第11話 ナツミ 「失恋」
 
 
 
おかしい。

この3日間、月島クンが本屋さんにいない。
1日目は「今日はお休みなのかな」と思ったけど、3日も続けてお休みなんておかしい。

もしかしたら風邪とか引いたのかな?

私は心配になり、ちょうど近くに来た男の店員さんに声をかけた。

「あの・・・ここでバイトしている月島クンって・・・今日はいないんですか?」
「え?」

店員さんが眉を寄せる。

「何?君も月島にちょっかい出してるの?」
「・・・え?」
「君でもう5人目なんだよね。『月島って男の子はお休みですか?』って聞いてきた女の子。
あいつ、人気あるから」
「・・・」

そう・・・だよね。
かっこいいもんね。
私以外にも、月島クンに憧れている女の子がいても不思議じゃない。

「月島なら、辞めたよ」
「・・・辞めた?」

嘘!?そんな!!

「そう。今は他のところでバイトしてる」
「ど、どこですか、それ!?」

私は思わず店員さんに一歩近づいた。
でも店員さんの顔はますます曇る。

「そんなこと教えれる訳ないだろ。君、ただの追っかけでしょ?」
「わ、私は・・・月島クンの友達です!」

あ!
勢い余って私、なんて嘘を・・・

だけど店員さんは尚も胡散臭そうに私を見た。

「ふーん。友達、ね」
「は、い。あの、本を借りてて返したいんです。だから・・・」
「友達だったら、直接月島に連絡取ればいいだろ」

そうですよね。
ああ、完全に怪しまれてる。

私は、もうとにかくここから逃げ出そうと思い、更に嘘を重ねた。

「つ、月島クン、携帯持ってないから連絡取れなくって・・・」

今時携帯持ってないなんてことないのに。

「それで困ってて・・・あの、すみません。失礼します」

だけど、私がそういうと店員さんの態度は急に軟化した。

「あ、そうなんだ。そうだよね、あいつ、必要ないって携帯持ってなかったもんな」

え?

「悪い悪い、君、本当に月島の友達なんだ」

店員さんは頭を掻きながら、申し訳なさそうな顔をした。
・・・悪いことしちゃった。

「月島は今、ここの近くの『さとや』っていうレストランでバイトしてるよ」
「!!ありがとうございます!!」
「いやいや、こっちこそ。ごめんね」

私は大きくお辞儀して、もう一度お礼を言うと本屋さんを飛び出した。





・・・いた!!

店員さんが教えてくれた「さとや」と言うお店は、本当にさっきの本屋さんの
目と鼻の先だった。
どうしてわざわざバイトを変えたんだろう??

まあ、いいや。
またこうして月島クンを見れるんだから。

私は窓越しに、てきぱきとオーダーを取る月島クンを見つめた。


本屋さんにいた時は、ラフな私服にエプロン姿だったけど、
このレストランには制服があるらしく、カッターシャツと黒いパンツを着ている。
もちろん、堀西の制服なんかと比べるとかなり安っぽい服だけど、
月島クンが着るとなんだって一流品に見える。


やっぱり、かっこいい・・・


その時。
月島クンが、こっちを振り向き・・・私と目が合った。

月島クンはそのまま私から目を離さない。

ええ?
どうして?

私がドギマギしていると、月島クンはお店の人に何か話して、
すぐに外に出てきた。そして・・・

私の目の前にやってきた。

「あのさ」
「は、はい・・・」
「君、だれ?」
「あ・・・」

名乗ろうとしたけど、余りに緊張しすぎて言葉が出てこない。
月島クンは私を無視して話続けた。

「前の本屋にも毎日来てたよね?」
「・・・」

頷けなかった。
今度は緊張のせいじゃない。
月島クンの、隠そうともしない嫌悪感のせいだ。

「何の用?てゆーか、ストーカー?」

ストーカー?
私が?
そんな!!

「違います!」
「じゃあ、何?」
「わ、私は・・・月島クンのこと、見てただけです・・・」

月島クンは、ははっと笑った。
面白くて笑ってるって感じじゃない。呆れてる。

「だから、それがストーカーなんだって。そーゆーのやめてくれない?気持ち悪いから」
「・・・」
「それに、その制服」
「え?」
「あんた、堀西の生徒?俺、堀西の奴って嫌いなんだよね」

とたんに月島クンの顔から表情が消える。
でも、逆にそれが「本当に嫌い」ということを証明している気がした。

「金は持ってるけど、心は持ってないロクデナシばっかりだ」


月島クンはそう言い捨てると、お店の中へ戻って行った。


私は・・・
もう顔も上げることができず、その場に立ち尽くした。



 
 
 
 
 
 
 ↓ネット小説ランキングです。投票していただけると励みになります。 
 
banner 
 
 

inserted by FC2 system