「くせっ」
「・・・」
「どこのオヤジだ、お前」
「・・・」
「あーくさっ!ってゆーか、いい匂いだな。あー腹減る」
どっちなのよ。
せっかく口の悪い森田から開放(?)されて家に帰ってきたら、
もっと口の悪い男が待ち構えていた。
「高1のくせに、焼肉デートかよ」
「うるさいなー。お兄ちゃんだってヒナちゃんと焼肉くらい行くでしょ」
「今はな。でも高1の時なんて、質素なもんだったぞ。立ち食い蕎麦とか」
質素過ぎないか。
「あんな指輪をプレゼントしたくせに?」
「!」
たちまちお兄ちゃんの顔が赤くなる。
ぷぷぷ。
あー、いい気味!
ヒナちゃんが「サイズが合わないから、指にはつけられないんだ」と言って、
ネックレスにしていつも首につけている指輪。
高1のホワイトデーに、お兄ちゃんからもらったそうだ。
アノお兄ちゃんが女の子に指輪をプレゼントするってだけでも、私は天地がひっくり返るほど驚いたけど、
その指輪自体にも驚いた。
小鳥がデザインされているその指輪には、小さいけど本物のヒナちゃんの誕生石が埋め込まれていて、
決して安くはなさそうだ。
ヒナちゃんは、私に言われるまで気づかなかったみたいだけど。
『どうしよう・・・こんな高い物、もらえないよ』
『もらえない、ってもう何年も前にもらったんでしょ?』
『う、うん・・・』
『しかも小鳥のデザインなんて。お兄ちゃんてばキザなことするね』
『え?どうして?小鳥がキザなの?』
『どうしてって。この小鳥、雛子、って意味でしょ?』
『・・・え?』
『ヒナちゃん・・・気づいてなかったの?』
『・・・』
この時ばかりは、お兄ちゃんに同情したものだ。
「と、とにかく!遅くなるなら電話くらい入れろよ」
「お母さんには、夕ご飯いらないってメールしたもん」
「俺にもしろ」
「なんで?」
「なんで、って・・・」
お兄ちゃんがムッとする。
なんでそんな機嫌悪いのよ。
茜と遅くまで遊んでたって、全然何も言わないし、
「迎えに来て」って言ったら、ブツブツ言いながらも車で来てくれるのに。
「・・・本当にデートだったのかよ?」
「はい?」
男と女で焼肉を食べることをデートと呼ぶなら答えは「YES」だ。
まあ、男ってゆーより、オスに近いけど。
「まーね」
「・・・」
「私だって、デートくらいするわよ。もう高1なんだから」
私はわざと肩をそびやかして言ってやった。
が。
「・・・」
お兄ちゃんはそのまま何も言わずに部屋に入って行ってしまった。
おや?
おやおや?
これってもしかして、ヤキモチ?
お兄ちゃん、私に彼氏ができたと思って妬いてるの?
・・・。
「うへへへ」
「舞。何1人でうへうへ言ってるの。早くお風呂に入りなさい。
あと、制服!ファブリーズしときなさいよ!」
どこのCMの母親だ。
「先生!昨日、ちゃんと森田とふ・た・りで、綾瀬学園に行ってきました!」
「そ、そうか。ありがとう・・・」
森田との焼肉「デート」の翌日。
ちゃんと私も行ったんだぞ!と言うことをアピールしつつ、
私は本城先生に、宇喜多先生からの「答え」を伝えに行った。
ちなみに森田は、「昼休みはバスケだ」とほざいて体育館へ行ってしまった。
「先生。本当にバスケしないんですか?」
「おー。誘いに来てくれたけどな。俺はコレだ」
そう言って、先生が持ち上げたのは湯飲み。
中からは梅昆布茶のいい香りが。
本当に茶をすすってるらしい。
「・・・まだ20代でしょ、先生」
「梅昆布茶ってうまいんだぞ」
知ってます。
「それに20代っつっても、22歳と29歳じゃ、赤ん坊と大人ほど差がある」
ないない。
「バスケはバリバリ22歳の新米教師に押し付けた」
「・・・」
なるほど。
そう言えば、森田達は1組の新米男性教師・葉山先生と一緒にバスケをやっている。
本城先生はたぶん、あえて葉山先生にそうするように言ったんだ。
そしたら、葉山先生はすぐに生徒と打ち解けられる。
現に、森田なんて、担任の本城先生より葉山先生と一緒にいる方が楽しそうだ。
「いけない。肝心の用を忘れるとこでした。宇喜多先生は、『行きます』だそうです」
「お。そっか。それはよかった。ありがとな、助かったよ」
「・・・先生」
私は声を低くした。
「宇喜多先生って、もしかして、本城先生の・・・」
私がそう言うと、本城先生がサッと赤くなった。
おおお。
先生でもこんな顔するんだ!
「お、お前・・・それ・・・宇喜多先生に聞いたのか?」
「女の勘です」
「・・・なんてはた迷惑な勘してやがるんだ。絶対誰にも言うなよ」
「えー。じゃあ口止め料に焼肉おごってください」
「昨日、食ったろ」
え?どうして知ってるの?
「もうちょっとちゃんと、制服をファブリーズしろ」
「・・・・・・」