第1部 第8話
 
 
 
「あああ」
「三浦。お前さっきから変だぞ。いつも変だけど」
「ほっといてよ!これが黙っていられますか!」
「はあ?」

綾瀬学園から駅までの帰り道。
森田はもはや私を変態扱いだ。
痴漢の分際で生意気な。

「ねえ、さっきの宇喜多先生と本城先生って、」
「あ。三浦。お前、焼肉好きなのか?」
「え?まあ、人並みには」
「じゃあ、あそこで夕飯食ってかね?」

はあ?
と思ったけど、森田が指さす先の「焼肉バイキング ぎゅうぎゅう牧場」という看板と、
辺りに立ち込める美味しそうな匂いに私のお腹は勢いよく合奏を始めた。

「・・・色気なさすぎ」
「うるさい!森田の前でなんて、もったいなくて色気なんか出せない!」
「まー、初めっからないもんは出せないわな」
「・・・」
「どうする?あそこ、バイキングの割りに美味いぞ」

やっぱりこの辺りのことをよく知っている。
本当に綾瀬学園に彼女がいるのかもしれない。
これは、茜に報告しとく必要があるわ。

それはともかく。

「・・・いくら?」
「2500円」

高!でも、焼肉のバイキングにしては安いか、な?

「高校生以下は学割があって1650円」
「も、もう一声」
「フリードリンク付き」
「ううう」

焼肉・・・
フリードリンク・・・

だけど1650円はやっぱり高い。

でも、お腹はすいてる・・・

が、私以上に森田はお腹がすいてたらしい。

「しゃーないなぁ。じゃあ、俺が2000円、三浦が1300円。これでどうだ」
「のった!」

という訳で、何故だか私は森田と一緒に焼肉をつつくことになった。




「三浦!それまだ網に乗せんな!」
「何言ってるのよ!?焼肉屋に来てるんだから、カルビ食べずにどうするのよ!」
「まずは牛タンだろ!」
「信じられない!牛タンって、牛の舌なのよ!?そんな気持ち悪いもの食べられない!」
「はあ!?牛タンは焼肉の王様だぞ!」
「カルビが王様に決まってるでしょ!!」

まあ、この2人で焼肉なんて、最初っから無理があった。
でも、ここは譲れない。
私は森田の隙を見て、網にカルビを置いた。

「うわ、信じらんねー・・・くそ、こっちは俺の陣地だかんな。入ってくんなよ!」

森田が網の中心に見えない線を引く。

「そっちこそ!私の陣地を侵さないでよ!」
「あーあ。せっかくのタンにカルビの匂いがつく・・・」
「男のくせに女々しいわね。・・・あれ。私、今、何食べた?なんか美味しいものが口の中に・・・」
「それ!俺の陣地のタンだ!取るなよ!」
「何よ、バイキングなんだからいいでしょ。タンって意外と美味しいね」
「・・・」

森田はため息をつきながら、私に透明の液体が入った入れ物を差し出した。

「タンはレモン汁で食うんだよ。タレで食うな、もったいない」
「へ〜」

言われたとおり、今度はレモン汁で頂いてみる。
おお、さっぱりしてて美味しい!

「な。うまいだろ?」
「うん!このコリコリした感触がたまらない!」
「んじゃ、もう一皿頼もうぜ」


こうして私達は打ち解けて、和気あいあいと焼肉を楽しんだ・・・って訳はなく、
とにかく制限時間内に食べまくろうと、この後ほとんど会話なく食事に集中した。
ようやく2人が「うまい!」とか「これ頼んで!」とか意外の言葉を口にしたのは、制限時間残り15分。
デザートゾーンに突入した頃だった。

「はあ。このバニラアイス、最高」
「・・・まだ食うのか。凄い食欲だな」
「森田ほどは食べてないでしょ」
「当たり前だろ。お前一応女なんだし。それでも女子の平均を遥かに上回った量、食ってんぞ」

そうでしたっけ?

そう言う森田も、二つ目のアイスを美味しそうに頬張る。
こんな機嫌のいい森田は初めてだ。

いや、森田は学校でも友達といる時はこんな感じなんだけど、
私といる時は、なんかいっつも怒ってる気がする(私が悪い、という意見は置いといて)。

そうそう。そう言えば、本城先生といる時の森田も不機嫌だ。
あんなに人気がある先生なのに、森田は苦手らしい。

「そういや、先生がお前のこと『三浦ジュニア』とか言ってたけど、あれなんのことだ?」
「ああ。私のお兄ちゃんも昔、朝日ヶ丘に通ってて、先生の生徒だったの」
「え?そうなのか?何年前の話?」
「えーっと。お兄ちゃんが高3の時の担任って言ってたから・・・5、6年前、かな」
「5、6年前・・・」

森田が腕組みをして何やら考え込んでいる。

「森田。あんた、そーゆーの似合わないよ?どっちかってゆーと、猿山のサル・・・」
「うるさい」
 
 
  
 
 
 
 
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