≪おまけ≫ 溝口君の憂鬱
 
 
 
 
「・・・俺、あっちのベンチに座ってていいか?」

俺がそう言うと、飯島は「もちろん!」と言い、
高山は何故かちょっと膨れて「別にいいけど」と言った。

三浦はどうでもよさそうだ。

そもそも、なんで俺がこんなとこに来なきゃいけないんだ?
すげー、場違いなんだけど。

俺はベンチに腰を下ろして、あーでもないこーでもないと、やり取りしている3人を見た。



明日から、2泊3日の修学旅行。
行き先は北海道か沖縄のどちらでも好きな方に行ける。
7月にどちらに行きたいかアンケートを取られたが、
飯島は「北海道がいい」と三浦に言った。

三浦はどっちでも良さそうだったけど、飯島が「北海道がいい」と言った理由が、
「9月でも沖縄だと海水浴があるよね?水着なんて恥ずかしくて着れないから」だと知るや否や、
「絶対沖縄にしよう」と意地悪なことを言い出した。

飯島は全力で反対したが、三浦に逆らえるはずもなく。
飯島擁護の高山も、三浦に全力で邪魔者扱いされながら、沖縄を選んだ。

遠藤も沖縄。
藍原が沖縄だからだ。

となると俺は・・・悩んだ。
個人的には北海道に行きたい。
暑いのが苦手な月島は、多分北海道を選ぶから。

でも、いつも一緒にいる三浦や遠藤が沖縄なのに、一人北海道なのもつまらないし、
月島にはとっくに振られてる。
それなのにわざわざ、月島が北海道だからと、北海道に行くのは月島に悪い気がして、
結局沖縄に行くことにした。

で、今日は飯島と高山が水着を買いに行くというので、
まあ、飯島の彼氏の三浦が付き合うのは分からないでもない。
だけど、なんで俺までつき合わされなきゃいけないんだ?
女用の水着売り場なんて、肩身が狭いったらない。

でも・・・沖縄を選んでよかった。


どうしても月島を諦めきれない俺は2年になってからも、
放課後残って勉強している月島に、話しかけたりしていた。
月島も迷惑なら迷惑とはっきり言えばいいのに、変なところで優しく、
嫌な顔をせずに俺の相手をしてくれた。

ところが夏休み中のある日。
突然月島が「春に好きな人ができた」と言い出した。
動揺した俺は、情けないことに月島を少し責めた。
どうしてもっと早くそう言ってくれなかったのか、と。

そして・・・月島に思わずキスしてしまった。

実は、月島は中学の時、学校で男に襲われそうになったことがある。
偶然それを見つけた俺が月島を助け、それ以来月島を気にかけているうちに、
好きになってしまったのだ。

それなのに、俺はその男と同じようなことをしている。

そう思うと、心底自分が嫌になり、やっと月島を諦める決心がついた。

翌日、ちゃんと月島にそう言ったら、月島も笑って許してくれた。
ただ、俺が月島にキスしたところを偶然月島の担任に見られてしまい、
月島も気まずい思いをしたようだ。

本当に、申し訳なくてため息がでる。



「溝口君」
「高山。もう買ったのか?」

また自己嫌悪に陥っていると、紙袋を手にした高山が俺の横に腰を下ろした。

三浦と飯島が一緒にいる時は、高山が俺の話し相手をしてくれることが多い。
サバサバした奴で、俺も気楽に話せる。

「うん。私、雛子みたいに優柔不断じゃないもん」
「・・・確かに、飯島は迷ってるみたいだな」

でも飯島だけが悪いんじゃない。
三浦が、絶対飯島が着たがらないような派手な水着をわざと選んで飯島を惑わせてるようだ。

「あの分じゃ、いつ決まるかわからないな」
「そうね。・・・ねえ、三浦って雛子のこと、本当に好きなのよね?」
「何を今更。どう見てもそうだろ」

飯島をおちょくってる時の楽しそうな三浦ときたら。
あんな三浦、ちょっとお目にかかれないぞ。

1年の時からおかしいとは思っていた。
いくら「ムカつく」と言ってもやたらめったら飯島に冷たくしたり、
かと思えば、変なこじつけでいきなり「付き合う」と言い出したり。

でも、三浦が西田さんを好きだったのは本当だ。
だから俺も「まさか」と思っていた。

だけどあの寒中ウォークラリーの日。
三浦はいつまでたっても帰ろうとはしなかった。
飯島を心配して待っていたのだ。
でも振られた(?)手前、飯島を迎えに行くこともできず・・・
で、仕方なく俺が三浦に代わって勝手に飯島を迎えに行ったのだ。


「雛子は、三浦が自分のことを好きだとは今も思ってないみたい」
「・・・っぽいな」
「それどころか、自分自身も、三浦のことを好きなのかどうかわかってないみたい」
「・・・」
「バカよね。見た?雛子のネックレス」
「ネックレス?」
「そう、指輪がつけてあるの。ホワイトデーに三浦が買ってくれたらしいんだけど、」
「ちょっと待て。三浦が指輪を買ったって?」
「うん」

あの三浦が、指輪?
本当に本気なんだな。

「しかも、小鳥のデザインのかわいい指輪」
「小鳥?ふーん。飯島が『ヒナ』だから?」
「そう。でも雛子は全然気づいてない」
「・・・」

三浦の奴。
てゆーか、飯島。気づいてやれよ。

「でもね、三浦ったら全然サイズを見ずに買ったから、雛子のどの指にも合わなくって、
雛子は指輪にチェーンを通してネックレスにしてるの。いつも肌に離さず持ってる」
「それはそれは」
「うん。すっごい三浦のこと好きみたいなんだけど、『昔みたいにドキドキしない!』とか言って、
悩んでる」
「・・・当たり前だろ。いつまでもドキドキなんかしてるかよ。どんだけ鈍いんだよ」
「でしょ?・・・でも、」

高山はちょっと膨れて言った。

「鈍いことに関しては、溝口君も負けてないけど」
「俺?いくらなんでも飯島ほど鈍くはないぞ」
「そう?私から見たら、どっちもどっちよ」

・・・そうなのか?俺ってそんなに鈍い?
って、どーゆー意味だ?

俺が首を傾げていると、高山がすくっと立ち上がった。

「ねえ、あんなバカップルに付き合ってたら日が暮れるから、何か食べてようよ」
「そうだな」

俺も高山に続いて、ため息をつきながら立ち上がった。


三浦たちに目を向けてみる。

「コレ、試着してみろよ」
「こんなビキニ、私のスタイルじゃ着れるわけないよ!」
「ヒナのスタイルなんか知らないし。裸、見せてくれないもんな」
「どうして三浦君に私の裸なんか見せなきゃいけないの?」
「・・・」

ってな感じで、飯島がまた三浦の地雷を踏んでいる。


最近では、飯島にも高山にもちゃんとたくさん友達がいる。
それなのに、一向に別れようとしない三浦を飯島は不思議がっているが、
今や2人はすっかり「おしどり夫婦」として認識されている。


いや、認識してない奴が一人いるな。


俺は、
頭を真上から三浦に掴まれて「痛い、痛い」と言っている「その1人」を見て、苦笑した。



 
 
 
 
 
 
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