第14話 健次郎 「vs 本城」
 
 
 
「萌加、今日暇?行こうぜ」

どこに?
そんなのは言わなくても萌加も分かってる。
もちろん「ホテルに」だ。

ずっと俺に興味がなかったのが信じられないくらい、
この半年、萌加は俺とホテルに通っている。

最初はその理由がわからなかったが、とにかく萌加とやれるのが嬉しくて深く考えなかった。

でも、わかった。
ってゆーか、わからされた。

寝言で他の男の名前を言われたら、いくらなんでもわかるさ。

あの時は俺もカッとして萌加を叩き起こしたが、萌加は自分がそんなこと言ったのをまるで覚えてなかった。
それでも問いただそうかと思ったけどやめた。

萌加が俺のことを好きになったとは思ってない。
だったら下手に揉めると、もう萌加とできなくなるかもしれない。
だから俺はこらえた。

我ながら、素晴らしい忍耐強さだ。
そう思わねーか?

まあとにかく、そのことを除けば俺と萌加はうまく行ってる。
だから当然、今日も俺の誘いを断るわけがない。
そう思ってた。


「行かない」
「行かない?用でもあんの?」
「ない。でも行かない。もう健次郎とは寝ない」
「・・・何、言ってんだ?」

俺が呆れた声を出すと、萌加は俺の目を真っ直ぐ見て言った。

「私、好きじゃない男とはもう寝ない。決めたの」

・・・よくもまあ、こうキッパリと言えるもんだ。
開いた口が塞がらない。

が、俺は強引に口を動かした。

「ふざけんな。今まで散々やっといて、何今更いい子ぶってんだよ」
「私達、別に付き合ってる訳じゃないでしょ。片方が寝たくなくなったらそれまでよ」
「・・・」

もし今周りに誰かいたら、俺もなんとか理性を保てたかもしれない。
でもあいにく、放課後の教室には俺と萌加しかいない。


2人きりだ。


俺は萌加に近づき、左手で胸倉をつかんだ。
女じゃなかったら、殴り飛ばしてるとこだ。

いや、女でも・・・萌加でも殴ってもいいだろ?

俺にはその権利がある。

萌加はさすがに少し青くなったが、それでも俺から目を離さない。
大した度胸だ。
それなら遠慮なく殴らせてもらおうじゃねーか。

俺が右手を振り上げた、その瞬間!


「村山!」
「・・・本城」

部活が終わったのか、本城が教室に入ってきた。

よりによって本城かよ!!
くそっ!!

「何やってんだよ。神楽坂はお前の彼女だろ?やめろよ」
「はっ?彼女?こいつが!?」

俺は萌加を突き飛ばし、今度は本城の胸倉を掴んだ。
が、本城は俺の腕を振り払い、机の間に倒れこんだ萌加に駆け寄った。

「神楽坂!大丈夫か?」

本城が萌加の肩を抱き上げるのを見て、俺はますます頭に血が上った。
拳を握り締めて、本城の顔めがけて思いっきり殴りかかる。

だが、さすがに相手が悪かった。
本城は空手部だ。
それもかなり本格的にやっている。

本城は右手でなんなく俺のパンチをよけると、
その反動、といった感じで俺の顔を左手で殴った。


「・・・あ。やべ」


なんだよ、「やべ」って。
全然本気で殴ってないな?
それなのに・・・なんでこんな痛いんだ・・・

俺はそんなことを考えながら、ひっくり返った。





同級生に殴られて鼻血を出した。
そんな理由で騒ぎ立てられたくなんてない。
だけど痛みには耐えられず、俺は、
「たく、なんなんだよ、お前は」とか文句を言われながら、他でもない本城に連れられて保健室へ行った。

そしたらもう、上を下への大騒ぎ。

学校へ莫大な寄付をしている村山家の息子が、
どこの馬の骨かわかんねーような生徒に殴られたんだもんな。

そりゃ校長も真っ青だろ。
だけど、もっと真っ青だったのは、学校に呼び出された俺のお袋だった。


「お宅の弟さんが、うちの健ちゃんを殴ったんですよ!!どういう教育なさってるんですか!?」
「・・・」

そんなこと「姉」に言われても困るだろ。
本城のねーちゃんの顔にもそう書いてある。

本城は、両親と一緒に暮らしていないらしく、保護者代わりにねーちゃんがやってきた。
しかし、似てねーな。
本城に比べると、すげえ地味な顔した女だ。

でも、そいつはお袋のヒステリーにも全く動じず、
「申し訳ないんですが、少し待っていただいていいですか?」と言って本城に俺を殴った理由を問いただした。

本城は、萌加のことを思ってか、理由を言うのを渋っていたが、
ねーちゃんの、この子は理由もなく人を殴ったりしない、という信念に負けたらしい。
渋々、「村山が、嫌がる女子に無理矢理言い寄ってたから・・・」と言った。


すかさず、お袋が反撃に出る。

「う、うちの健ちゃんがそんなことする訳ないじゃない!!!でたらめよ!!!」
「そ、そうだ、そうだ」

あ、いたのか親父。

悪いな、お袋。でも本城が言ってるのは事実だ。
もっとも、俺にも弁解の余地はあるが、
「萌加に、もう寝るのはやめようと言われてカッとなった」とは言いたくない。

「どうなの?村山君」

本城のねーちゃんが、軽蔑したように俺を見た。

どーでもいい。
なんとでも言ってくれ。


俺は口を噤んだ。



 
 
 
 
 
 
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