第17話 藍原さん
 
 
 
翌日。
三浦君の練習の成果が発表された。

「ヒナ」
「ヒナ?」
「そう『ヒナ』にした」

・・・勝手にされても。

「『ヒナ』だったら、鳥のヒナだと思えば言えなくもない」
「・・・」
「飯島って、本当に鳥のヒナみたいだしな。雀とかの」
「・・・・・」

私の前に座っている奈々はちょっと不満そうだったけど、
諦めたのか三浦君に食って掛かることはしなかった。

「あ、あの。私は三浦君のことなんて呼べばいいの?」

するととたんに三浦君が赤くなった。

「普通でいい!今まで通りでいい!」
「えー・・・」
「わかったな!ほら、学食行くぞ!」

三浦君が、座っている私の腕を引っ張った。

「三浦!雛子は教室で私とお昼ご飯を食べるの。ほら、もう購買で買ってきてあるし」
「それを学食に持って行って食えばいいだろ。俺と飯島が付き合ってるってアピールしないと意味ないし」
「『飯島』じゃないでしょ」
「・・・ヒナ」
「よろしい」

そっか。そうだよね。
「三浦君と私が付き合えば、みんなの私を見る目も変わるかも」作戦なんだから。

「あ。高山は来なくていいからな」
「行くわよ!」


こうして何故か、私の右隣に三浦君、左隣に奈々、という並びで学食の席につくことになった。
実は私は左利きだったりするので、左隣に誰か座られると、
お箸がぶつかって食べにくいんだけど・・・

「だから俺は右に座ってるだろ?」

得意げな三浦君。

「私を無理矢理雛子の左に追いやっといて、何言ってるのよ!」
「高山がついて来なけりゃいい話だ」
「あのね!」

どうでもいいけど、私を挟んで喧嘩しないで欲しい。
三浦君と私が一緒にご飯食べてるだけでも既に注目の的なのに、
ますます人目を惹いている気がする・・・。

「あれ?飯島に高山。どうしたんだよ」

何も知らない遠藤君が、いつも通りの軽い感じで三浦君の前の椅子に座った。

「えっと・・・」
「遠藤。俺、飯島と付き合うことにしたから」
「へ?」

三浦君はそれ以上説明しなかったけど、遠藤君は「そうなんだー」とか言って、
特に不思議がるでも質問してくるでもなかった。

もっとビックリされるかと思ってたんだけど・・・まあいっか。


それから溝口君もやってきて、遠藤君の隣、つまり私の前に腰を下ろした。
奈々の斜め前だ。

奈々がちょっと赤くなって俯く。

・・・昨日の奈々を見られてるのだから、今更照れる必要もないと思うんだけど。

「お。さっそく彼氏・彼女やってるんだな」
「う、うん」
「なんか、色んな女子の視線が痛いな」
「うん。ごめんね」
「いや、別に、」
「そうだ!!」

突然、溝口君を遮って遠藤君が叫んだ。

「飯島!三浦の・・・俺の友達の彼女ってことは、飯島は俺の友達でもあるよな!?」
「えっ」

そうなんだろうか。
ロクに話したこともないんだけど。

三浦君は助けてくれるつもりはないらしく、無言で食事をしてる。

「友達だったら、俺の頼み、聞いてくんない!?」
「え?頼み?」
「そう!」

私と奈々は顔を見合わせた。





「用って何?飯島さん」

放課後。私は3組の教室へ出向いた。
お昼休みに遠藤君に言われた「頼み」を果たすために。

なんてことはない。私に藍原さんとの仲を取り持って欲しいらしいのだ。

でも、はっきり言ってそんなの無理。
だって私、藍原さんと話したこともない。
前に一緒に遊園地に行ったけど、その時も藍原さんとは別行動だったし。

それに・・・こんなかわいくて人気のある人になんて、近寄り難い。

でも一応「友達」(?)である遠藤君の頼みなので、仕方なくやってきたんだけど、
やっぱりいざ藍原さんを目の前にするとどう取り持っていいのかわからない。

取り合えず、遠藤君の話をしなきゃ。

「あのね、えん・・・」
「そうだ!!」

藍原さんが私を遮った。
あれ?さっきの遠藤君みたいだな。
案外この2人、似た者同士なのかも。

「ねえ、飯島さん。三浦君と付き合ってるってホント!?」
「う。うん」

って言わないと、ダメなんだよね?
それにしても情報早いな。

藍原さんは目を丸くした。

どうしよう・・・「なんでアンタなんかが三浦君と!?」って思ってるのかな・・・

だけど、そうじゃないらしい。

「うわあ!おめでとう!飯島さん、ずっと三浦君のこと好きだったんでしょ?
よかったねー!ついに想いが成就したんだ!」
「え、ええっと・・・成就って言うか・・・」
「いいなあ。羨ましい。私もそんな恋、してみたいなあ」

え?

「だって・・・藍原さんてモテるでしょ?恋なんていくらでも・・・」
「自分も本気で好きになった人と恋してみたいの!私、なんか中々本気で人を好きになることってなくって」

そうなんだ・・・ちょっと意外かも。

「あ、じゃあ、あの、遠藤君なんてどう?」
「遠藤?どうして?」

藍原さんは本当に不思議そうに首を傾げた。
そんな仕草もかわいくって、思わず見とれてしまう。

こんな純情な藍原さんに嘘はつけない。

「実は、遠藤君に、藍原さんとの仲を取り持って欲しいって頼まれたの」
「・・・」
「私になんか頼むのもどうかと思うんだけど・・・あ、つまりそれだけ遠藤君は切羽詰ってる訳で・・・」
「イヤ」

イヤ、ですか。

「遠藤のことがイヤなんじゃないの。どっちかと言えば好きだし」
「そう、なんだ」
「でも、もっと燃えるような恋をしたいの!片思いでもいいから!」

藍原さんは本気でそう言った。

「もし思いっきり恋をして、ばっさり失恋したら、出家する覚悟で遠藤と付き合ってもいいけど」
「いや、そんな覚悟はいらないと思うけど・・・」
「うーん。なんとなくなんだけど、もし遠藤と付き合ったりなんかしたら、別れられない気がするのよね」
「え?どうして?」
「だから、なんとなく。妙にしっくりきて『このまま付き合っててもいいかー』ってなっちゃいそう」

それって、凄く相性がいいってことなんじゃ・・・

「だからその前に本気の恋をしたいの!
もちろん、その恋が成就したら、遠藤のことなんて忘れちゃうだろうけど」
「・・・」
「って、遠藤に言っといて。じゃあね」


藍原さんはそう言うと、廊下を歩いて行ってしまった。



 
 
 
 
 
 
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