第7話 月島さん
 
 
 
「穂波!あれ、乗ろう!」
「ジェットコースター?うわ!面白そう!」

明るくて元気な藍原さんと西田さん。
早速ジェットコースター目掛けてダッシュした。

でも、西田さんは「しまった!遠藤君は藍原さんと一緒にいたいはずだ!」と言わんばかりに振り向き、
「遠藤君って絶叫系好き?一緒に行く?」と遠藤君に訊ねた。

遠藤君はもちろん大喜び。
西田さん達の方へ走ろうとして・・・遠藤君も思い出したらしい。
この遊園地へ来た目的を。

「三浦も好きだろ?行こーぜ」



よく晴れた行楽日和の平日。
私達は東京のお隣の県にある大きな遊園地へやってきた。
絶叫系が好きらしい藍原さんと西田さんは大張り切り。

でも絶叫系が大の苦手な私は、例え三浦君が一緒でも西田さん達と行動したいとは思わない。

それに・・・

「飯島。俺達と一緒に行こう」

三浦君、遠藤君、藍原さん、それに何故か月島さんのことを気にしつつ去って行った西田さん、
を見送った後、溝口君が私を誘ってくれた。

「うん。ありがとう。そうさせて」

どうやら月島さんも絶叫系が苦手らしく、残っている。
それに望ちゃん。
望ちゃんは絶叫系が苦手というより、田中君という男の子に捕まっている。
本当は三浦君たちと行きたかったみたい。
後は、小関君という男の子。

男の子は全員1組だ。
私が話したことがあるのは三浦君と溝口君だけだけど。


私は望ちゃんと田中君を見た後、溝口君を見上げた。
溝口君は肩をすくめる。

なるほど。田中君は望ちゃん狙いなのね。

昨日、溝口君から今日の遊園地の目的を聞いた。
どうやら男の子たちは、それぞれ目当ての女の子にここで告白しようと思ってるらしいのだ。

三浦君は西田さんに、
遠藤君は藍原さんに、
そして田中君は望ちゃんに。

三浦君が私をここに誘ったのは、望ちゃんを連れ出したかったからなのだろう。

私と同じような立場なのが小関君。
どうやら田中君に無理矢理連れてこられたらしい。

「溝口君も頑張ってね」

私は小声でそう言って、月島さんの方を見た。

「・・・うん・・・でもなあ」
「なんのためにここに来たのよ」

溝口君もだけど、それに輪をかけて月島さんは遊園地なんて苦手そうだ。
せっかくの機会なのに、逃す手はない。

「ね。頑張って!」
「・・・俺よりさ。飯島は嫌じゃないのか?」
「え?」
「三浦が・・・その、西田さんに」
「・・・」

もちろん嬉しくはない。
もしかしたら今頃三浦君が西田さんに告白してるのかもしれないと思うと、
思わず俯いてしまう。

でも、やっぱり三浦君には幸せになってもらいたい。

ただ・・・この前の金髪の不良さんは、西田さんのなんなんだろう?
噂の他校の彼氏なんだろうか。


「飯島さん。ちょっといい?」

突然、月島さんが私のところへやってきた。
溝口君がちょっと緊張したけど、
月島さんは、他の4人に声の聞こえない距離まで私の腕を引いていった。

もしかして、私が溝口君と話してたから怒ってるとか・・・?
どうしよう・・・
でも、そうなら、溝口君にとってはいい事だよね?

だけど月島さんの口から出た言葉は私の想定の範囲外だった。

「ごめんなさいね」
「え?」
「三浦君に代わって、お詫びするわ」

三浦君に代わって??
何のことだろう。

「飯島さん。本当は今日こんなとこに来たくなかったわよね?
三浦君と穂波が一緒にいるところなんて見たって楽しくないもんね」

・・・それは、そうだ。

「だけど三浦君に誘われて、仕方なく来たんだよね?・・・三浦君って結構酷いよね」

ああ。それで「ごめん」なんだ。

私は慌てて首を振った。

「そんな!月島さんが謝らないで。三浦君も、私の気持ちを知らないから・・・」
「知らない?そうなの?こんなにバレバレなのに?」

・・・やっぱり、バレバレなんだ。

「でも、それはそれで罪よね。鈍すぎる」
「・・・」

な、なるほど。そういう考え方もあるのね。

「鈍いと言えば穂波も。さっきの穂波の顔、見た?」
「え?」

そう言えば、月島さんのことを気にしながら三浦君たちとジェットコースターの方へ行ったけど・・・

「多分、穂波は三浦君が私のことを好きだと勘違いしてるの」
「ええ?」

って、私も一瞬そう思ったけど。

「穂波としては、きっと、今日は私と三浦君をくっつけるつもりで来たのよ。
だからさっき、私と三浦君が別行動になりそうで焦ってたんだと思う」
「・・・」
「『飯島さんには悪いけど、私は和歌に幸せになってもらいたい!』とかなんとか、
きっと勝手に張り切ってるのよ。あ、和歌って私ね。そういえば自己紹介がまだだったわ。
私、月島和歌です。よろしくね」

・・・なんだか物凄く面白い人だなあ、月島さんて。
なんか、イメージ狂う。

月島さんはため息混じりに首を振った。

「ほんと、ごめんなさいね、色々と。飯島さんは何も悪くないのに嫌な思いばっかりさせて。
もっと三浦君に怒ってもいいのよ?」
「そ、そんな・・・とんでもない」
「穂波にも。穂波って、悪い子じゃないんだけど、ちょっと鈍くって、ちょっとおっちょこちょいで、
ちょっと先走り屋で、ちょっとお節介で、ちょっとバカで、ちょっといい加減なのよね」

・・・・・・。

それは「良い子」なのだろうか「悪い子」なのだろうか。

でも。
月島さんは本当に西田さんに呆れているようだけど、それでいて、西田さんへの愛情を感じる。

月島さんは西田さんのことが大好きなんだ。
信頼してるんだ。
きっと西田さんも。


私はなんだか羨ましくなり、三浦君のことも忘れて、
「全く、もう!」とか言ってる月島さんを眺めた。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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