第12話 当たり前
 
 
 
 
三浦君人気は凄い。

だから、そんな三浦君が嫌っている人間のことは、
みんなも自然と避けるようになるわけで・・・


三浦君は、別に私に冷たくするとか、私のことを悪く言うとか、そんなことはしてない。
ただ、私と目を合わさない。
ただ、私の存在を無視する。

私も怖くて話しかけられない。


みんなもそんな空気を感じ取り、私から離れていった。

望ちゃんも、もう一緒に学食に行ってくれないし、話しかけてもくれなくなった。



あの日、家に帰ってから、三浦君の言ったことをよく考えてみた。
三浦君は何も間違っていない。

私、三浦君に西田さんと幸せになって欲しいとか言いながら、
三浦君が西田さんに振られたら、もしかしたら私のことを見てくれるかもしれない、なんて、
ありえない期待をどこかでしてた。

実際、三浦君が振られたと聞いたときも、さすがに「いい気味」とは思わなかったけど、
ホッとしなかったと言えば、嘘になる。

私にわざわざあんなことを言ったのは、
きっと私、無意識のうちに三浦君に「いい気味」的な態度を取ってたんだ。

三浦君が怒るの、当然だよね。




私は机でサンドイッチの袋を開けた。
さすがに一人で学食に行く気にはなれず、こうやって購買で買って食べている。
最初の頃はすごく寂しくて涙が出そうだったし、人目が気になったけど、人間慣れるものだ。

その時、溝口君が私と同じ購買の袋を手に、私の横の席に座った。

「飯島。一緒に食べていい?」
「・・・溝口君」
「今日、昼休みに入ってすぐ部活でちょっと集まりがあって。学食に行きそびれたんだ」
「そうなんだ」

そう。
みんな私から離れていったけど、
本当にありがたいことに、唯一溝口君だけは、今まで通り話しかけてくれる。
それでいて、相変わらず三浦君とも仲がいい。

不思議な人だ。

「まだ一人で食ってるんだな」
「うん。もう1ヶ月くらいかな。慣れちゃった」
「こんなことに慣れるなよ」
「・・・そう、だよね」

ああ。今日始めてしゃべったかも。
なんか口が上手く回らない。

溝口君はおにぎりを袋から取り出しながら言った。

「・・・三浦とは相変わらず?」
「うん。相変わらず」

溝口君にだけは事情を話してある。
って、他に私の話を聞いてくれる人なんていないんだけど。

「そっか・・・こんな状況、辛くない?」
「辛いけど・・・仕方ない。私が悪いんだもん」
「飯島が悪い?俺はそうは思わないけど」
「でも、三浦君の言ってることは当たってるもん」
「・・・」

溝口君は何か考え込んでいたけど、急におにぎりをパクパクと食べると、立ち上がった。

「飯島。ちょっと行こう」
「え?」
「三浦のとこ」
「ええ・・・いいよ、もう」

正直、もう三浦君に近づきたくない。

あんなことがあって、三浦君のことを好きじゃなくなったから、
ならいい。

むしろ逆だ。
あんなことがあったのに、私はまだ三浦君のことを諦めきれない。
あれほどはっきりと嫌われたのに・・・

だから、三浦君に下手に近づいてまた冷たくされるのが怖い。苦しい。
誰に避けられるよりも、三浦君に軽蔑されるのがイヤ。

私って本当に馬鹿だ。


でも溝口君は、私の手首を掴んでグイグイと引っ張って廊下を歩く。
みんな、「アノ飯島に何の用なんだ?」という目で溝口君を見る。

・・・イヤだ・・・恥ずかしい・・・

私は顔を伏せて、溝口君の影に隠れるようにして歩いた。


「三浦」

頭の上から溝口君の声がした。

「何?」

続いて、前の方から三浦君の声。
学食から帰ってきたようだ。

「ちょっと話があるんだけど」
「話?なん・・」

急に三浦君の声が途切れた。
私に気が付いたらしい。

「・・・なんだよ、話って」

三浦君の声のトーンが変わる。

「あっち、行こうぜ」

溝口君がまた私を引っ張って歩き出した。






「なんだよ、こんなとこまで来て」

不機嫌な三浦君。

ここは校庭の隅っこで人目にはつかないけど、
校舎から随分離れている。

でも、三浦君が不機嫌なのは、
お昼休みに「こんなところまで」つれて来られたからだけじゃないだろう。

「三浦。飯島ってお前になんかしたのか?」
「別に」
「だったら、なんで避ける?自分が飯島を避けたら、他の生徒も飯島を避けるようになるって分かってて、
飯島のこと無視してるんだろ?」
「そんなことない」

三浦君はそう言ったけど、溝口君の言葉は正しいような気がした。

「とにかく。理由がないなら、飯島を避けるな。仲良くしなくてもいいけど、普通に挨拶くらいはしろよ」
「うるさいな」

三浦君は溝口君を睨んだ。
教室じゃ絶対見せないような顔だ。
でも溝口君は見慣れているのか、全く動揺しない。

それに私も・・・なんかこういう三浦君を意外だと思わなくなってきた。

「なんかムカつくんだよ」

溝口君が笑った。
呆れたような笑いだ。

「お前さ。ムカつくからって無視するのかよ?ガキだなー」
「なんだと?」

三浦君が溝口君にグッと近づく。

「だってそうだろ。嫌いな人間に対しても、最低限の礼を持って接するのが大人だろ」
「・・・話はそれだけか?俺、もう行くからな」

そう言うと三浦君は、早足で校舎の方へ戻って行った。


「・・・・・はあ」
「あはは、どうしたんだよ、飯島?」

脱力した私を見て、溝口君が笑った。

「・・・寿命が縮まった」
「ムカつくって言われたから?傷ついた?」

それはもちろんいい気はしないけど、そうじゃない。

「よく三浦君にあんなこと言えるね・・・溝口君て怖いもの知らず」
「三浦は友達だから『怖いもの』じゃない」

え?

「そうだけど・・・嫌われたらどうしよう、とか思わないの?」
「思わない。友達だからこそ、間違ってることは間違ってるって言ってやりたいし」

当たり前のように言う溝口君。

でも私は、その「当たり前」のことに、強い衝撃を感じた。



 
 
 
 
 
 
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