第1話 プロローグ
 
 
 
どこにでもいるような、冴えない女の子。
その女の子が、例えば高校の入学式で、素敵な男の子に一目惚れする。

だけど、女の子はその男の子となかなかおしゃべりできない。
ライバルだってたくさんいる。

「彼が私を見てくれることなんて、絶対にない」
女の子はそう思ってる。

ある日、女の子が教科書を忘れて困っていると、男の子がさりげなく教科書を貸してくれる。
それから2人は仲良くなり、やがて好き合うようになる。

それでも、女の子は自信がない。
「私なんか、彼と釣り合わない」

だけど男の子は「俺が好きなのは君だけだよ」と最高の笑顔をくれる。

そして2人は、固い絆で結ばれる・・・




そんな赤い糸の物語。

この現実の世界にも本当にあるのかな?
うん、あるのかもしれない。
でも、私には関係ない。

ううん、途中までは関係ある。

途中?
ううん、プロローグだけなら関係ある。

そう、プロローグだけなら・・・



「はじめまして、私、平山望(ひらやまのぞみ)」

私の前の席の女の子が、私に振り返って自己紹介してくれた。
小柄で細くって、ちょっと上がった目尻が印象的な女の子。

私はその平山さんよりもっと小柄で、でもぽっちゃりしてる。
顔も特徴がなくってすごく地味。
「冴えない女の子」の典型だ。

「あ、は、はじめまして。飯島雛子(いいじまひなこ)です。よ、よろしく・・・」

私は小さな声で、つっかえつっかえ挨拶を返した。

「雛子って呼んでいい?私のことも望でいいから」
「は、はい。じゃあ・・・望、ちゃん」
「うん、よろしくね。雛子」

望ちゃんは口角を上げて、ニッと笑った。


今日は、私立朝日ヶ丘高校の入学式。
都内とは思えないほど緑豊かな丘の上のこの高校は、
まだ新しいけど私立高校の中じゃ結構レベルが高い。

私は中学校時代、特に遊んだり部活に熱を上げたりすることもなかったので、
勉強くらいしかすることがなかった。
お陰で成績は結構よかったけど、無理して受けた公立高校に落ちて、
ここに入学することになった。

何がなんでも公立に行きたかった訳じゃないけど、
私立ってお金持ちでおしゃれな人ばっかりのイメージだから、
友達ができるか心配だった。

でも、取り合えずこうやって望ちゃんという友達ができた。

それに・・・


私はさりげなく、後ろの方の席を見た。

一番後ろから2番目の廊下側の席。
そこに背の高い男の子が座っていて、
周りには、何人かの男子と女子が群がってる。
みんながみんな中学校からの友達って訳じゃないだろうに・・・人気者なんだな。

そうだよね、あんなにかっこいいんだもん。

私は、まだ名前も知らないその男の子に一目惚れしてしまったのだ。



入学式が始まる前、廊下で彼を見た瞬間、時間が止まったみたいだった。

整った顔立ちに、抜群のスタイル。
でもツンとしてなくて、人懐っこい笑顔。
本当に少女漫画に出てくる王子様みたいだ。


私は一目で虜になってしまった。


自分は一目惚れなんてするタイプじゃないと思ってた。
一目惚れするようなかっこいい男の子は絶対私のことなんて見てくれないだろうし、
そもそも、私は男の子を外見で好きになることなんてなかった。

・・・って言っても、今までまともに人を好きになったこともないけど。

じゃあこれって、私の初恋、なのかなあ・・・
それが一目惚れなんて、すごく意外。

だけど自分に呆れながらも彼から目が離せない。

本当にかっこいい。


私も彼も同じ1年1組。
それだけでじゅうぶん幸せ。



私が後ろを振り返った姿勢のまま、また彼から目を離せなくなっていると、
彼がふと私の方を見て、目が合った。

ど、どうしよう!

私は慌てて、目を逸らした。


・・・見てるの、ばれちゃったかな・・・?

恐る恐る、もう一度彼の方を見てみる。
彼はもうこっちを見ておらず、友達とおしゃべりをしていた。

そうだよね。私を見たわけじゃないもんね。


「あはは」

突然、望ちゃんが笑った。

「え・・・何?」
「雛子、三浦君のこと好きになったの?」
「え・・・三浦君?」

私は思わず顔を赤らめた。

「あの廊下側の席の背の高い男の子。三浦君って言うんだって」

三浦君・・・

「入試、2位だったんだよ!」
「え。2位!?」

すごい!
この朝日ヶ丘高校の入試で2位なんて!

「1位はさっき入学式で、新入生代表で挨拶してた女の子だけど。
もし三浦君が1位で挨拶してたら、一気にファンが増えてただろうなー」

望ちゃんはそう言って、三浦君の方をうっとりと見た。

・・・望ちゃんもその「ファン」の一人らしい。
って、私もだよね。

ファン、とかそういうつもりはないんだけど・・・
三浦君からみたら、やっぱりただの「ファン」、だよね。


あんな素敵な人に憧れても仕方ない。
どうせ私は三浦君とは一言も話せずに、1年が終わるんだ。
そして2年になってクラス替えがあって、三浦君とは別々のクラスになる。

三浦君は私の名前も覚えずに卒業するんだろう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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