第16話 ヒナコ
 
 
 
日本は銃の所持が禁止されていて本当によかった。
もし、禁止されていなかったら、今日この朝日ヶ丘高校の1年1組で、
確実に一人死者が出ていた。


「雛子。別に銃じゃなくても人は殺せるのよ」
「奈々・・・」
「ナイフ、持ってない?」
「持ってるわけないでしょ」
「紐でもじゅうぶんよ。後ろから回して首を絞めて・・・」
「奈々!」
「でも手頃な紐ってのもないわね。そうだ、石で殴ればいいわ。うん、そうしよう」
「・・・」

昨日三浦君に「高山と友達をやめて俺と付き合え」みたいなことを言われた、と、
奈々に言ったら、この始末だ。

爽やかな土曜日の朝だと言うのに。

「それで、なんて返事したの!?この期に及んで、泣いて喜んだ、とか言わないよね!?」
「な、泣いてないって・・・」
「じゃあ、喜んだの!?」
「喜んでもないって。最後まで話を聞いて!」
「何よ!?これ以上、何かあるの!?」
「だ、だから・・・」


三浦君曰く。
溝口君に怒られてから三浦君なりに色々考え、やっぱり私に対する仕打ちは酷かったと反省したらしい。
で、私の現状を何とかしようと考えた結果・・・

「『俺が飯島と付き合えば、みんなが飯島を見る目も良くなるだろう』って」
「な、な、な、な・・・」
「奈々」
「ちがーう!!!何よ、それ!!!!」
「王子様」
「へ?」
「だって、『何よ、それ!』の後に『あいつ、何様!?』って言おうと思ってたんでしょ?」
「・・・よく分かるわね、雛子」

奈々は感心したように言った。

その時、ちょうど当の三浦君が登校して来た。
私が止めるより早く、奈々が三浦君のところへすっ飛んで行く。

「三浦。ちょっとツラ貸しな」

・・・奈々・・・裏・三浦よりよっぽど怖いよ・・・




三浦君は、奈々の呼び出しに一瞬で裏・三浦に変身(?)した。
そして、さすがは裏・三浦。
ズル賢いことにかけては右に出るものはいない。

なんと、奈々が呼び出した体育館の裏(本当に喧嘩するみたい・・・)に、
溝口君を連れて現れたのだ。

「・・・どうして溝口君が一緒なのよ」

ワナワナを震える奈々に、三浦君は事も無げに言った。

「いやー、一人だと怖いからさぁ」
「こ、この!!!」

だけど、奈々も大したものだ。
何故自分がここにいるのかさっぱり分かっていない溝口君に聞こえないように言った。

「溝口君がいるからって、私がしおらしくするとでも思ったの?」
「・・・」
「舐めないでよね!」

奈々が急に大きな声になった。

「三浦!あんた、何様のつもり!?あ。王子様とか言ったら張り倒すからね」

・・・・・・。

「優しい雛子に代わって私が言ってあげる。あんた、酷すぎるよ。
自分が振られたからって雛子に八つ当たりしたかと思えば、今度は『付き合え』って?何考えてるの?」
「ちょっとは責任取ろうと思ったんだよ」
「だったら!もう雛子には近づかないで!」

奈々が、守るように私の前に立った。
でも三浦君は奈々の攻撃を何とも思ってないみたいで、ニヤニヤしながら言った。

「飯島って俺のこと好きなんだろ?だったら飯島も俺と付き合えたら嬉しいんじゃないのか?
高山が『近づくな』って言っても、飯島は近づいて欲しいかもよ」
「雛子!どうなの!?」

今度は奈々の怒りの矛先が私へ向いた。

「ど、どうなのって・・・」
「三浦のこと、まだ好きなの?こんな奴のこと!?こんなエセ王子様野郎のこと!?」
「おい、高山。なんだそのエセ王子様野郎って」

うっ。

私が返答に困っていると、三浦君が勝ち誇ったように笑った。

「高山の負けだな。さっさと飯島から手を引け」
「ひ、卑怯よ、三浦。雛子の気持ちを利用して・・・」

その時。

「おいおい。ちょっとタンマ」
「溝口君・・・」

黙って私達3人のやり取りを聞いていた溝口君が、口を開いた。

「事情はなんとなくわかった。高山、理由はどうであれ三浦は飯島に『付き合おう』って言ったんだろ?」
「・・・『付き合え』よ。命令形」
「それはともかく。だったら、付き合うかどうかは飯島が決めたらいいだろ。それに、三浦」
「・・・なんだよ」
「飯島が誰と友達でもお前には関係ないだろ。飯島と高山が友達でも、お前は飯島と付き合えるんだし」
「・・・高山に近づきたくない」
「私だって!」
「彼女の友達だからって、三浦が仲良くする必要もないだろ」
「・・・」

三浦君と奈々は押し黙った。

「飯島」
「な、何?」
「で、お前はどうしたいんだよ?三浦と付き合いたいのか?」
「・・・」

どうなんだろう。
万が一、三浦君が私を好きだというのなら、付き合いたいけど、
こんな理由じゃ・・・

でも、せっかくの好意だから、断るのも悪いかな?
それに三浦君の考えが当たれば、私もまた友達ができるかもしれない。

そうだ。それに、奈々。
私のせいで、今は奈々までみんなに避けられてる。
奈々にいつまでもこんな思いはさせられない。

「・・・うん。付き合う、よ」
「よしよし、素直でいいぞ」
「雛子!」

三浦君と奈々が同時に言った。

「ダメよ、雛子!」
「でも・・・」
「どうせ、私に遠慮してるんでしょ!?私のことはいいから!」
「うるさい、高山。飯島が俺と付き合うって言ってるんだから、飯島の意思を尊重しろよ。
お前、飯島の友達なんだろ?」

三浦君はまた勝ち誇ったような声を出した。

三浦君・・・もはや理由はどうであれ、私と付き合いたい、と言うより、
奈々を言い負かしたいんじゃ・・・

奈々は、悔しそうに地団太を踏んだ。
けど。
何を思ったのか、急に冷静になった。

「分かったわ。雛子があんたと付き合うこと、認める」
「そりゃどーも」
「でも条件がある」
「条件?」

三浦君の顔が曇る。

「雛子のこと、名前で呼びなさいよ」
「名前?」
「そう。ヒ・ナ・コって」
「・・・」
「雛子は、仲のいい友達とかとは名前で呼び合いたいんだって。ね、雛子?」

そ、そうだけど・・・三浦君にそこまでしてもらわなくていいのに・・・

とは言え、そんな大した要求じゃないと思う。
なのに三浦君は何故か凄く不機嫌になった。

「イヤだ」
「はあ〜?彼女のこと、名前で呼ぶの恥ずかしいの〜?
そう言えば、三浦って、中学の時何人か彼女いたけど、名前で呼んでたことないよね〜?」

奈々・・・それを知っててわざと三浦君をいじめてるのね?

「ねえ、雛子。名前で呼んで欲しいよね?」
「・・・うん」
「おい、飯島!」

本当はどうでもいいけど、私も少しくらいワガママを言ってみたくなった。
本物の彼氏と彼女じゃないけど・・・そういうの、憧れるし。
これでもし三浦君が「じゃあもういい」と言えばそれはそれでかまわない。

「・・・わかったよ」

三浦君がため息混じりに言った。
奈々は「よし!」とガッツポーズをする。

「練習しとく」
「「「何を?」」」

三浦君以外の3人がハモった。



 
 
 
 
 
 
 ↓ネット小説ランキングです。投票していただけると励みになります。 
 
banner 
 
 

inserted by FC2 system