第20話 冬休み
 
 
なんちゃってカップルの私達は、
冬休みの間も特にデートらしいデートとかをすることはない。

「付き合ってます」アピールをするために、学校に宿題をしに行くくらい。
メールや電話もその予定を立てるのにしか使わない。

もっとも、冬休みの学校には部活をやっている人くらいしかいないけど。

あ。あと、月島さん、ほとんど毎日来て勉強してるみたい。
それに、西田さん。
西田さんは毎日とはいかないにしても、ちょくちょく月島さんと勉強している。

2人とも凄いなあ。
私、三浦君に誘われなきゃ、休み中に学校に来ようなんて絶対思わないのに。

西田さんは、私達を見て安心したように微笑んでいた。
そして三浦君も「三浦君スマイル」で微笑み返していた。

「・・・西田さんには『裏・三浦』は見せてないんだね」
「は?」
「なんでもない」

それって西田さんは三浦君にとって、信用できる人間でも嫌いな人間でもないってことなのかな?
それとも好き過ぎて、緊張して素が出せないのかな?

でも、どちらにしろ、三浦君はもう西田さんのことは吹っ切れたみたい。
だって、西田さんを見ても、昔みたいに切ない表情をすることはなくなったし、
西田さんと話しても、特に明るくなったりすることもなくなった。

これは三浦君にとってよかった、のかな?

そんなことを考えていた時、あることに気づいた。
一つは・・・

「ねえ、三浦君。三浦君は私と付き合ってたら、本当に好きな子と付き合えないんじゃない?」

そうなのだ。
私とこんな「なんちゃって」とは言えカップルをしていたら、三浦君に本当の彼女ができないじゃない。
私は三浦君と付き合ってなくても、できないだろうけど。

すると。

「もうしばらく女はいい。疲れた」
「・・・何をそんな大人っぽいことを・・・」
「ヒナがさっさと立場を回復したらいいだろ。そしたら別れられる」

誰のせいでこうなったと思ってるの!?って奈々が怒りそうだ。


それと、もう一つ気づいたことがある。

「なんだよ?何見てるんだよ?」

私の視線に気づいた三浦君が宿題の問題集から顔を上げた。

「・・・ううん。なんでもない」
「?あ、そっか。さては俺に見とれてたな?」
「・・・違う」

私はそう言ったのに、三浦君は「照れるなって」とか言いながら、また宿題を始めた。

確かに見とれてはいた。
三浦君は相変わらずかっこいい。
ううん、入学した頃より大人っぽくなって、ますますかっこよくなった気がする。
先輩とかにも告白されたりしてるみたい。

しかも、
クリスマスにデビューしたKAZUって言う芸能人と三浦君が似てるって、奈々が言ってた。
私もKAZUをテレビで見たけど、中学3年生とは思えないほどかっこよかった。
そして確かに三浦君と似ている。
思わず「KAZUも二重人格なのかなあ」なんて思ってしまったくらい。
この分じゃ、3学期が始まったら三浦君人気は更に上がりそうだ。


そんな三浦君と、私が付き合ってる。

今でも信じられない。

だけど・・・


私は自分の左胸に手を当ててみた。
普通に、トクントクンと音を立てている。
三浦君と2人で並んで座ってる、なんて、少し前なら心臓が破裂するくらい緊張していた。
でも今は、そんなことはない。

もう一度、三浦君の横顔を見る。
やっぱりかっこいい。
でも、以前のようにドキドキする、って言うのとは違う。

「かっこいい」も前のキラキラしたかっこよさとは少し違う気がする。


これって、もしかして・・・
裏・三浦を知ってしまって、やっぱり少し幻滅したのかな・・・?
そんなつもり、ないんだけど・・・


「だから。なんだよ、さっきからチラチラ見やがって」
「うん・・・やっぱりかっこいいな、と思って」
「・・・なんだよ急に。そんな褒めても米粒はやらないぞ」
「・・・いらない、って」


私、どうしちゃったんだろう?

ため息をついて、私も三浦君と同じ問題集に目を落とした。
三浦君は、学校でしか冬休みの宿題をやってないみたい。
私もそうだ。

それなのに、進捗状況には著しく隔たりがある。
それも、もし三浦君が私の手伝いをしてくれていなかったら、もっと隔たっていただろう。


あ。まただ。またこの問題わからない。

「三浦君・・・この数学の問題・・・」
「またかよ?」

三浦君がうんざりした声を出す。
だよね。
今日だけでもう5回目だもんね。

「ヒナはどうしてそんなに数学が苦手なんだよ」
「・・・さあ・・・三浦君は理系科目が得意だよね・・・いいなあ。お医者さんにでもなるの?」
「理系科目が得意だったら医者か。なんて世界が狭いんだ、ヒナ」

だけど三浦君は呆れながらもちゃんと私に勉強を教えてくれる。
私なんかと付き合ってなければ、もっと自分のペースでさっさと宿題を終わらせられるだろうに・・・
本当に申し訳ない。

「―――、だ。わかったか?」
「あ。ごめん、聞いてなかった」
「・・・おい」
「ご、ごめん・・・」

三浦君は今度こそ完全に呆れたようだ。
でも、そんな憂い(ちょっと違うかな)を湛えた表情もなんだか色っぽい。

「・・・やっぱり三浦君はお医者さんなんかになっちゃダメだね」
「なんだ、また急に」
「三浦君みたいにかっこいいお医者さんなんて、モテてモテて仕方ないよ」

女の人に言い寄られまくったら、三浦君、またイライラしそうだもん。
それに、「三浦先生」目当てで病気じゃない人とかも病院にきそう。

だけど三浦君は、何やら勘違いしているようだ。

「そーか、ヒナ。俺がモテるのイヤか」
「えっ。そーゆー意味じゃ・・・」
「医者かあ。まあ、悪くない。でも私立の医学部なんて学費が高すぎて無理だな。
となると、国公立の医学部だな」

あれ。
本当にお医者さんになるの?

「ヒナが受かるかどうか微妙だな」
「ええ?私、国公立の医学部なんて受けないよ?」
「バカ。ヒナが医学部に受かるわけないだろ。第一ヒナが医者になんかなったら、助かる患者も助からない」

・・・確かに。

「俺と同じ国公立のどっかの学部に受かるかな、って言う意味だよ」
「ああ、なるほど」

って、私、三浦君と同じ大学受けるの?
受かる訳ないじゃない。
それに、大学受験なんてまだ2年後だよ?
それまでこんな「なんちゃって」カップル続けるつもりなのかな?

疑問は色々あったけど、敢えて口には出さなかった。

最近三浦君のことが裏・三浦も含めてだいぶ分かってきた。
三浦君って、頭はいいけど、物事をあんまり深く考えないみたいだ。
「俺と同じ国公立に・・・」って言ったのも、特に意味はない。
「もし今すぐ受験するなら」という仮定の元、適当に言っただけだろう。

だから私も深く考えずに返すことにした。

「そうだなあ。じゃあ私は、文学部でも目指そうかな」
「医学部と文学部がある大学か。どこがあるかな。探してみないとな」
「うん」



 
 
 
 
 
 
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