第2話 龍聖 「彼女」
 
 
 
「毎日毎日、よくやるよなー」

健次郎がため息をついた。
でもそれは嫉妬から来るため息ではなく、本当に呆れている、という感じだ。

いや、呆れられるのはお前の方だから。
鈍いったらありゃしない。

でも俺は、わざわざ健次郎の機嫌を損ねる必要もないと思い、
適当に「ほんとだな」と、相槌を打った。

だってこいつ、キレたらちょっとヤバイ。

それなのに、健次郎に負けず劣らず鈍いナツミが首を傾げて言った。

「でも、萌加、どうして『餌付け』なんてしてるんだろ?」
「そりゃアイツを、自分のペット、つーか、便利屋にしておくためだろ」

健次郎が鼻を鳴らした。
おいおい、本気でそう思ってるのかよ。

「そう?でも、萌加がアノ子に命令してるのとか聞いたことないなあ」

そりゃそうだ。
「コイツは私のペットよ」みたいな雰囲気をわざと振り撒いてはいるけどな。

だけど相変わらず鈍い健次郎は「そーかあ?」とか言ってる。


村山健次郎は、堀西の中でもちょっと特殊な存在だ。
親がホテル王・・・正確にはラブホテル王だから、ってのが大きな理由。
早い話が、ちょっとヤクザな家なのだ。
いや、家自体は立派に普通の大金持ちだけど、親父さんの仕事上、
ヤクザなんかと関係があったりするらしい。
「由緒正しい」の手本みたいな俺の親からみたら、健次郎の家はかなり野蛮だろう。

だけど、俺はなんだかんだ健次郎といることが多い。
バカだし鈍いし、どうしようもない奴だけど、
自分と違うタイプ過ぎて、見ていて面白い。
口さえ開かなきゃ、見た目はそこそこいいんだけどな。


もう一方の鈍いお嬢様・寺脇ナツミは、それこそうちの親も「これは、これは」
と頭を下げるほどの「由緒正しい」お嬢様。
それも、神楽坂萌加みたいな高飛車なお嬢様じゃなくて、正真正銘の箱入り娘だ。
世間を知らなさ過ぎるって言うか、純粋過ぎるって言うか。

まあ、俺から見ればナツミも健次郎同様「バカ」の部類に入る。
そういう意味じゃ、萌加は頭がいい。いや、計算高い。
例の「餌付け」を見ていてもわかる。

だけど、さすがの萌加もこればかりは相手が悪い。
一見、萌加が主導権を握っているようで、実はアイツが萌加を操っているんだと思う。
萌加もそれに気づいているだろうけど・・・ま、惚れた弱みってやつだな。

って、俺も人のことは言えない。


「ねえ、そういえば、龍聖は彼女とどうなの?」
「・・・」

ほらきた。
ナツミって、ボケボケしてるくせに、たまにこうやって鋭いこと言って来るんだよな。

でも俺はいつも通りの「王子様スマイル」(萌加がそう呼んでいる)で答える。

「ああ、うまく行ってるよ」
「さすが、龍聖だな。5歳も年上なんだろ?えーっと、今、大学2年生?」
「3年生だ」
「あ、そっか」

足し算くらい頑張れよ、健次郎。

「でも龍聖はかっこいいから、彼女も龍聖に夢中なんだろうね」

ナツミがまた無邪気にドキッとすることを言ってくる。

夢中?彼女が?俺に?
そんな訳ないだろ。
夢中なのは俺の方だ。
彼女にとっては俺なんて、コレクションの一つに過ぎない。

だけどやっぱり俺は相変わらずの笑顔で「もちろん」と答えた。


ちょうどその時、彼女からメールが来た。
俺は一応二人に断ってから携帯を開く。
別に何も言わずに携帯いじったっていいんだけど、
こういうことをきちんとしないと、俺はなんか嫌なんだ。

「今日、会える?」

会える?だって?
もちろん!
俺が彼女からの呼び出しを断ったことなんて、一度だってない!

彼女だってわかってるくせに、「会いましょ」じゃなくって「会える?」とメールしてくる。

彼女の本心は俺も知ってるのに・・・
それでも彼女のこんなところをかわいいと思ってしまい、
心底喜んで「会えるよ」と返信してしまう俺。



ほんと、萌加のことは言えないよな。



 
 
 
 
 
 
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