第10話 100メートル走
 
 
 
校庭の土の上で、体育座りをしながら、
私は少し離れたところにいる三浦君を見た。

ちょうど100メートル走を終えた三浦君は、汗をぬぐいながら、
遠藤君たちと楽しそうにおしゃべりしている。


私の横には、私と同じように体育座りしている西田さん。


今日の体育の授業は1組と3組混合の100メートル走テストだ。
1学期にやった同じテストのタイム順にグループが作られてるんだけど、
私と同じグループということは、西田さんもかなり足が遅いらしい。


あれ?
西田さんの頭が、私と同じ方向を向いている。

・・・三浦君を見てるんだ。

私、西田さん、三浦君、の順で一直線上にいるから、
私からは西田さんの表情は見えない。

私みたいに三浦君に見とれているんだろうか?


それって・・・西田さんも、三浦君が気になるってこと?


私は膝を抱える腕に力を入れ、足とお腹の間に顔を埋める様にした。
でも、どうしても気になって、目だけは三浦君と西田さんの方へ向けた。

その時、三浦君が西田さんの方を見た。
たまたまじゃないだろう。

三浦君は西田さんがどこにいるかちゃんと分かっていて、振り向いたんだ。


三浦君が西田さんに微笑みかけた。
西田さんの髪が少し揺れる。
たぶん、微笑み返したんだろう。

まるで2人の間に特別な空気が流れている気がして、
それを邪魔しちゃいけない気がして、
私は息を止めた。


「はい、次のグループ並んで!」

先生の声がして、西田さんも私も慌てて立ち上がりスタートラインに並ぶ。
西田さんは私に少し微笑むと、前を向いてスタートの姿勢を取った。


「位置について!用意、スタート!!」

ピーッ!!


100メートル走なんて大嫌いだけど、スタートしてしまったからには一生懸命走るしかない。
私は夢中で前だけを見て走った。

でも、すぐに3人の女の子の背中が遠ざかっていく。
ああ、またビリだ・・・


・・・ん?3人?
このグループ、5人1組だったはず・・・
後の1人は?

思わず少し振り返ると、なんと私のだいぶ後ろに西田さんの姿が。

お、遅い。遅すぎる。
私より足の遅い人、初めて見たかも。

なんかもう「ポテポテ」と言う音が聞こえてきそうなテンポだ。
とても全力疾走しているようには見えない。
それに、なんだかペースも少しずつ落ちてきているような・・・


え?


少しずつどころじゃない。
西田さんのペースは急速に落ち、ついには歩き出してしまった。
そして・・・ピタッと足を止め・・・


ドサ!!


「西田さん!」

西田さんが倒れた!!

私は叫んですぐに足を止め、西田さんの方へ駆け寄った。
でも、それより早く、月島さんが西田さんのところへ辿り着いた。

「穂波!!穂波!!」

月島さんが急いで西田さんの肩を起こしたけど、
西田さんは全く反応しない。

私は、西田さんの傍に来たものの、どうしていいか分からず呆然と立ち尽くした。

「穂波!起きて!」

西田さんの顔は蒼白だ。
でも、それ以上に月島さんは真っ青。

こんな月島さん、初めてだ。


「月島!飯島!どいて!」

体育の先生が西田さんを地面に寝かせて、脈を取る。
月島さんは自分の左胸をギュッと押さえ、息をするのも苦しそうだ。

「・・・うん、大丈夫だ。脈も呼吸もしっかりしてる。ただの貧血だろう。保健室に運ぼう」
「ああ・・・よかった・・・穂波・・・」

月島さんは、ヘナヘナと西田さんの横に崩れ落ちると、
涙ぐみながら西田さんの頭をなでた。

「ごめんね、穂波。朝から元気なかったのに・・・もっとちゃんと見ててあげればよかった・・・」


こんなときなのに、私は月島さんから目が離せなくなった。
いつもはクールビューティな月島さんが、こんなに取り乱すなんて。

私、誰かのためにこんなに必死になったことってあったかな?


その時。

「西田さん!」

三浦君・・・

走ってきた三浦君が、西田さんの横にかがみこんだ。
そして。

西田さんをふわっと抱き上げた。

それはもう、本当に「ふわっと」。


私、
漫画で、かっこいい男の子が女の子を空気を抱くかのように軽々とお姫様抱っこをするのを見て、
「どんなに軽い女の子だって40キロくらいはあるんだから、そんなふわっと抱けるわけない」って
思ってた。

だけど三浦君は、今私の目の前で、それをやっている。


私は、それが三浦君と西田さんだと言うことも忘れて、思わず見とれた。

「俺、保健室に連れて行きます」
「ああ、三浦。頼んだぞ」
「待って!私も行きます!」


三浦君と月島さんが一緒に、西田さんを保健室へ連れて行った。


西田さん・・・
あんなにあの2人に想われてるんだ。


もし、私が倒れたら、あんなに心配してくれる人はいるんだろうか。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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