第12話 龍聖 「慰め」
 
 
 
何だっていうんだ、一体。

いまだかつてない程、上機嫌な健次郎。
そしていまだかつてない程、不機嫌な萌加とナツミ。

こんなんじゃ、せっかくの昼飯も台無しだ。

でもまあ、大方の予想はつく。

萌加は昨日、突然本城へ飯を持って行かなくなった。
今日もゆっくり昼飯を食っているとこを見ると、持って行く気はないらしい。
本城に振られでもしたんだろう。

ナツミは・・・萌加以上に重症だ。
さっきからぼんやりと箸をくわえ、外を見ている。
こっちも例の「本屋さん」に振られたようだ。
それも、こっぴどく。

わからないのは健次郎だ。
萌加が本城に振られたから喜んでるのか?
でもこいつ、萌加が本城に惚れてるのにも気づいてなかったはずだけど。


一向に盛り上がらない昼飯が終わり、
俺は健次郎を生徒用のサロンの端っこに引っ張って行った。

「何、ニヤニヤしてるんだよ?」
「え?俺、ニヤニヤしてるか?」
「してるだろ」

すると健次郎は更にニヤニヤしながら言った。

「実は昨日、萌加と寝たんだ」
「は?」

健次郎は、どうだと言わんばかりに胸を張る。

・・・。
そう言うことか。
やっぱり萌加は本城に振られたんだな?
で、ヤケになって健次郎と寝たわけだ。

もったいない。
萌加のやつ、ずっと本城一筋だったからまだ男を知らなかっただろうに。


「そりゃ、よかったな」

俺は肩をすくめた。

「だろ?一途に頑張った甲斐があったぜ!」

どこが一途なんだか。
俺も、人のことは言えないが。




ニヤニヤが止まらない健次郎を一人サロンに残し、俺は教室へ戻った。
もうほとんどの生徒が学食から戻り、ワイワイと騒いでいる。

その中心にいるのが・・・他でもない、本城だ。

本城は、金を持っていない(あくまで堀西の中では、だが)ということを除けば、
およそ欠点が見つからない。

ルックスもかなりいいと思うし、勉強もできる。
でもそれを鼻にかけたりせず、明るくて人懐っこいからクラスの人気者だ。
困ってる奴がいたら、当たり前のように助けてやったりもする。

ただ健次郎が代表しているように、「本城は貧乏人だ」と言う空気があるせいか、
本城自身、なんとなく周りに対して一定の距離を保っている。
でもそれでいて、そんなことを悟られないように、誰とでも仲良くしている。

本城とほとんど接点のない俺だからこそ、そんなこともわかってしまう。


どうして萌加を振ったんだろう?
聞きたいけど、いきなり俺にそんなこと言われたらビックリするかな?

そう思って本城を見ていると、突然その本城が俺の方へやってきた。

「何?」
「え?」
「いや、東原が俺に何か言いたそうな顔してたから」

・・・鋭い奴だ。

確かに言いたいことはあったが、こんなに人が多いところじゃさすがに無理だ。

「別に。何にも」
「そっか」

本城は人懐っこい笑顔でニコッと笑うと、また友達の輪の中へ戻っていった。


・・・視線を感じる。
振り向くと、萌加と目が合った。
いや、正確には、萌加は俺と話していた本城を見ていたのだ。
どうやらまだ未練タラタラらしい。

プライドの高い萌加のことだ。
「元気出せよ」なんて言った日にゃ、「ほっといてよ!!」と激怒するに違いない。
今は放っておこう。

そうそう。
逆にプライドがない、って言うか、超素直な奴がいたな。

俺は、窓際の席で机に突っ伏しているナツミに声をかけた。

「ナツミ。大丈夫か?」
「・・・龍聖」
「どうした?本屋さんにストーカー扱いされて振られたか?」

ナツミの目が潤む。

「どうしてわかるの?」

・・・もうちょっと早く忠告してやればよかったな。

「元気出せ。その素直で一直線なのが、ナツミのいいところだ。
それをわかってくれる男だっているって」
「・・・ありがとう」

ナツミはそう言うと、また机に突っ伏して声を押し殺して泣き出した。


やれやれ。うちのクラスの女どもと来たら・・・



 
 
 
 
 
 
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