第1部 第7話
 
 
 
別に、いいじゃない。
要は封筒を宇喜多先生って人に届けて、
なんかよくわかんないけど、「答え」を聞いてきたらいいんでしょ?

森田1人で行けばいいじゃない。
まあ、妥協して、私1人で行ってもいい。

もしくは、森田と茜の2人で行くとか。


「はあ」
「なんだよ?」
「・・・別に」

何故か私は森田と2人、
朝日ヶ丘から電車で30分ほどの綾瀬学園へ向かっていた。

茜は結局、今日はどうしても外せない用事があるらしい。
私は私で、初めての学級委員の仕事(?)なのに、森田1人に押し付けることに気が引けた。

「私1人で行くって言ったじゃない。どうしてついてくるのよ」
「ついて来てる訳じゃねーよ。でも、俺だけ行かなかったって先生に知られたら、また何言われるか」

それはそうかもしれない。

それに結果的にはこれで正解だった。
だって、私、綾瀬学園なんてどこにあるのか知らない。
だけど森田は知っているようで、結局私が「ついて来てる」状態だ。

「ちょっと。お尻触らないでよね」
「触ってねーだろ!」
「これだから痴漢は・・・」
「痴漢じゃない!」



そんなこんなで辿り着いた綾瀬学園は、
まだできて数年なのであろう、新しくて綺麗な小中高一貫の私立校。
制服は深い緑のブレザーにチェックのスカート。

うーん。
私の着ている制服が、ますますシンプルに見える。

てゆーか、森田。
どうしてこんな学校の場所を知ってるんだろう。
ここに彼女でもいるんだろうか。

それはさておき、意外なことに、
森田は校内のどこを歩いても女子生徒から大注目の的だった。

何?森田はそんなかっこいいの?
それとも、ここのとは違う制服のオスは誰でも注目を集めるの?

どちらにしろ、森田は激しく居心地が悪そうだ。

「くそっ・・・」
「ほら、見られてるわよ。手でも振ってあげなさいよ」
「アホか」

愛想のない奴ね。
サルでももうちょっと愛想いいわよ?


そして、もう一つ意外なことが。

「あら。わざわざこれを届けに来てくれたの?」
「・・・はい」
「ありがとう。ちょっと待ってね」

封筒に「宇喜多先生様」なんて書いてあるから、
なんとなく年の行った先生かと思っていたら、なんと若い女の先生だった。
せいぜい、30半ばってとこかな。


宇喜多先生は、封筒の中からA4サイズの紙と、小さなメモ用紙を取り出し、
メモ用紙から目を通し始めた。


物凄い美人って訳ではないけど、どことなく目を引く女の人だ、と思った。

まず印象的なのは、綺麗な黒髪。
そして、ちょっとツンとした顔立ち。
でも話してみると、優しそうな人だ。

宇喜多先生はメモを読んで、少し目を見開くと、
今度は森田と私を交互に見て・・・またメモに視線を戻し、1人で笑いを堪えている。

・・・なんだろう。
なんか、1人芝居してるみたいで面白いな。


その時。
閃いた。
こういうのを、「点と点が線で繋がる」と言うのだろう。

本城先生の彼女は、素で面白くて髪の綺麗な人らしい。
そして、この封筒の中身を「ラブレター」に「当たらずとも遠からず」と言っていた。

まさか!

「あの!」
「なに?」
「宇喜多先生って、焼肉好きですか!?」
「へ?」

宇喜多先生がポカンとする。
森田は「何言ってんだ!」と言う非難の視線を私に送ってきたけど、無視した。

「えっ、まあ・・・好き、だけど?」

やっぱり!!

宇喜多先生は首をかしげながら、今度はA4の紙に目を向ける。
そして・・・
その左手の薬指にはシルバーの指輪が。

え?結婚してる、の?

ちょっと待って。待ってよ・・・
考えろ、舞。

先生の彼女は、この宇喜多先生らしい。
でも、宇喜多先生は結婚している。
しかも「宇喜多」って苗字だ。
ってことは、宇喜多先生の旦那さんは、本城先生じゃない。

つまり、それって・・・

浮気!?

「おい」
「・・・」
「おい!」
「・・・え?」

呆然としていると、森田に脇をつつかれ、私は我に返った。

「何、ボーっとしてるんだよ」

森田が小声で私を責める。

「いや、その浮気が焼肉で、その、あの」

意味不明なことを言う私を見て、森田は眉をひそめ、
宇喜多先生は明るく笑った。

「2人とも、わざわざありがとう。あなた達の先生には『行きます』って答えておいて」

「行きます」!?
それって、もしかして、密会の約束!?

ああ・・・まさかまさか・・・
でも、それ以外考えられない!

本城せんせーい!!



  
 
 
 
 
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