第1部 第9話
 
 
 
 
「くせっ」
「・・・」
「どこのオヤジだ、お前」
「・・・」
「あーくさっ!ってゆーか、いい匂いだな。あー腹減る」

どっちなのよ。

せっかく口の悪い森田から開放(?)されて家に帰ってきたら、
もっと口の悪い男が待ち構えていた。

「高1のくせに、焼肉デートかよ」
「うるさいなー。お兄ちゃんだってヒナちゃんと焼肉くらい行くでしょ」
「今はな。でも高1の時なんて、質素なもんだったぞ。立ち食い蕎麦とか」

質素過ぎないか。

「あんな指輪をプレゼントしたくせに?」
「!」

たちまちお兄ちゃんの顔が赤くなる。
ぷぷぷ。
あー、いい気味!


ヒナちゃんが「サイズが合わないから、指にはつけられないんだ」と言って、
ネックレスにしていつも首につけている指輪。
高1のホワイトデーに、お兄ちゃんからもらったそうだ。

アノお兄ちゃんが女の子に指輪をプレゼントするってだけでも、私は天地がひっくり返るほど驚いたけど、
その指輪自体にも驚いた。

小鳥がデザインされているその指輪には、小さいけど本物のヒナちゃんの誕生石が埋め込まれていて、
決して安くはなさそうだ。
ヒナちゃんは、私に言われるまで気づかなかったみたいだけど。

『どうしよう・・・こんな高い物、もらえないよ』
『もらえない、ってもう何年も前にもらったんでしょ?』
『う、うん・・・』
『しかも小鳥のデザインなんて。お兄ちゃんてばキザなことするね』
『え?どうして?小鳥がキザなの?』
『どうしてって。この小鳥、雛子、って意味でしょ?』
『・・・え?』
『ヒナちゃん・・・気づいてなかったの?』
『・・・』

この時ばかりは、お兄ちゃんに同情したものだ。



「と、とにかく!遅くなるなら電話くらい入れろよ」
「お母さんには、夕ご飯いらないってメールしたもん」
「俺にもしろ」
「なんで?」
「なんで、って・・・」

お兄ちゃんがムッとする。
なんでそんな機嫌悪いのよ。
茜と遅くまで遊んでたって、全然何も言わないし、
「迎えに来て」って言ったら、ブツブツ言いながらも車で来てくれるのに。

「・・・本当にデートだったのかよ?」
「はい?」

男と女で焼肉を食べることをデートと呼ぶなら答えは「YES」だ。
まあ、男ってゆーより、オスに近いけど。

「まーね」
「・・・」
「私だって、デートくらいするわよ。もう高1なんだから」

私はわざと肩をそびやかして言ってやった。
が。

「・・・」

お兄ちゃんはそのまま何も言わずに部屋に入って行ってしまった。


おや?
おやおや?

これってもしかして、ヤキモチ?
お兄ちゃん、私に彼氏ができたと思って妬いてるの?

・・・。

「うへへへ」
「舞。何1人でうへうへ言ってるの。早くお風呂に入りなさい。
あと、制服!ファブリーズしときなさいよ!」

どこのCMの母親だ。





「先生!昨日、ちゃんと森田とふ・た・りで、綾瀬学園に行ってきました!」
「そ、そうか。ありがとう・・・」

森田との焼肉「デート」の翌日。
ちゃんと私も行ったんだぞ!と言うことをアピールしつつ、
私は本城先生に、宇喜多先生からの「答え」を伝えに行った。

ちなみに森田は、「昼休みはバスケだ」とほざいて体育館へ行ってしまった。

「先生。本当にバスケしないんですか?」
「おー。誘いに来てくれたけどな。俺はコレだ」

そう言って、先生が持ち上げたのは湯飲み。
中からは梅昆布茶のいい香りが。
本当に茶をすすってるらしい。

「・・・まだ20代でしょ、先生」
「梅昆布茶ってうまいんだぞ」

知ってます。

「それに20代っつっても、22歳と29歳じゃ、赤ん坊と大人ほど差がある」

ないない。

「バスケはバリバリ22歳の新米教師に押し付けた」
「・・・」

なるほど。
そう言えば、森田達は1組の新米男性教師・葉山先生と一緒にバスケをやっている。
本城先生はたぶん、あえて葉山先生にそうするように言ったんだ。
そしたら、葉山先生はすぐに生徒と打ち解けられる。
現に、森田なんて、担任の本城先生より葉山先生と一緒にいる方が楽しそうだ。

「いけない。肝心の用を忘れるとこでした。宇喜多先生は、『行きます』だそうです」
「お。そっか。それはよかった。ありがとな、助かったよ」
「・・・先生」

私は声を低くした。

「宇喜多先生って、もしかして、本城先生の・・・」

私がそう言うと、本城先生がサッと赤くなった。
おおお。
先生でもこんな顔するんだ!

「お、お前・・・それ・・・宇喜多先生に聞いたのか?」
「女の勘です」
「・・・なんてはた迷惑な勘してやがるんだ。絶対誰にも言うなよ」
「えー。じゃあ口止め料に焼肉おごってください」
「昨日、食ったろ」

え?どうして知ってるの?

「もうちょっとちゃんと、制服をファブリーズしろ」
「・・・・・・」

 
 
 
 

 

 
 
 
 
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