第18話 萌加 「お金より大事なもの」
 
 
 
龍聖のお陰か、思いのほか私は早く立ち直ることができた。

本城を見るたびにまだ胸は痛むし、
健次郎とも気まずいまま。

でも、本城が私のことを迷惑だと思っていた、ということを知り、
今までの自分を振り返ることで色々気づいたことがある。

それに、自分だって失恋したばかりなのに私のことを慰めてくれた龍聖を見て、
私にもすべきことがあると思った。



「ナツミ」

私は向かいでランチを食べているナツミに話しかけた。
龍聖と健次郎は別の席で食べている。
これも龍聖が気を回して、私と健次郎が一緒にならないようにしてくれているのだ。


「何?」

そう答えるナツミの声には元気がない。
もう半年以上も前の失恋をいまだに引きずっている。

ううん、違う。
確かに、最初の頃は本屋さんに振られたことを落ち込んでいたけど、
今は、自分の人間性について悩んでいるようだ。

「いい加減、あの本屋さんのことは忘れなさいよ」
「・・・」
「でも、あの本屋さんが言ったことは、忘れちゃダメよ」
「え?」

ナツミが首を傾げる。

「どういうこと?」
「本屋さんにも、多少の偏見はあったと思うけど、確かにナツミがやってたのはストーカー行為よ」
「・・・」
「それに、無意識のうちに『自分はお金を持っている。本屋さんは貧乏だ』ってオーラを出してたのかも」
「そんな!」

今度は首をブンブンと振る。

「私、そんなこと・・・!」
「思ってない?」
「・・・わかんない」

私は席を立って、しゅんとしているナツミの隣に移動し、
できるだけゆっくりと話した。

「ナツミ。ナツミは凄く素直で純粋なのよ。それはナツミのいいところ。
ただ今までずっと、『お金持ちは偉くて、貧乏人は偉くない』って環境にいたから、
素直なナツミはそれをそのまま受け取ってしまってるだけ」
「・・・」
「私も同じ環境で育ったけど、たまたま本城のことを好きになって、本当に大事なものに気づけたの」
「え?」

ナツミが目を丸くする。
やっぱり、私が本城のことを好きだって気づいてなかったんだ。
鈍いんだから。
でも、これもナツミのいいところ。

「そうだったんだ・・・」
「もう振られたけどね」
「萌加が?嘘!」
「ほんと。馬鹿よね、本城。こんないい女を振るなんて」
「・・・ふふ。ほんとだね」

ナツミは久々に心からの笑顔を見せた。
そして、私に訊ねてきた。

「ねえ。お金より大事なものって何?」

こんなセリフ、健次郎とかが言えばただの嫌味だけど、
ナツミは本当に疑問に思っている。

ナツミの周りには、そんなことを教えてくれる人間がいなかった。
私も教えようとはしなかった。

一度でもナツミとそんな話をしていれば、
ナツミは本屋さんにあんな振られ方はしなかったかもしれないのに・・・

自分の冷たさに呆れてしまう。

「お金は大事よ。私も、今の生活を捨てろって言われたら、耐えられないもん。
でも、本城のためになら捨てられる」
「・・・」
「お金より大事なものって、そういう気持ちなんじゃないかな」
「・・・そうね」

しばらくの間、ナツミは何も言わずに一人で考えていた。
私も、今はそっとしておいた方がいいと思い、黙ったまま食事をする。

そして、10分くらいたった頃だろうか。
ナツミが、しっかりとした瞳で私を見つめて言った。


「私、彼に会って来る」



 
 
 
 
 
 
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