第21話 龍聖 「結論」
 
 
 
「じゃあ、ナツミはまだアルバイトしてるのか?」

俺は驚いて、思わず立ち止まった。
けど、人通りが多いこんなところで突っ立ってたら迷惑だ。
すぐに歩き始める。

「うん。まさかこんなに続くとは」

萌加も、信じられないよねとでも言うような顔をする。


俺達4人の中でも、特に働くこととは無縁だったナツミ。
それがもう1ヶ月以上もアルバイトを続けている。
いくらあの「本屋さん」に誘われたからと言っても、ギネス級の記録だ。

「あ、もう『本屋さん』じゃないよな。保母さん?男だから保父さん?」
「保育士さん」
「なるほど。でも、そういう仕事だから、ナツミも続けられるのかもな」
「そうね。でもナツミだと、園児なんだか先生なんだかわからなくなりそう」
「はは、確かに」

俺は空を見上げながら笑った。


お互いの失恋以来、萌加とはたまにこうして出かけたりする。
気晴らしになるからな。

それと本城。
こっちもお互いぶっちゃけ話をしたせいか、よく話すようになった。
ヤクザ世界の話を聞きたがる俺に、本城は「物好きだな」とか言いつつ(本城に言われたくない)、
色々教えてくれる。
本城がそのヤクザの家に住みこむ時、「コレを目的地まで運べたら住ましてやる」とテストされ、
麻薬を運ばされたけど実はそれはチョークの粉だった、とか、
組長の女を、組長の息子も気に入ってしまい、その女は両方と寝てる、とか。

ちなみにその「女」っていうのが、本城が萌加に「彼女だ」と言った女らしい。
つまり、本城の姉貴分。

なかなか面白い。


「そうそう。その本屋さん、じゃなかった、保育士さん、
海光かいこう学園の高2らしいよ」
「海光!?海光ってあのWK(ダブル・K)!?」
「うん。ナツミは『聞いたことない学校だよね』とか言ってたけど」
「・・・」

海光学園を知らない奴なんて、日本中探してもナツミくらいだろう。

海光学園、通称WK(ダブル・K)。
将来の日本の経営トップ陣育成を目的とした、中高一貫のスーパーエリート学校だ。
確か毎年50人くらいしか入学できなくって、日本全国から受験者が殺到するとか。

すげー。
そんなとこに通ってるのか、その保育士さん。
そういやナツミが「バイトも授業の一環らしい」って言ってたな。
海光なら、そういう授業もありそうだ。

「寺脇コンツェルンの跡取りにはもってこいだな」
「そうね。ってちょっと話が飛躍しすぎじゃない?付き合ってる訳じゃないみたいだし」
「そうなのか?」
「うん。その保育士さん・・・名前、なんて言ったかな。面白い名前だった。
えーっと・・・そうそう、『ノエル』だ」
「ノエル?なんだそりゃ」
「変な名前でしょー?」

いや、「モカ」には言われたくないだろ。
しかも「萌える」に「加える」って。
どんだけ萌え萌えしないといけないんだ。

俺の冷ややかな視線に気づかず、
萌加は、クリスマスをイメージした華やかなショウウィンドウを見ながら言った。

「そのノエルって人、クリスマスイブが誕生日なんだって」
「あー、それで『ノエル』か」
「ナツミに、『クリスマスはそのノエル君と過ごすの?』って聞いたら、
『バイトがあるからそれどころじゃない!』だって」
「あはは」
「クリスマスは、毎年ナツミとショッピングとかしてたから、今年は暇だわ。どうしようかな」

・・・そうだ。
俺は、ふと思い出した。

「じゃあ本城と過ごせよ」
「はあ?」

萌加が、何それ、という風に呆れた顔をする。

「そんなの本城が嫌がるでしょ」
「いや、本城も萌加のことが好きらしい」
「はああ?」
「でも、自分のお家柄じゃ萌加と釣り合わないからって、わざと萌加を遠ざけようとしたみたいなんだ」

本城の言ってることはわかるが、このままだと萌加がかわいそうだ。

本城の気持ちを汲んで自分も身を引くか、
それでも本城と一緒にいることを選ぶか。

萌加にも選択する権利がある。

「・・・何を今更。龍聖、それいつ知ったの?」
「あー、萌加が振られて俺の部屋で泣いてた次の日、かな」
「もう1ヶ月以上も前じゃない。どうしてもっと早く言ってくれなかったのよ?」

あれ?
そう言えばそうだな。
なんで俺、もっと早く萌加に言ってやらなかったんだろ。
忘れてた訳じゃないのに。

「って、萌加。なんで嬉しそうじゃないんだよ。本城がお前のこと好きなんだぞ?」
「え?ああ・・・うん、嬉しいけど・・・」

萌加も首を傾げる。
俺も首を傾げる。

うーん。

そのまま2人でしばらく考えてたけど、
「まあ、いっか」という結論に落ち着いた。



 
 
 
 
 
 
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