第8話 待つよ
 
 
 
本当に本当に本当に、溝口君には申し訳ないんだけど、
その日一日、私は月島さんを独占した。

だって、月島さんて本当に面白い。
本人は至って真面目なんだけど、言ってることが的を得すぎてて面白い。

溝口君が好きになった理由が良くわかる。


「ねえ。この前校門のところで西田さんが喧嘩してた人って西田さんの彼氏?」
「ああ、噂になってるわね。私は見てないんだけど。金髪の大きな人だった?」
「うん。すごく怖そうな人だった」
「じゃあ間違いなく穂波の彼氏さんね」

やっぱり。

「私も会ったことないんだけど、見掛けによらず、悪い人みたい」

見掛けによってると思いますが。

「でも、穂波にはとても優しいんだって。あー・・だけど、それも穂波がそう言ってるだけだから・・・
もしかしたら、全然優しくないのに、穂波が『優しい』って思い込んでるだけなのかも。
穂波ならありえるわ」

ありえるんだ。

「ただね」

月島さんが急に真面目な顔になった。
ううん、ずっと真面目な顔で面白いこと言ってたんだけど、
急にしんみりした表情になったのだ。

「飯島さんにはいい話じゃないかもしれないけど・・・穂波とあの彼氏さんは、来年になったら別れるの」
「えっ・・・どうして?」
「彼氏さん、今3年生なんだけどね、3月に卒業したら遠くへ行っちゃうんだって」
「・・・」
「やりたいことがあるんだって。夢を追いかけて行く訳だから、穂波も泣いてたけど『応援する』って」

もしかして、この前喧嘩してたのはその事が原因なのかもしれない。
でも今日の西田さんはいつものキラキラした笑顔だった。

彼氏が夢のために遠くへ行ってしまう。
だからもうすぐ別れないといけない。

だけど、西田さんはああやって笑顔で頑張ってる。
自分のためにも彼氏のためにも。

・・・西田さんて、凄い。
ただかわいいだけの女の子じゃないんだ。

そうだよね。だから三浦君があんなに夢中になるんだ。

あ・・・三浦君。

もし、三浦君から告白されたら西田さんはどうするんだろう。
月島さんの話だと、西田さんは彼氏のことを凄く好きみたいだ。
でも、別れると分かっているんだったら、三浦君を振ったりするかな?

今は振ったとしても、三浦君が待っていれば、3月になれば付き合うかもしれない。
西田さんだって、彼氏と別れて一人なのはやっぱり寂しいだろうし。


どう、なるんだろう・・・






日が落ちた真っ暗な道。
私はそこを三浦君と2人で歩いていた。

遊園地から全員で学校の近くの駅まで戻ってきたけど、
そこからは男の子が女の子を送っていくことになった。

私は、当然三浦君は西田さんを送って行くんだと思ってた。
ところが突然、小関君が「西田さんを送っていく」と言い出し、
結局三浦君が私を送っていくことになったのだ。


・・・三浦君、怒ってるかな?不機嫌かな?
どうしよう。謝ったほうがいいかな・・・?

そう思って、隣を歩く三浦君を見上げたけど、三浦君は気の抜けたような表情をしている。
どうしたんだろう。

「・・・三浦君?」
「え?何?」

ハッと我に返ったように、三浦君が私を見た。

「あ、ううん。あの・・・三浦君。本当は西田さんを送っていきたかったんじゃないの?」
「え」

三浦君は一瞬表情を強張らせたけど、すぐにため息をついた。

「なんだ。飯島も、俺が西田さんのこと好きって知ってるんだ」
「・・・うん」
「実は、今日西田さんに告ったんだけど、」

胸が音を立てた。
覚悟してたこととは言え、やっぱり苦しい。

でも三浦君はそこで沈黙した。

「・・・」
「・・・ダメだった、の?」

三浦君は無表情に私を見た。

「なんでそう思うんだよ」
「三浦君、なんか元気ないから」
「・・・ふーん」

三浦君はちょっと歩調を速めた。
それまでは私に合わせてくれていたのかゆっくりだったけど、
今は自分のペースで歩いてるって感じだ。

私は慌てて小走りした。
こうしないとついていけない。

「彼氏がいるんだって。でももうすぐ別れる、って言うから、俺『待つよ』って言ったら、困ってた」
「困ってた?」
「『待っててもらっても、三浦君と付き合う気になれるかどうか分からない』ってさ」

そうか。それで小関君は三浦君と西田さんが2人にならないように気を使って、
自分が西田さんを送ると言い出したんだ。

「・・・それでも待つの?」
「待つよ」

三浦君はキッパリと言った。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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