第23話 ウォークラリー
 
 
 
「ご、ご、ごべん・・・」
「いいって」
「でぼ・・・ゲホゲホ」
「電話してる暇があったら寝て」
「・・・やっばりいまがらがっごうにいぐ・・・」

あなた、誰ですか。


朝日ヶ丘高校恒例の(らしい)、寒中ウォークラリー。
1月の寒空の下、何が嬉しくて20キロも歩かないといけないんだろう。
いっそのこと、風邪でも引いて休みたい・・・

そう思ってたら、なんと私じゃなくて奈々が風邪を引いたらしい。

「今日、学校を堂々と休めるなんて幸せなことよ。ゆっくり寝てね」
「でぼ、びなごがひどりになっじゃうじゃん・・・」

どうやら奈々は、自分がいなければ私が一人で歩くことになるんじゃないかと心配してくれているようだ。
確かにその通りではあるんだけど、だからって無理して奈々に出てきてもらう訳にはいかない。

「奈々、大丈夫だから。それにもし奈々が一緒でも、私すぐに疲れて口も利けなくなると思うし。
一人の方が気楽に歩ける」
「ぞ、ぞう?」
「そうそう。だから奈々は早く寝てね」
「うん・・・わがった。じゃあね、がんばっで」
「うん。頑張るね」

全く・・・。
私は苦笑しながら携帯を切ると、トイレを出て下足室へ向かった。



下足室はすでに体操着の生徒で溢れかえっていた。
みんな、手にはスタンプを押すための台紙を持っている。
20キロの間の4箇所に先生達が立っていて、通過するときに台紙にスタンプを押してくれる。
全部揃わないと、学校に帰ってきてもゴールしたことにならないのだ。

9時スタートだから・・・お昼過ぎには帰ってこれるかな。


みんな幾つかの仲良しグループに分かれ、「さむーい!」とか言いながら出発の合図を待っている。

私は望ちゃんの方を見てみた。
望ちゃんはこっちの方を向いてはいるけど、
私に気づいていないのか、隣の女の子と何か話している。

以前なら、望ちゃんと一緒に歩いてたんだろうけど・・・

ううん。それは無理か。

というのも、体育会系の部活のほとんどは、顧問から「歩くな。走れ」と言われているらしく、
陸上部の望ちゃんはもちろん走る。
しかも、体操着じゃなくて、競技用のランニングウェア。
つまり、ノースリーブに短パンだ。

見てるだけで寒い。

もし望ちゃんとこんなことになってなくても、望ちゃんとは歩けない。


「飯島。途中で倒れるなよ」
「あ、溝口君。溝口君も走るの?」

溝口君はウォーミングアップをしていたのか、この寒いのに少し汗をかいている。
さすがに望ちゃんのようにランニングウェアではないけど、
半そでの体操着だ。

「うん。今年からバレー部も走ることになったんだ。・・・いい迷惑だよ」
「ふふ。頑張ってね」
「飯島こそ」

さすがに倒れはしないだろう・・・・たぶん。





そうこうしているうちに、スタートの時間になった。
「走る組」が一斉に駆け出す。
スタート前はみんな愚痴ってたけど、さすがはスポーツマン、
いざスタートするとみんな本気だ。
凄いスピードで飛び出していった。

そして、その迫力に驚いて固まっていた「歩き組」もようやく我に返り、スタートする。
私はその「歩き組」の中でも最後尾だ。
どうせ最終組に入るんだから、最初からおとなしくここにいよう。

前の方を見ると、西田さんと月島さんがおしゃべりしながら歩いている。
2人とも余裕の表情だ。
すごいなあ。

その2人のもう少し前に、三浦君がいた。
溝口君はバレー部だし、遠藤君もバスケ部。
2人とも「走り組」だから、三浦君は他の友達とのんびり歩いている。

そう言えば三浦君。
中学の時は体育会系の部活をしていたらしいけど、高校では何もやっていない。
朝日ヶ丘高校は勉強重視で、部活動をやらなくても何も言われないから、帰宅部も多いのだ。


三浦君と別れて1週間。
一度も口を利いていない。
でもよく考えれば、付き合っていた1ヶ月間以外は三浦君と話したことなんてほとんどない。
そのくせ、たった1ヶ月で随分仲良くなれた、っていうか、打ち解けた気がしていた。

だけどそれは私の錯覚だったらしい。

三浦君は何事もなかったように以前の三浦君に戻り、挨拶くらいはするけど、
私に話しかけてくれるなんてことはない。

裏・三浦も見せないし、ましてや私のことを「ヒナ」なんて呼んでくれない。

当たり前だよね。
彼女でもなんでもない私にそんなことする訳ない。

そう、当たり前・・・


それなのに、私は何を落ち込んでいるんだろう。
どうして寂しがっているんだろう。


私はそれ以上三浦君の後姿を見ていられなくて、
地面に顔を落としたまま歩き続けた。



 
 
 
 
 
 
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