第17話 龍聖 「釣り合い」
 
 
 
萌加と本城がどうなろうと、俺には関係ない。
でも、ちょっと気になることがある。

翌日、俺は昼飯を早めに切り上げて、教室へ戻った。
今の時間なら、教室には本城一人のはずだ。

そして予想通り、本城は一人で飯を食っていた。

あれが噂の弁当だな?


だけど、俺が教室に入っていくと、本城は慌てて肘をついて弁当を隠した。

「・・・なんで隠すんだよ?」
「い、いや・・・」

本城がこんなに焦るなんて珍しい。
俺は強引に覗き込んだ。

「・・・」
「ほっといてくれよ」
「・・・・・・」

弁当には、見事なくらいハートマークが散りばめられていた。
ご飯の上の海苔もハート。
卵焼きもハート。
野菜もハート。
ご丁寧に肉までハートの形に巻いてある。

「なんだよこの、新婚ホヤホヤ弁当は」
「・・・」
「第一、コレ作ったの、お前の彼女じゃなくって姉貴分なんだろ?」
「・・・聞いたのか」
「ああ。萌加の奴、死ぬほど泣いてたぞ」
「・・・」

本城は諦めたのか弁当を隠すのをやめ、再び食べ始めた。

「ネェちゃんさ、嫌なことがあると俺の弁当で憂さ晴らしするんだよな・・・」

なるほど。でもこんな弁当持たされて、本城はいい迷惑だろう。
そうそう、迷惑と言えば。

これが本題だった。

「どうして萌加を振ったんだよ?本城も萌加のこと好きなんだろ?」

萌加は、自分の気持ちを本城が迷惑がってると思ってる。

でも、本当に迷惑なら、萌加の持ってきた折り詰めなんか受け取るか?
なんのプライドもなく受け取る男もいるだろうけど、本城はそんな奴じゃないと思う。

案の定、本城は気まずそうに黙りこくって箸を進めた。

「両想いなんだから、普通に付き合えばいいだろ?」
「・・・俺と神楽坂じゃ釣り合わないよ。俺、貧乏だし」
「嘘だな」
「え?」

本城が顔を上げる。

「お前、自分が貧乏だとかそんなことこだわってないだろ。萌加だってそうだ」
「・・・」
「なんで、萌加を遠ざけるんだよ?」

本城は答えるのを少し渋ったが、ため息混じりにこう言った。

「俺、今知り合いの家で世話になってるんだけど」
「そうらしいな」
「その家ってのが・・・ヤクザの家なんだ」
「や、ヤクザ?」

おいおい。なんだそりゃ。
確かに堀西には、そういう家の息子なんかも通ってるけど(金はあるもんな)、
まさか本城がそうだとは。

「色々悪いこともやってるみたいだけど、俺はその家が好きなんだ。
将来、そこで働こうと思ってる。今世話になってる礼に、少しでも役に立ちたいんだ」
「・・・それって、本城も将来ヤクザになるってことか?」
「ああ」
「・・・」

本城の目は真剣だ。

そうか。それは確かに「釣り合わない」。
ヤクザと財務大臣の娘だもんな。
萌加は気にしなくても、萌加の親父さんが絶対許さないだろう。

でも。

「そんな理由で、萌加のこと諦めるのかよ?本城は辛くないのか?」

言いながら、野暮なこと聞いてるな、と思った。
辛くないわけないよな。

「ヤクザになったら、普通の女と付き合ったり結婚したりできないのは覚悟してる。
ましてや神楽坂なんか余計だ」
「・・・ふーん、それで、お水の女と遊んでる訳か」
「え?」
「萌加が、見たって言ってたぞ」
「!!」

さすがに本城がバツの悪そうな顔をする。
でも、すぐに開き直ったようにニヤッと笑った。

お。なんだよ。本城ってこんな顔するのか。

「それと神楽坂は関係ない。組の先輩達が面白がって俺に女を回したりするんだよ」
「・・・」
「ヤクザの社会勉強、だってさ」
「おお。羨ましいな、その社会勉強」

俺は本気で言った。

「だろ?」
「俺にも、ちょっと回してくれよ」
「東原って彼女いるんじゃないのか?」
「あー・・・振られた。間宮財閥のお嬢様だからな、適当に遊ばれたよ」
「東原でも遊ばれることあるんだな」
「同情するなら、女回せって」
「ヤクザのお手付きの女なんかやめとけ。後々痛い目にあうぞ」

本城はゲラゲラと笑った。
・・・こいつ、見た目がよくって真面目っぽいだけに、
こういう笑い方すると、本物のワルみたいだな。
案外大物になるかも。裏の世界で。

萌加の手には負えそうもない。



 
 
 
 
 
 
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