最終話 プレゼント
 
 
 
「ヒナ。何がいい?」

そう言われても困る。
何がいいかなんて、考えてもいなかったから。

目の前にはたくさんのかわいいアクセサリー。
でも、これのどれかをつけるのが自分かと思うと、どれがいいのかわからない。

「・・・三浦君。やっぱりいいよ。いらない」
「買ってやるって言ってるんだから、遠慮するな」

遠慮するに決まってる。

今日はホワイトデー。ということで、三浦君が私に何か買ってやる、と、
このお店に連れてきてくれた。
男の子の三浦君がこんなかわいいお店を知ってるなんて意外だ。

あ。そっか、もしかして。

「ヒナ。『この店、元カノと来たことがあるのかな』とか思ってるだろ」
「・・・うん」
「ふふん」

嬉しそうな三浦君。
何故か三浦君は、私がヤキモチを妬くと喜ぶ。
って、妬いてる訳じゃないんだけどね。

「残念ながらハズレだ。妹の誕生日に、無理矢理引っ張ってこられただけ」
「三浦君、妹さんがいるんだ?」
「うん。まだ8歳のくせしてマセてて困る」
「へえ」

三浦君の妹ならさぞかし美人なんだろう。
それに8歳でこんなお店知ってるなんて、お洒落さんだなあ。

「さあ、早く選べよ。俺、すげー居心地悪いんだけど」

三浦君が周りを見回して、顔をしかめる。
そうだろう。こんな女の子女の子したお店。

「でも・・・あんなチョコのお返しにこんなちゃんとしたアクセサリー買ってもらうの、悪いし」

三浦君の顔が更に渋くなる。
不機嫌全開だ。

「だったら、バレンタインのときに『あんなチョコ』にしなきゃよかったんだよ」
「・・・」

そう。1ヶ月前のバレンタイン。
私は、こんな「なんちゃって」カップルなのに本格的なチョコを渡されても三浦君も困るだろう、
と思い、「あんなチョコ」にしたのだ。
私自身、三浦君への想いがはっきりしないせいもある。

だけど・・・こうやってまた彼氏・彼女できることが凄く嬉しかったりもする。

自分でもよくわからない。


「まあ別にどんなチョコでもよかったんだけどさ」

三浦君が目の前の指輪を指でつまみ上げる。
小鳥が木の枝をくわえていて、その枝が長く伸びてリングになっているという、
かわいらしいデザインの指輪だ。

「遠藤と溝口も同じってのが気に食わない。俺、一応ヒナの彼氏だろ」
「う、うん。そうなんだけど・・・」

溝口君には色々とお世話になったし、
だからと言って三浦君と溝口君だけちゃんとしたチョコで、
遠藤君だけいかにも義理っていうのも気が引けて、
散々悩んだ挙句、3人ともチロルチョコの詰め合わせをあげた。

これでも、今まで男の子にチョコをあげたこともない私には大進歩だ。

でも、溝口君と遠藤君は喜んでくれたけど、三浦君は何故か不満そうだった。
別に「なんちゃって」彼女からもらうチョコなんて、何でもいいだろうに。

ちなみに奈々は「私、義理チョコはあげない主義なの」と豪語しながら、
溝口君にだけチョコをあげていたけど、溝口君はその意味をわかっていないようだった。
自分のこととなると、意外と鈍いものだ。

とにかく。
バレンタインのときは、私があげる側で三浦君はもらう側だったから、
どんなチョコでも三浦君が困ることはなかっただろう。
だけど今日は、三浦君があげる側で私がもらう側。
こんな大それた物を買ってもらう訳にはいかない。

「私は三浦君の『一応』の彼女なんだから、私になんてお金使わなくていいよ」
「あのな、ヒナ、」
「それより、三浦君はまだ西田さんのこと好きなんでしょ?西田さんに何か買ってあげた方がいいよ」
「・・・はあ?」

三浦君が右目を細める。
これも不機嫌な証拠だけど、理由がわからない。

「あ!そうだ!西田さんと言えば!」
「・・・言えば?」
「3月に彼氏と別れるって言ってたよね?もう3月だよ?別れたのかな?」
「さあ」
「三浦君。もう一度告白してみたら?」
「・・・なんで?」

さすがの三浦君も、一度振られた相手にもう一回告白するのは気が引けるのかな?
じゃあ!

「せめて電話してあげて。慰めてあげたら三浦君のこと、好きになってくれるかも」

三浦君が私をギロっと睨んだ。
・・・なんか、怒ってる、かも。
なんでだろ。

「そんなこと言うなら、本当に電話するぞ?」
「うん」
「いいのかよ?本当にするぞ?」
「うん」
「・・・」

三浦君が今度はため息をつく。
怒ったり呆れたり忙しい人だ。

「・・・そんなこと俺がしたら、ヒナは嫌じゃないのかよ?ヒナは俺のこと好きなんだろ?」
「えーっと・・・」
「・・・おい」

また不機嫌オーラが広がる。
しかも今度は、不機嫌どころじゃない。
はっきりと滅茶苦茶怒ってる。

「なんだよ、それ。俺のこと好きじゃないのか?」
「あ、あの、それが、自分でも最近よくわからなくって・・・」
「・・・」
「えっと・・・三浦君が私と付き合ってくれてるのは、私に友達を作るためだから、
私が三浦君のことを好きかどうかなんて、三浦君はどっちでもいいよね?
三浦君だって私のことなんて好きなわけじゃないんだし・・・」
「・・・うるさい」
「え?」
「うるさい!うるさい!!うるさい!!!」
「ええ?」



三浦君は怒ったまま私の手を引き、カウンターでさっきの指輪を買った。
そして、それを私の鞄の中に落とし、

「絶対もう一度、好きにさせてみせるからな!」

と言った・・・



 
 
 
 
 
 
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