づいたらしい。

「おい、三浦・・・もしかして、気付いてなかったのか・・・?」
「・・・」
「・・・マジかよ」

森田が思いっきり顔をしかめてため息をつく。

「・・・信じらんねー・・・じゃあ、俺が雲雀乃谷だって知らずに、あんなこと言ってたのか・・・」

あんなこと?

私は、まだショックから立ち直らない頭をフル回転して、
今まで森田に話したことを思い出そうとした。

でも、かろうじて思い出せたのは、
初恋の人からまりもキティちゃんを貰った、と森田に話したことだけだった。

それだけでもじゅうぶん赤面物だ。
だって、さりげなく昔の恋心を本人に告白していたのだから。
しかも森田は、私が森田と雲雀乃谷君が同一人物だと分かってると思ってたらしい。

う、うわ・・・
私、他にも何か、とんでもないこと言ったんじゃ・・・

「も、森田はいつ、私だって気付いたのよ・・・って、そっか、名前でわかるよね・・・」

私は今も昔も「三浦舞」だ。
森田みたいに途中で名前が変わるなんてウルトラQはやってない。

「なんだ、そのウルトラQって。それを言うなら、ウルトラCだろ。
ウルトラQってウルトラマンのことだぞ。
それはともかく、俺、名前なんか聞く前から気付いてたし」
「え?」
「入学式の日、お前電車の中で転んでパンツ丸出しにしてただろ?
昔もよく転んで、パンツ出して泣いてたもんな」
「・・・」
「それに顔見りゃすぐわかったよ。『あ。小3まで一緒だった舞だ』って」

舞。

森田が言った「舞」と言う名前で、私の記憶は一気に小学校時代へ飛んだ。

そう。
森田・・・いや、雲雀乃谷君は私のことを「舞」って呼んでた。

声は変わってるけど、この発音、この感じ・・・
確かに雲雀乃谷君だ・・・

「・・・どうして、昔みたいに『舞』って呼んでくれなかったのよ」

そうしてくれたら、私もすぐにわかった、
かもしれないのに。

「お前だって俺のこと『森田』って苗字で呼び捨てするからさ。合わせてただけ」
「・・・」
「はあぁぁああぁあ〜〜」

森田がまた大袈裟なため息をつく。
まあ、ため息の一つもつきたくなるだろう。

ごめんよ、鈍くって。

「あ!!!!」
「・・・なんだよ、まだ何かあるのか?」
「どうしよう・・・私、まりもキティちゃん、捨てちゃった・・・」
「あー、そうだったな。酷い奴だよな、お前」
「だって!森田が『キモッ』とか言うから!!」

そうよ!
私が、「初恋の人(つまり森田)にもらった物だから」と何年も大切に持ち歩いていたのに、
それを当の森田がなんで「キモッ」って言うのよ!!

・・・って、そっか。
本当に「キモ」かったんだ・・・だからそう言ったんだ。
私ってば、雲雀乃谷君本人に気持ち悪がられてたんだ・・・

私が落ち込んでると、森田が取り繕うようにボソボソと言った。

「あれは・・・その、ちょっと恥ずかしくなってさ・・・」
「え?」
「なんでもない!!あー、もう!なんなんだよ、お前!!!」

森田がグシャグシャと頭を掻きむしった。
相当イライラしてるらしい。

「はあ・・・」
「あの・・・なんか、ごめんね」
「ごめんね、じゃねー。はあ」
「ため息日和だね」
「あのな」

森田がもう一度ため息をつく。
でも、私もため息をつきたい。

だって、初恋の思い出だけでなく、今現在好きな森田からのプレゼントも捨ててしまったんだから・・・

「来年」
「え?」
「来年の修学旅行、北海道にしようぜ。今度は俺がまりもキティ買ってやるよ」
「ほんと!?」

森田は、先生と和歌さんの方を見たまま、小さな声で「うん」と言った。


・・・嬉しい。
森田がどういうつもりなのかは分からないけど、嬉しい。

「ありがとう、うれし・・・」
「森田君!」

っげ。
せっかく人が素直になろうと思ったのに、
とんだ邪魔者が乱入してきた。

「あ。市川」
「ねえ、森田君。この後一緒にお昼ご飯食べない?」
「昼飯?」
「うん」

森田が困ったように頭を掻き、チラッと私を見た。
私は「絶対ダメ!」という視線を送ったけど・・・

「迷惑かな?」

市川さんがかわいらしく小首を傾げる。

おい、なんだ「小首」って。
チンパンジーにはそんなもん、存在しないぞ。

が、森田もこう言われると弱い。
気まずそうに私から目を逸らし、「いや、迷惑じゃないけど」とか言い出した。

ならば私が代わりにズバッと言ってやろう!

「ダメ!!」
「三浦さんには関係ないでしょ?」
「ないけど、ダメ!!」
「ほっといてよ。私と森田君の問題よ」
「ダメったら、ダメったら、ダメ!!!」

女2人でギャーギャー言い合っていると、
さすがのサルもギブアップしたようだ。

「あー!もう!!!うっさい、お前ら!!!」

森田は私と市川さんを放置し、先生達の方へと走り出した。

「森田!」
「森田君!」

私と市川さんはバチバチと火花を散らし・・・
森田を追いかけて、一緒に駆け出す。



私の右手の中で、白いブーケが笑うように揺れた。






――― 「お兄ちゃんと先生とアイツの彼女!」 完 ―――

 
 
 
 ♪おまけ のお話へ♪
 
 
  
 
 

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