第24話 健次郎 「横槍」
 
 
 
今日は家に帰ってきた。
なんでかって?

萌加が急に、風邪を引いた龍聖を見舞いたいなんて言って、
男子寮に来たからだ。

最近あの2人は仲がいい。
いや、前から仲はよかったが、最近は男と女として仲がいい。
もちろん俺としては面白くないけど、萌加にきっぱり拒絶されて以来、
俺も萌加への気持ちがちょっと冷めた。
だから、もういい。

だけど今頃、寮の龍聖の部屋で2人がやってるのかもしれないと思うと、なんとなく寮にいたくなくて、
家に泊まることにしたのだ。


ところが。
俺が家に入ると同時に、一人の男が家の中から出てきた。
赤い髪に、金のピアス。
歳は20代前半と言ったところか。
って、そんなことはどうでもいい。
なんでこんなチンピラみたいな奴がうちにいるんだ。

「大谷さん!今日は、どうも・・・あら、健ちゃん」

大谷っていうらしいチンピラを追いかけてきた俺のお袋が、
俺を見て目を丸くした。
帰るって連絡してなかったからな。

「村山さん。それじゃー失礼します」
「あ。今日はありがとう。さよなら」

お袋は、この手の人間が嫌いなはずだ。
親父の仕事上、どうしてもこういう人間を相手にしないといけない時も、
決していい顔はしない。

それが今日はどうだ。この笑顔。
何かよほどいいことがあったらしい。


「母さん。さっきの奴、誰?」

大谷って奴が家を出た後、俺はリビングでお袋に訊ねた。
お袋は相変わらずニコニコしている。
でもよくみると、普通の笑顔じゃない気がする。
なんかちょっと・・・危ない。

「大谷さんて言って、お父さんのお仕事の関係で一度お世話になったことがあるの」

お世話、ねえ。

「今日も親父の仕事関係で?」
「いいえ。今日は私が前に頼んだお仕事の結果報告に来てくれたの」
「・・・母さんが頼んだ仕事?」
「そうよ」

お袋は得意そうに笑った。
・・・なんだよ。
なんか、嫌な予感がする。

「前に健ちゃんを殴った本城って子、いたでしょ?」

本城?
なんで急に本城が出て来るんだよ!

「あの子、結局なんの処分もなしだったんでしょ?」
「・・・ああ」

俺から萌加を助けただけだもんな。

「だから、変わりに私が『処分』してあげたの」
「・・・はっ?」

俺は思わずソファから立ち上がった。
「処分」?なんだ、それ!?

いや、今日、本城はちゃんと学校に来てた。
あいつは部活があるから、まだ学校のはずだし・・・「処分」って何したんだ?

俺が呆然としているのを見て、お袋は更に得意気になって言った。

「あの子に直接何かするより、あの子のお姉さんにした方が、2人ともショックが大きいと思って」
「・・・お姉さん?あの時、校長室に来た?」
「そうよ。あの女・・・私たちを散々コケにして・・・許さない」

お袋の顔が急に獰猛になる。
昔からそうだ。
お袋はキレると手がつけられない。

俺は青くなった。

だって、あのチンピラが女に対して「処分」って・・・
やることは決まってるよな。

おいおい。
いくらなんでも、そりゃマズイだろ。
犯罪だ。

「健ちゃん?どうしたの?」
「・・・母さん。やりすぎだろ」
「大丈夫よ。バレないわ。バレても捕まるのはさっきの大谷だけ」

大谷がお袋のことをしゃべったら、うちも危ないけどな。
でもお袋はそんなこと考えもしてないらしい。
自分が直接手を下したわけじゃない、だから安全だ、ってか。

くそっ!馬鹿め!!



俺はイライラしながら自分の部屋へ入った。

別に本城や本城の姉貴がどうなろうと知ったことじゃない。

でも、やっと俺も萌加のことを吹っ切れて、
今日は久々に普通に話せたんだ。

萌加も本城のことを諦めたのか、今は龍聖と一緒にいる。
ナツミも、笑えたけど本人は至って幸せそうだった。

やっと・・・やっと昔みたいな4人に戻れそうなんだ。

今、変な横槍を入れないでほしい。


俺は、鞄をベッドに叩きつけた。


本城の姉貴はどうなったんだろうか?
本城はもう知ってるんだろうか?


くそっ!!!!



 
 
 
 
 
 
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