第5話 片思い
 
 
 
「飯島、どうかした?」
「え?」
「ぼーっとしてる。って、いつもか」
「・・・ひどい」

私は電車の中のポールを握った。
吊革は届かないのだ。

逆に、吊革じゃ低すぎて持ちにくい溝口君は、吊革をつるしてあるポールを握っている。
言わずもがな、私が握っているそれとは違う。

今日はたまたま溝口君と帰りの電車が一緒になった。
最近は、溝口君は部活で帰りが遅かったから久しぶりだ。


「三浦のことでも考えてた?」

・・・ちょっと前に高山さんにも同じこと言われたような。

あの時の答えは「NO」だったけど、今は「YES」だ。

「私って、三浦君のこと好きそう?」
「好きそう」
「・・・そんなにわかりやすい?」
「わかりやすい」
「・・・」

溝口君が、目だけでニコッと笑った。
これが溝口君の笑い方だ。

「・・・でも、三浦君って3組の西田さんのこと好きなんだね」
「あれ。意外と敏感なんだな」
「敏感も何も」

あんな顔の三浦君見たら、誰でもわかるよ。

「あ。そっか。私でも気づくってことは、みんな気づいてるんだ?」

望ちゃんも気づいてるのかな。

「うん。みんな知ってる。知らないのは西田さん本人くらいじゃない?なんか鈍そうだし」
「・・・確かに。西田さんってそういうこと鈍感そう」
「飯島に言われたくないと思うけどな」

それはそうかもしれない。

それにしてもこんな風に男の子と平気で話せるのって、溝口君が初めてかも。
溝口君が遠慮なく、でも優しく話しかけてくれるからかもしれない。

「私、最初、三浦君は月島さんのことが好きなのかと思ったけど、違うんだね」
「・・・うん・・・どうせ誰かから聞くだろうから言っとくと、
三浦のやつ、入学式の時に西田さんに一目惚れしたらしい」
「・・・そうなんだ」

私が三浦君に一目惚れした時に、三浦君も西田さんに一目惚れしてたんだ・・・

三浦君と両思いになれるなんてもちろん思ってなかったけど、
やっぱり三浦君に好きな女の子がいるって聞くと胸がキュッと締め付けられる。

せめて他の高校の女の子ならよかったのに・・・
三浦君と西田さんが付き合ったりしたら、毎日2人が一緒にいるところを見なきゃいけないんだ。

「西田さんは、三浦君のことどう思ってるんだろう・・・」
「噂だと、他校に彼氏がいるらしいよ」
「・・・へえ」

でも、三浦君みたいに素敵な人に告白されたら、西田さんも揺らぐかもしれない。
・・・いいなあ、私もそんな悩みを持ってみたい。
一生、縁がないと思うけど。

「・・・」
「溝口君?」
「あ、何?」

溝口君が急に口を噤んで窓の外の景色を見てたから声をかけると、
なんだか焦ったように私を見下ろした。

「・・・もしかして、溝口君も西田さんのこと好き、とか?」
「ち、違うって!」

珍しく動揺してる溝口君。
さては図星?
すごいなあ、西田さん。

「本当に違うよ。俺が好きなのは・・・その・・・」
「え?誰?」

私は思わず背伸びして、溝口君に近づいた。

「・・・・・・」
「言ってよ!私が三浦君のこと好きなの知ってるくせに」
「だから。それもみんな知ってるって」
「・・・」
「・・・・わかったよ。あの、さ・・・月島だよ」
「――――」
「なんだよ?」
「う、ううん・・・」

月島さん?
あの才色兼備の?
あのクールビューティな?

「溝口君。また、凄い人に惚れたね」
「・・・うん。中学校が同じでさ」
「じゃあずっと?」
「・・・」
「告白、したことあるの?」
「まさか。月島は俺に興味なんてないし。ってゆーか、男に興味ないみたい」

あー・・・そんな感じかも。

「ま、ぼちぼち頑張るよ」
「そっか・・・頑張ってね」

すると溝口君は肩をすくめた。

「飯島もだろ」
「私は別に頑張らない。三浦君に振り向いてもらおうなんて思ってないし」
「欲がないなあ」
「身の程を知ってるだけ。三浦君には西田さんと幸せになってほしいの」

嘘じゃない。
そりゃ、ちょっとは辛い。

でも、私なんかが人を本気で好きになれたのは三浦君のお陰だ。
だから、三浦君には感謝してる。
三浦君には幸せになってもらいたい。


西田さんの彼氏ってどんな人なんだろう?
他校の人だったら、私がその人を見る機会はないだろうけど、
三浦君より素敵な人なのかな?
それとも告白されてなんとなく付き合ってるだけなのかな?

できれば三浦君のことを見てあげてほしいな。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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