第18話
 
 
 
「・・・」
「・・・」
「・・・っぷ」
「・・・三浦・・・」
「だって・・・あははは!藍原らしいな。ははは」

翌日、私が「取り持ち」の結果報告をしたら、
遠藤君と溝口君、奈々は微妙は表情、
三浦君は大爆笑だった。

「つまり遠藤は、藍原と付き合うためには、
少なくとも一度、藍原の大恋愛を指をくわえて見てなきゃならないのか・・・あはは、面白いな、それ」
「面白くないだろ!『かわいそう』だろ!」
「いやー、かなり面白い」

ゲラゲラ笑う三浦君に、さすがの遠藤君もぷーっと膨れる。
私は、と言えば、なんだか遠藤君に申し訳なくって小さくなった。

「ヒナ。よくやった。ご褒美に米粒やるよ」
「・・・いらない」


せっかくのクリスマスイブ。
学校も終業式だけで、普通のカップル達はラブラブモード全開で帰って行った。
普通のカップルではない私達と、
普通にカップルではない溝口君、奈々、遠藤君の5人は、
学校の近くのカフェで「作戦会議」を開いていた。


「よし!解散」
「三浦。まだ何にも作戦立ててないだろ」
「作戦って、藍原を落とす作戦だろ?俺、やっても無駄なことには労力使わない主義だから」
「・・・」
「それにそんなもん、遠藤が一人で考えろよ」
「友達だったら、それくらい協力してくれよー!」
「俺と遠藤って友達だっけ?」
「・・・・・・」

三浦君は冷た過ぎるし、遠藤君はかわいそう過ぎるけど、
三浦君の言っていることには妙に説得力がある。
という訳で、本当に「解散」となった。


「雛子。行こう!」
「うん!頑張ろうね!」

奈々と2人で気合を入れていたら、頭を真上からむんずと掴まれた。

「ヒナ。どこに行くんだよ?クリスマスイブなんて、恋人同士のイベントに決まってるだろ」
「・・・えーと・・・」

学校の外じゃ、みんなに「付き合ってます」アピールできないから、
一緒にいる必要はないんじゃないかな?
と、言いたかったけど、言ったら何故か怒られそうなのでやめておいた。

「三浦。今日はずっと前から雛子とレストラン行く約束してたの」
「俺とヒナが付き合う前にした約束だろ。そんなもん、無効だ」
「なっ」
「ねえ!奈々、三浦君も一緒に行ってもいいかな・・・?」

妥協案を提示してみた。
でも、こういうのって、政治の世界とかではあっさり却下されちゃうんだよね、
と、思ったら。

「・・・まあ、私はいいわよ」

あれ?あ、そっか。三浦君が来るってことは溝口君も来てくれるかもしれないもんね?

「でも、三浦だけよ。溝口君と遠藤君はダメ」

あれあれ?

三浦君も首を傾げたけど、特に他に予定もないらしく「じゃあ一緒に行く」と言った。

「じゃ、俺は帰るな」
「う、うん」

いいの、奈々?溝口君、本当に帰っちゃうよ?

「俺は一緒に行きたい!!いいだろ、高山?」

これまた予定のないらしい遠藤君が、奈々に頼み込む。

「遠藤君か・・・ま、いっか。ね、雛子?」
「え?私はもちろんいいけど」

三浦君と遠藤君はよくって溝口君はダメなの?
しかも奈々がそう言うんだから、よくわからない。


いや、よくわかった。



「高山・・・これのどこがレストランなんだ!?」

レストランに入ったとたん、三浦君は憎々しげな声を出した。

「何言ってるの、三浦。立派にレストランじゃない」
「そうだぞ、三浦!すげーじゃん!!!」
「さすが遠藤君!話がわかるわ!」
「おう!頑張ろうぜ!」
「もちろんよ!倒れるまで食べてやる!」

・・・・・・。

そうだった。
以前から奈々と「クリスマスイブに行こうね!」と約束していたレストラン。
その名も「デザートバイキング フレッシュ☆ピンクベリー」。
名前を聞くだけで、どういうレストランなのか、どういう内装なのか、
そしてどういう客層なのかが分かる。

私と奈々はともかく、何故か違和感のない遠藤君。
そして違和感ありまくりの三浦君。

溝口君を連れてこなくて本当によかった。

「・・・目がチカチカする。耳が痛い。甘い匂いがムカつく。ヒナ、帰るぞ」
「前払いだからもうお金払っちゃったし・・・」

三浦君はため息をつきながら、案内された席に座った。

「・・・匂いと見た目だけで、満腹になりそう・・・」

まあ確かに、カウンターの前には所狭しとケーキやアイス、お菓子なんかが並べられている。
男の子にはちょっときついかもしれない。

「で、でも、サンドイッチやパスタもあるよ!カレーとかも。
それに、クリスマスイブで結構カップルも多いから、男の人もいるし!」

そう。それがせめてもの救い。

それでもまだ不機嫌な三浦君。
もうちょっとフォローしようかと思ったけど、早速お皿片手に食べ物を物色しに行った奈々と遠藤君に、
遅れを取るわけにはいかない。

「三浦君!私も行ってくるね!」
「・・・ヒナ、俺を見捨てるつもりかよ」

取り合えず三浦君は置いといて、私は早速チョコレートケーキとチーズケーキ、
そしてお目当てのクリスマス仕様のショートケーキをお皿に盛り付け、
キャラメル味の飲み物を取って席に戻った。

既に奈々と遠藤君は「早く!早く!お腹がすいた!」と言わんばかりに席で待っている。


「じゃあ、いっただっきまーす!!」

3人が勢い良く食べだしたけど、奈々はちょっとフォークを止めて三浦君に嫌味っぽく言った。

「あれ、三浦。食べないの?」
「・・・食べない」
「1400円も払ったのにもったいない」
「・・・」

すると三浦君は私のお皿からチーズケーキを一つつまんだ。

「お、美味しいでしょ?」
「まーな。でも一個でじゅうぶん」
「そんな、もったいないよ!ねえ、甘くない物を取りに行こうか?」

三浦君を引っ張って、もう一度カウンターへ行く。

それは、私がお皿とフォークを取りに行ったホンの数秒間のことだった。
どこから現れたのか、3人の女の子達が三浦君を取り囲んだ。

「お一人ですかぁ?」

んなわけねーだろ!!!
って三浦君の目が一瞬言ったけど、幸い女の子達には気づかれなかったようだ。

三浦君は、裏・三浦は隠して、「三浦君」モードでにこやかに言った。

「ごめんね。彼女と着てるんだ」
「ええー!そうなの?」

当たり前だろ!って、また目が言ってる。

「そっかあ。ざんねぇ〜ん。どの子なんですかぁ?」
「そいつ」

いい加減うんざりしたのか、ちょっと裏・三浦に変身しつつ三浦君が私の方を顎でしゃくった。

・・・あ、そっか。私、三浦君の「彼女」なんだ。
・・・って、凄い。
あの「三浦君」の彼女が私だなんて。

信じられない・・・

これで両思いなら最高なんだけど、そんな贅沢は言えない。


私を見た女の子達の顔には明らかに「こんな子が彼女!?ありえない!」って書いてある。
そうだよね、やっぱりおかしいよね・・・?

でも三浦君は女の子達を無視して私に近づくと、
「さっさと食おうぜ」と言って、私の手からお皿を取り上げた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 ↓ネット小説ランキングです。投票していただけると励みになります。 
 
banner 
 
 

inserted by FC2 system