第21話 ショック
 
 
 
「雛子。ちょっと」

3学期が始まって少しした頃、
私は朝、教室に入るなり声をかけられた。

そこには望ちゃん初め、数人の女の子達が。

とてもじゃないけど、
「雛子って三浦君と付き合い始めたんだね。よかったね。それに今まで避けててごめん。
また友達になってくれる?」
って雰囲気じゃない。

むしろ「なんであんたなんかが三浦君と付き合ってるの?」ってオーラ全開だ。

三浦君。
残念ながら「なんちゃってカップル作戦」は裏目に出てしまったみたい。


私は、望ちゃん達に引っ張られるようにして、廊下の隅に連れて行かれた。

「雛子。なんで三浦君と付き合ってるの?」

ほら来た。

「えっと。あの、その・・・うん、なんか付き合うことになって」
「三浦君て西田さんのことが好きなんでしょ?それなのになんで雛子なのよ」
「・・・」

もう西田さんには振られたんだよ、って勝手に言っていいのかな。

私が黙っていると、望ちゃんはその沈黙を別の意味に取ったらしい。

「やっぱりね。どうせ雛子が強引に三浦君に言い寄ったんでしょ?」
「そんな!そんなことしてない!」
「じゃあ、どうして三浦君が雛子なんかと付き合うの?なんか三浦君の弱味でも握ってるの?」
「そんな・・・」

敢えて言うなら、裏・三浦を知ってるけど。

「三浦君かわいそう。早く別れてあげなよ!」
「・・・」
「三浦君、本当は西田さんと付き合いたいんでしょ?土曜日、2人でデートしてたよ」
「・・・え?」

望ちゃんは、どうだ、と言わんばかりに胸を張った。

「映画館で2人を見たの。楽しそうにおしゃべりしてたわよ」
「・・・嘘」
「本当よ。他にも見たって子、たくさんいるんだから。西田さんはともかく、
三浦君を見間違うことなんてないでしょ」
「・・・」
「わかった?あんたなんか、所詮遊ばれてるか、仕方なく付き合ってくれてるのよ」

それだけ言うと望ちゃん達は行ってしまった。




ショックだ。
いくら三浦君と付き合ってるからと言って、すぐに私の立場が良くなるとはあまり思ってなかった。
むしろ、今みたいに嫉妬されるんじゃないかって思ってた。

でも、まさか望ちゃんにあんな風に言われるなんて・・・

ううん。
こんなことで凹んでちゃいけない。
望ちゃんは三浦君のことを思って、ああ言っただけなんだ。
きっとそうだ。


だけど・・・もう一つショックなことがある。
もちろん、三浦君と西田さんのことだ。

私、三浦君はもう西田さんのことは吹っ切れたんだと思ってた。
でも、違ったんだ。
まだ好きだったんだ。

それに気づかず、私ったら、平気で西田さんの前で三浦君と一緒にいたりして・・・
三浦君、どんな気持ちだったんだろう。
西田さんはどう思ってたんだろう。


やっぱり、こんな変な関係やめたほうがいい。
そうすれば、三浦君も堂々と西田さんのことを好きでいられる。

もう1月だ。
西田さんと彼氏が別れるのは3月。
もしかしたら、今度こそ西田さんも三浦君のことを真剣に考えてくれるかもしれない。




いつもなら、行動の遅い私だけど、今回ばかりは早かった。
元々、あんな理由で三浦君が私と付き合ってくれていることに後ろめたさを感じてたし、
ちょっとでも早く、三浦君に楽になって欲しかった。

だから、お昼休み、早速三浦君に話した。


「三浦君。私、もう大丈夫みたい」
「大丈夫?何が?」
「だから・・・だから!友達!」
「は?」
「みんなね、私のこと少し見直してくれてるみたいだから、もう三浦君と付き合わなくても大丈夫」

だけど三浦君は顔をしかめた。
なんか怒ってる。

「今別れたら、また前の状況に戻るだけだろ」
「三浦君と普通に『お友達』してたら大丈夫だよ」
「・・・ヒナはそれでいいのかよ」
「うん!三浦君に迷惑かけたくないし」
「迷惑だなんて言ってないだろ」

三浦君は、ばっさりと冷たいことが多いけど、結構優しかったりもする。
だからこうやって私の心配をしてくれてるんだろうけど、甘えちゃいけない。
それじゃ、いつまでたっても三浦君は私と別れられない。

それに、奈々という友達もできた。

それだけで本当にじゅうぶん。


私は思い切り笑顔を作ってみた。
西田さんみたいにかわいい笑顔とはいかないけど、普段の私よりはいくらかマシだろう。

「ありがとう、三浦君。普通のカップルって訳じゃないけど、貴重な体験させてもらっちゃった」
「・・・」

どうしよう。なんで何にも言ってくれないんだろう。
私から言えってことなのかな?
でも、「さよなら」も変だよね?

「えっと。じゃあね。・・・これからも、よろしく、ね・・・」

あれ。もっと変かな。

でも・・・
それ以外、言葉が見つからない。


私は、三浦君の顔を見ないまま、急いで教室へ戻った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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