第13話 友達
 
 
 
私は昨日のお昼休みからずっと、
溝口君の言っていたことを頭の中で繰り返していた。

「友達だからこそ、間違ってることは間違ってるって言ってやりたいし」

そう、だよね。
それって当然だよね。

でも、私、今までそんなことしたことあったっけ?
そんなことされたことあったっけ?


溝口君のその言葉に、100メートル走の時倒れた西田さんを心配していた月島さんの姿が重なる。


私、今まであんなに誰かを心配したことってあったっけ?
心配されたことってあったっけ?


答えは全部「NO」だ。
今はこんな状況だから仕方ないにしても、
これから先、私にそんな友達ってできるんだろうか。

昨日の午後、私はずっと冷や冷やしていた。
お昼休みのことのせいで、三浦君と溝口君が気まずくなってしまったらどうしようと、心配していた。

でもそんな心配は無用だった。

最初のうちは、三浦君は少し溝口君を避けてたみたいだけど、
溝口君がいつも通り三浦君に話しかけるから、
三浦君もいつの間にか「いつもの教室での三浦君」になってた。

きっと三浦君と溝口君が本当の友達だからだろう。


2人はどうやって友達になったんだろう?
中学は違うから、高校で友達になったんだよね?
西田さんと月島さんだって・・・

友達ってどうやって作るんだろう。

そう言えば、入学式の後、望ちゃんに声をかけられて、
望ちゃんと私は友達になった。

今は、私がみんなに避けられてるから望ちゃんも私に近づきにくいのか、
話せなくなっちゃったけど・・・

よし。

私は購買で買ってきたおにぎりを握り締めて、辺りを見回した。
誰か、いないかな・・・

でも、見回すまでもなく、すぐに「標的」を発見した。

高山さんだ。

高山さんは、お弁当を持ってきているので学食には行かず、
お昼休みは本を読みながら一人でご飯を食べている。
(しかも、英語の本)

2学期の初めに席替えがあって席が離れたから、最近はあまり話してないけど・・・

私は思い切って、席を立ち、高山さんのところへ歩いて行った。


「あ、あの、高山さん・・・」
「・・・何?」

本から顔を上げた高山さんは、私を見て微妙な表情をした。

「あ。ご、ごめん・・・本読んでるのに邪魔しちゃって」
「そんなことないけど」

・・・そうか。
みんなに避けられている私と話すのが嫌なんだ。

そうだよね・・・

私は高山さんにもう一度謝って、席に戻ろうとした。

「え?待ってよ、飯島さん。何か話があるんじゃないの?」
「そういう訳じゃないの。ただ・・・ううん、ごめんね。なんでもない」
「そうなの?でもちょうどよかった。私、飯島さんに言わなきゃいけないことがあって。
よかったら一緒にお昼食べない?」

ええ?

「あ・・・うん」

私は拍子抜けして、高山さんの前の席に座り、高山さんの方を向いた。
高山さんも本を閉じて机の中にしまう。

「ごめんね」
「へ?」
「ずっと、謝ろうと思ってたんだけど、なかなか言い出せなくって。
特に最近、みんなが飯島さんのこと避けてて私もなんとなく・・・」
「いいよ、そんなの」

私が高山さんの立場なら、私も同じことしてたと思う。
でも私は、こうやって高山さんみたいに謝る勇気はきっとない。

「あれ?ずっと謝ろうと思ってたって、そのこと?」
「ううん。違うの。三浦のこと」

三浦君のこと?

私が首を傾げていると、高山さんは周りを気にして少し小声で言った。

「前、私、飯島さんに、三浦は飯島さんの気持ちに気づいてないと思う、って言ったよね?」
「え?うん」
「あれ、嘘なんだ。三浦は飯島さんの気持ちに気づいていると思う。
あいつ、そういうことに関してはかなり敏感だから」
「ああ・・・うん、そうみたいだね・・・」

もう振られたけど。

「私、そうだと分かってたのに、飯島さんに嘘ついた。ごめんね」
「そんなこと気にしなくていいよ・・・でも、どうして?」
「飯島さんの夢、って言うか、三浦に対する憧れを壊しちゃかわいそうかなと思ったから」
「憧れ?」
「うん。あいつさ・・・ちょっと二重人格なんだよね」

二重人格!

なんだか頭の中のモヤが晴れた気がした。
そうか、「二重人格」。

私、なんとなく「教室での愛想のいい三浦君」と「私や溝口君の前での無表情で怖い三浦君」って
勝手に分けてたけど、それって三浦君が二重人格ってことなんだ!

なんか、こうやって一つの言葉になると、
三浦君と言う人間がよく分かった気がする。

そうかあ。三浦君って二重人格だったんだ。


私が一人勝手に納得していると、高山さんが言葉を続けた。

「中学校の時ね、三浦に振られた女の子がいたんだけど、
その子、振られた後もしつこく三浦に付きまとってたの。そしたら三浦、急にその子に冷たくなって
無視するようになって・・・いつの間にか他の生徒もその子のこと無視しだして、
結局その子は卒業まで誰も友達ができなかった」
「そうなんだ・・・」
「飯島さん見てて、その子のこと思い出したの。だからやっぱりちゃんと三浦が本当はどんな人間か、
話さなきゃって思ってたんだけど・・・ちょっと遅かったかな。本当にごめんね」

しょげ返る高山さん。
でも私は思わず笑ってしまった。

「どうして高山さんがそんなに謝るの?高山さんは何も悪くないのに・・・
悪いのは、三浦君が二重人格って気づけなかった私、っていうか、
気づいてたのに、それでもまだ好きな私が悪いんだよ」
「え?気づいてたの?しかも、まだ好きなの!?」

高山さんは口をあんぐりと開けた。

「飯島さんて・・・馬鹿ね」
「うん。自分でもそう思う」
「それに『どうして高山さんがそんなに謝るの?高山さんは何も悪くないのに』って、
飯島さんも、いっつも自分が悪くないのに謝ってばかりだと思うけど?」
「えっ・・・」

私はちょっとムッとした。
私、そんなに謝ってばっかりの人間じゃないもん。

「謝ってばっかりだよ」
「違うもん」
「特に三浦に対して」
「・・・」
「いつまでもあんな変な男に惚れてたら時間の無駄よ」
「・・・変じゃないもん」
「変よ。飯島さんも」
「・・・・・・」

高山さんは笑いながらお弁当の蓋を開けた。



 
 
 
 
 
 
 
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