第3話 凄い人
 
 
 
「次の文法の問題は―――、飯島」

え?

ぼんやりとしていて授業を聞いていなかった私は焦った。

6月に入り、ポカポカして眠かったのもあるけど、
少し自分の人となりについて考えていたのだ。


入学してもう2ヶ月も経つのに、私には友達らしい友達は望ちゃんしかいない。
望ちゃんは他にも友達がたくさんいるけど、学食には望ちゃんと私の2人で行くから、
望ちゃんの友達と友達になる機会もない。
もちろん望ちゃん以外の女の子とも話すけど、一緒に帰ったり遊んだりなんてしない。

学級委員の仕事がある時は三浦君と話すけど、事務的な内容ばかり。

あとは・・・そうだ、溝口君。
男の子の友達なんて、今まで一人もいなかったけど、溝口君とはたまたま帰る方向が同じで、
なんとなく話すようになった。
それでも、もし溝口君が明るくてよくしゃべる男の子だったら、私はろくに口もきけなかったと思う。
溝口君はバレー部で、凄く大きくて物静か。
一見近寄り難いんだけど、話してみると穏やかでいい人だ。

溝口君は三浦君とも仲がいいみたい。


って、今はそれどころじゃない!
どうしよう、先生が今、どの問題をやってるのかもわからない!

私がオタオタと教科書をめくっていると、右隣からスッと教科書が差し出された。
見ると、高山奈々ちゃんと言う女の子が、黒板の方を見たまま私に自分の教科書を渡してくれている。

こそっと受け取ると、教科書の真ん中辺りの問題に赤丸がつけてあり、答えも書いてある!

「ええっと・・・空白のところに入るのは、『would』です・・・」

問題文すら読んでないから、当ってるのかわからなかったけど、
とにかく高山さんが教科書に書いてくれてある通りに言った。

「はい。じゃあ、次の問題は、遠藤」

先生が黒板に「would」と書き、授業を進める。

・・・よかった。
私は息をついて、高山さんにまたこっそり教科書を返した。

「おい。遠藤!聞いてるか!?」
「・・・」
「遠藤!」
「・・・へ?」

私の左隣の男の子が、机から顔を上げた。
「明るくてよくしゃべる男の子」代表の遠藤君。
彼も三浦君と仲がいい。
よく、三浦君と溝口君と3人でいる。

・・・どうやら爆睡してたらしい。

「遠藤!しばらく立っとけ!」
「ふぁ〜い」

遠藤君は全く堪えていないようで、立ったまま今にも眠ってしまいそうだ。
すごいなあ。

でも、私も高山さんが助けてくれなかったら立たされてたかも。
私は心底ホッとした。




「高山さん。さっきは本当にありがとう。助かったよ」
「ううん。どういたしまして」

授業中はさすがにお礼を言えなかったから、休み時間に高山さんにお礼を言うと、
高山さんはカラッとした笑顔でそう言ってくれた。

高山さんはいつも髪を全部後ろで一つにくくっていて、おでこ全開。
そしていつもサバサバしてて、かわいい顔してるんだけど、女っぽいっていうより男前って感じ。

そして。

「高山さんて、英語の成績凄くいいよね。発音も綺麗だし」
「あー、私帰国子女なの。アメリカで生まれて5年くらい住んでたんだー」
「え!?そうなの!?」
「うん。国籍もアメリカと日本の両方持ってる」

うわあ・・・

「それより。飯島さん、大丈夫?なんか最近ボーっとしてること多いよね」
「あ、うん。大丈夫。ちょっと考え事してたから・・・」
「そうなんだ。もしかして三浦のことでも考えてた?」
「・・・え」

私が固まると、高山さんはお腹を抱えて笑った。

「『どうして私が三浦君のこと好きなの知ってるの!?』って顔してるね。
飯島さん見てたら、誰でもわかるよ?」
「そ、そうなんだ・・・」

私は赤くなって俯いた。
もしかして、三浦君本人も気づいてたりするのかな・・・?


三浦君人気は凄い。
1年の女子の間ではもちろん、先輩達の間でも大人気だ。
ルックスのよさは言うまでもなく、
人当たりもいいし優しいし、笑顔がとっても素敵だ。
すでに三浦君に告白した人も何人かいて、みんな振られてはいるんだけど、
三浦君はその振り方も優しいらしく、「振られたけど惚れ直した!」って人が続出だ。

そんなモテモテの三浦君だから、
私なんかに好かれてると知ったところでどうってことないだろうけど・・・
でもやっぱり、もし気づかれてたら、恥ずかしくて死にそう。

そう思ったことも顔に出たのか、高山さんは言った。

「んんー、多分三浦は気づいてない、と思う、よ」
「そうかな」
「たぶんね。あ、私、三浦と同じ中学だったんだ」
「!!」

それで三浦君のこと呼び捨てなんだ。
三浦君と同じ中学校だから、何か凄いわけじゃないんだけど、
私には「すごい」ことだ。

帰国子女で英語ペラペラで、アメリカ人で日本人で、しかも三浦君と同じ中学!

高山さんて凄い!

「・・・何が凄いの?私、なんの努力もしてないじゃん」

高山さんは苦笑いしながら言った。

「ううん!凄いよ!あ、でも私がしてた考え事は三浦君のことじゃないの」
「じゃあ何?」
「・・・私って、友達少ないなあ、と思って」
「はああ!?あははは」

高山さんはまた大爆笑した。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
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